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「#私の最愛海外文学10選」を生成

最近「#私の最愛海外文学10選」というタグをよく見かける。X(旧Twitter)で流行っているタグらしく、色んな人の10選を眺めていると読書欲が湧いてきて楽しい。相互さんもこれについての記事を書いていて、読んでいたら自分もやりたくなったので便乗してみることにした(下記リンクが参考にさせていただいた方の記事です)。「文学」の定義は人によってさまざまなので、ここではとりあえず「日本以外の国の言葉で書かれた小説」くらいのゆるい基準で選んでいます。なのでジャンルはてきとー。まあ偏ってなんぼでしょうこういうもんは。


ダンテ『神曲』

おそらくは聖書に次いであらゆる創作物に影響を与えているであろう書物『神曲』。書かれたのは13世紀頃であり、聖書、神話、歴史、哲学、神学といった要素が百科全書的に物語に組み込まれています。お話は地獄に迷い込んだダンテくんが、古代ローマの詩人ウェルギリウスと出会い、天国を目指しながら異界巡りをするというもの。途中でベアトリーチェというダンテにとっての女神みたいな存在と再会し、最終的には「愛ってすばらしい!」という気づきを得るのでした。おしまい。
私が読んだ版はドレによる挿画付きの【完全版】で、なんだか分からないけど壮大なビジュアルを絵で補完してくれてます。ドレの絵好きー、かっこよ。内容が内容だけに集中して読まないと何が起こっているのかわからなくなりがちですが、それぞれの章の始めには訳者による概略が用意されているので、ここさえちゃんと読んでいれば何となくでついて行けるでしょう。また、章の終わりごとに細かく解説が載っているので、より深く知りたい、あるいは意味がわかんなかった、という方には理解の助けになると思います。まあそこまできっちりしっかり読まなくても、ファンタジー世界でお散歩する話を絵付きで読めるー、くらいの気持ちで読んでも十分楽しいんじゃないかと。


ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』

他の記事でも書きましたが、手ごわそうなイメージに反してミステリーっぽい要素やクセの強い登場人物などから小説としての面白さもしっかり携えており、娯楽小説として見てもちゃんと面白い作品です。「神」や「宗教」といったテーマ以外にも、犯罪と道徳、愛と罪、理性と信仰といった人間精神を語る上で極めて重要なテーマがそこら中に書かれていて圧倒的。そしてそういう要素要素が当然のように物語と溶け合っていて「すっげー!」ってなります。元々は二部構成になるはずだったため続編の構想もあったようですが、これ以上になにか書くことあるのかな、という気持ちになるくらいあらゆることを書き切っています。あ、でも例えばAIが続編書いたらそれっぽい小説が出来上がるのかな。それはちょっと読んでみたいかも。


カフカ『城』

こちらも他の記事で感想は書いてるので短めに。カフカ自身がどういう心境でこの小説を書いたのかはわからないけれど、ここまで「空虚」な感覚を宿らせることが出来ている作品は他になく、その点で奇跡みたいな本だと思います。なんでもかんでも意味を見出す読者を翻弄するような内容だし、その白けた空気感といい、長々と続く登場人物たちの会話といい、もしかしたら壮大なジョークのつもりで書いたんじゃないかって気がしてくる。最近ミヒャエル・ハネケが製作したドラマ映画を観て、やっぱり何を言いたいのかよくわかんない作品だなあとは思ったけど、そういうふわふわした手ごたえの無さも含めて私はこの小説が好きだ。


サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』

ストーリーはあって無いようなもので、二人の男が会話をしながら「ゴドー」と言われる誰かを待ち続けるというもの。不条理劇として有名で、ドラマや舞台劇などいろんな形でリバイバルされている。最近だと映画『ドライブ・マイ・カー』でも使われてましたね。漫才みたいな会話を楽しむもよし、人間の存在意義について思いを馳せるもよし、混沌とした現代との共通項を見出すもよし。受け取り方は自由です。そういう懐の深さこそが本作の魅力でもあるのですから。このゆるくて、どこかずれたテンポに身を任せて今日も私はゴドーを待つ。虚無にひたるのは気持ちいいね。


ボルヘス『創造者』

ボルヘスによる詩文集。一文ごと、一単語ごとに宇宙を閉じ込め、悠久の時間と広大な世界を旅するような、そんな本。詩ってあまり読まないのだけど、これは語り手の感情についてというよりも、「言語」や「世界」といった概念についての詩で自分の好みにピタリと合致した。無から言葉が生まれるとき、言葉は世界を生み、その夢は私たち読者の心へと浸透していく。「雨」「月」「死」「鏡」「迷宮」といったボルヘスの作品によく現れるモチーフはここでも顕現しており、凝縮した言葉の中に次々とイメージが浮かんでくる。嗚呼、ボルヘスの宇宙を幻視する歓びよ。


グレッグ・ベア『鏖戦/凍月』

昨年逝去したSF作家グレッグ・ベアの中短編集。収録しているのは1980~90年代頃の作品だけど、これは今年読んだ中でベスト級に面白かった。特に「鏖戦」は酒井昭伸によるゴリゴリした質感の翻訳が素晴らしく、文体の異化効果でいとも簡単に遠未来へ連れて行ってくれる。
宇宙を舞台とした恒久的な戦争状態と、次々に投入されるSF的な仕掛け、その中で戦う個と個の対比。悠久の時がもたらすヴィジョンに圧倒され、リリカルな何かが胸に押し寄せる。造語の数々に面食らうとは思うが、とにかくとにかくかっこよくて変な脳汁出っ放しの傑作中編でした。私のツボを突いてくれてありがとう。


ウィリアム・ギブスン&ブルース・スターリング『ディファレンス・エンジン』

ウィリアム・ギブスンとブルース・スターリングの共作長編。歴史改変SF小説であり、一般的にはスチームパンクに分類されている本。19世紀のロンドンを舞台に蒸気コンピューターが完成し、それが実用化されていたとしたら、というイフの世界をシミュレーションした内容で、ディテールのみで出来上がってる小説といっても良いくらい作中世界のアイディアはてんこもり。ストーリーそのものより百科全書的な部分を楽しむ作品なので、実験的な要素が多く人を選ぶ確率が高いです。「テクノロジーの発達による社会の変容」についての話でもあるためサイバーパンクと言っても間違いではないでしょう。この小説が無ければ『屍者の帝国』どころか『Self-Reference ENGINE』も『虐殺器官』も誕生していなかった可能性があると考えるとその偉大さをひしひしと感じます。


グレッグ・イーガン『しあわせの理由』

表題作の「しあわせの理由」は自分が読んできた短編作品の中でもトップクラスに好きな作品。でも他の収録作品もすげえ良くて「ボーダー・ガード」は頭ん中かき回される感覚になるくらい意味わかんなくて笑えるし、ビジュアルのインパクトありすぎな「愛撫」なんかも絵画好きなら必読級の面白さ。バリバリの理系SF作家であるイーガンは、同時に哲学的なSFも平気で書けちゃう人で、特にこの短編集はそういったものをわかりやすい言葉と物語でかたちにしていて超親切。イーガン入門にうってつけの作品なので、ちょっとでも気になったら手に取ることをおすすめします。「よ、よくわかんね~」となっても責任はとれませんが。


劉慈欣『三体』シリーズ

いまやすっかり定着し、日本においては2年前に出た作品であるにも関わらずもはや古典の域にある『三体』。1巻と2巻の流れは個人的に大好物で、ページ単位の密度も、全体のページ数もかなり容量が多いも関わらず、夢中になって読んだ思い出。それらすべてをぶち壊す3巻は、登場人物も含めて好き嫌いが分かれそうな内容だけど、これほど大きな風呂敷を奇跡的なバランスで見事に折りたたんだ時点で傑作なのは間違いない。SFだけが持つ感動をこれでもかと魅せてくれた作品。お腹いっぱい胸いっぱい。


テッド・チャン『息吹』

一番好きな話は「商人と錬金術師の門」。傑作すぎて何回も読みたくなるし、読むたびに泣きそうになる。つうか初読時は実際泣きました。発想の良さ、物語をまとめる能力、無駄がないのにあらゆる方向に視点が向いてるバランス感、文学的でもあり、哲学的でもあるのに誰にとっても分かりやすく、そこはかとない優しさに満ちている。現代SFにおける意識の問題とかヒューマニズムの在り方とかを最新の知見を使いながら何十年先でも伝わるような言葉と物語にしており、どれもこれもが美しい。今んとこテッド・チャンの小説は2冊しか出てないわけだけど、この2冊を読んでるだけで現代SFの最良の部分に触れられるという点で大変お得です。テッド・チャンがSF作家になってくれているユニバースにいる私は幸せ者だあ。

以上、#私の最愛海外文学10選でした。
あれも入れたいこれも入れたいで、選ぶのに時間がかかりましたが、こういう企画はどの作品にしようか考えてる時間が一番楽しいですね。X(旧Twitter)では#名刺代わりの小説10選というタグも作っていて、今回はあえてそこに入らなかった作品から選んでみました。なので「最愛」という定義からは若干ずれていることをご了承ください。好きな本が更新されるっていうことは得難い読書が出来たということでもあるので、この10選が一新されることが理想なのかも。他の方の10選を眺めてると読みたい本がますます増えるし時間がもっとほしい。ドラえも〜ん、「時門」出して〜。


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