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『アイアンクロー』

実在のプロレスラー一家に起きた悲劇的な出来事をもとにして作られた映画です。フリッツ・フォン・エリックの名前はプロレスについて調べていた頃聞いたことはあって、鉄の爪《アイアンクロー》という、相手の顔面を掴み握力でもって強烈な痛みを与える技もYouTubeの動画なんかで見たことはありました。んでもその人間性がどんなもんなのかってことはさっぱり知らず、今作『アイアンクロー』についてもA24製作のプロレス映画ということ以外は事前情報をほぼ仕入れず観に行ったのですが……こんな人だったんですね。
いやー、毒親です。やべえです。
プロレスで世界チャンピオンになる夢を諦めきれないため、息子たちを次々にプロレスラーとしていくのですが、やり方がすっごい強権的。息子たちに序列を付けて評価をしたり、盲目的に信奉させたり、その上何かしら問題が起きそうになっても「兄弟の問題は兄弟間でなんとかしろ」と、面倒ごとは我関せずの姿勢を取ります。さいてー。母親は母親で父親のやることに口出しはせず、一定の距離から静観を続けている(ように見える)し、こんな一家私は無理だなあ。
この一家は「呪われた一族」と言われていて、なんのことはない、フリッツ・フォン・エリックその人が呪いの元凶なわけです。5人兄弟のうち長男は映画がはじまった時点で既に亡くなっていて、これは5歳の時に亡くなっていることが原因なのでプロレスとは直接的には無関係ですが、その後は史実通り次々とプロレスに関わった兄弟たちに不幸が訪れます。史実通りなので仕方ないとは思いつつやっぱり見ていて辛いです。この先良くない出来事が起こるであろう雰囲気、いわばフラグとなる要素・台詞がそこら中に配置されているため、頑張って栄光に近づいているという描写がイコール転落の前段階にしか見えず、見ていて不安で悲しい気持ちに。ハイテンポでハイテンションな音楽とは対照的に暗い暗~い雰囲気に満ちています。
そして後半からはもうずっと悲劇的。実際どんなことが起こるのかはちょっとwikipediaなんかを調べればわかりますのでここでは書きませんが、どんどん兄弟の数が減り、家族内の雰囲気が悪くなり、みんなの精神が摩耗していく様子はまるでホラー映画のようでした。てかケリーとマイクに不幸があってからみんなで食卓を囲むシーン『悪魔のいけにえ』の食卓シーンばりの嫌さがあったぞ。構図とかもどことなく似通ってたし、寄せてるんだとしたら悪趣味だなおい(意図はよく伝わるけど)。
そうしてデスゲームばりのテンポで兄弟を失っていき、最後に残った次男のケビンくん。ラスト付近でついに父親に対してブチぎれ、馬乗りになった状態で締め殺そうとします。ここまでの過程をよく知ってる状態の観客としてはいいぞっ、もっとやったれ!と思いながらふたりの取っ組み合いを鑑賞。でもプロレスラーとしての理性が働いたんでしょうね。ケビンくんは寸でのところで首絞めを止め父親の元を去るのでした。それにしても父親であるフリッツはこれほど息子を失ってなお、自身のせいだとは思ってなさそうだし、救いがないなーと思います(だから最後、家へ戻りプロレス以外の何も無い虚無的な状態になってるのを見て哀れだなぁと感じました)。
なんだかこうして書いていくと悲劇だらけの暗い映画なのかと思われそうですね。それは間違ってないです(間違ってないのかよ)。しかしこの映画に流れるノスタルジックな雰囲気、黄昏の場面、兄弟たちが仲良さそうにフットボールに興じている場面、タッグで出場した試合の場面、それらは見終わったあと妙に印象に残るのです。美しかった記憶として。この映画は「呪われた一族」の歴史を観客に追体験させることで、彼ら死んだ兄弟たちのことを私たち観客の胸に刻みつけ、彼らの死をただ痛みに満ちただけの記憶とはさせまいとしているのではないでしょうか。プロレスに人生を捧げ、プロレスに人生を狂わせられた兄弟たちを悲しみのまま逝かせるのではなく、彼らを思い出すとき「懐かしく美しい日々だった」と私たちの胸に刻み付けるために。するどい痛みを伴いながら、やさしい記憶として思い返してもらえるように。
だからでしょう、最後に”彼岸”で兄弟たちが再会し、幸福に満ちた顔をしている姿をみて、私は感極まって泣いてしまいました。
ジャック、デビッド、ケリー、マイク。彼らの記憶は私の胸に爪痕として刻まれました。

あと、『ハイスクール・ミュージカル』などに出ていた主演のザック・エフロンの肉体改造がすごいです。筋肉のかたまりみたいな状態になってます。『レイジング・ブル』のデ・ニーロを彷彿とする変わりっぷり。ザックファン、あるいは筋肉フェチは見なきゃ損だ。集えザックファン&筋肉フェチどもよー。

昨日アップした『パストライブス』が色々考えすぎてなんだか上手くいかなかったので、今日見た『アイアンクロー』についてはただ思い浮かんだことをそのまま書いてみました。そうして出来上がったのがこの記事です。自分的にはこういう肩の凝らない文章の方が書くの楽なんですが、もっとキリッとした文章を書きたいという気持ちもあるんだよな。どっちも読んだ人的にはどっちの方がお好みなんでしょう。ちと気になります。
さらに補足情報:傘籤が好きなレスラーはエル・デスペラードです。


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