期脱ブログ1

「期間工バブル」から、ライフプランを考え直す。

自動車期間工の世界では給与が高騰する「期間工バブル」になっています。しかし、この現象は日本が抱える問題の「人手不足」の影響であり、多くの仕事が直面している「低コスト化」の流れの中にあるのです。今回は「人手不足」と「低コスト化」の影響を整理して、誰にでも共通するライフプランの選択について考えてみます。

現在の期間工は高報酬=期間工バブル

私は現在とある自動車工場で派遣社員として働いています。いわゆる自動車期間工です(正確にはメーカー直接採用の従業員を期間従業員と呼びますが、仕事や待遇などがほぼ同じなので派遣社員も「期間工」とまとめて呼ばれることが多いです)。
この自動車期間工ですが、2017年から現在までの短期間で給与が加速度的に高騰するという、言うなれば「期間工バブル」の状態にあります。
期間工には入社した従業員に「入社祝い金」が支給される制度があります。この入社祝い金が西日本に工場を持つマツダの場合、2016年に15万円支給だったのが、2018年現在45万円支給となっています。愛知県のトヨタも10万円だった入社祝い金が45万円に増額されました。求人広告でアピールする「月収目安(各種手当を含めた予想給与)」も30万円前後だったのが35〜40万円まで上がった会社もあります。

参考:TOYOTA(トヨタ自動車)の期間工・期間従業員の求人情報|Man to Man
マツダ/広島・山口の期間工・期間従業員募集|期間工.jp


このように各メーカーが競って報酬を上げる「期間工バブル」の時期にあって、自動車期間工は他業種の非正規採用の仕事より給与面で有利に見えます。

私が自動車期間工に興味を持ったのはこの期間工バブルが目立ちはじめた時期でした。高額な給与をうたう求人広告を見て、私は次のように考えて求人に応募したのです。
期間工の収入なら、今後の生活が楽になるはずだ
期間工の収入があれば、やりたい仕事(私の場合ライターなど)にステップアップする資金になる
私がこのように安直に考えたことですが、言い換えると次のようになるでしょう。私は給与の高騰に釣られて、安易な人生設計=ライフプランで期間工に飛びついたのです。
私が期間工になってから約1年、ライフプランについての考えは正しかったのでしょうか。

私のライフプランの是非を述べる前に、そもそもの期間工バブルがなぜ起きたかを考える必要があります。noteの利用者層で自動車期間工に興味がある人はほぼいないと思いますが、期間工バブルは日本全体が抱える問題が形を変えたものなのです。期間工バブルの背景から、多くの人のライフプランに影響することになる日本の問題について考えてみましょう。

期間工バブルそもそもの理由、人手不足

そもそも自動車メーカーが給料を上げて従業員を募集するのは、従業員となる人手が不足しているからです。自動車工場の仕事は体力的な負担などで人気がありません。工場によっては作業を補助する設備の導入など、働きやすくなったことをアピールして従業員を集めていますが、それでもこの先さらなる人手不足に直面するはずです。なぜなら日本は少子高齢化による労働人口の変化が極まりつつあるからです。
少子高齢化問題を知らない読者はいないと思いますが、単純に「日本人が減る」と言う話ではなく、もっと具体的に働ける年齢の人が現段階でかなり減っています。


参考:総務省統計局ホームページ人口推計(平成28年10月1日現在)‐全国:年齢(各歳),男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級),男女別人口‐


問題は人口の年齢比率で、日本は第一次ベビーブームの70代前半と第二次ベビーブームの50代目前の層が飛び抜けて多く、その下の若年層は減少しています。要するに、現在の日本人の数は大して減っていないが、退職した・もうすぐ退職する人の比率が働ける人より多くなっているのです
50代目前という年齢は体力が衰えて自動車製造業の職場で働くのが困難ですから、自動車メーカーは40代前半より若年の、日本では人口比率が減少した層から従業員を確保することになります。
他業種に比べて自動車期間工の給料が高いのは、期間工は他業種より早く人口比率の変化による影響を受けているからだと言えます。
自動車メーカー以外の企業であっても、日本はこの先さらに高齢者の比率が増えますので、人口比の少ない層から従業員を集めなければなりません。

従業員の確保がますます難しくなるなら、企業はさらに給与を上げて人を集めるようになるのでしょうか。自動車期間工の場合、期間工バブルはさらに過熱し続けるのでしょうか。結論から言うと期間工バブルは今後沈静化するはずです。他業種においても人手不足による賃金上昇は長期的には見込めないと考えられます。
日本人口の年齢比率の変化について、先ほどは「働ける人の比率減少」という形で触れましたが、同じ変化は「ものを買える人の比率減少」という側面もあります。高齢になり退職した人には働いて得る収入がありませんので好きなだけ買い物をすることができなくなります。日本はものを買えない人の比率が高くなるのです(というか高齢者の社会保障を負担する若年者層も既に収入が減っているので、ものを買えない人がほとんどになると思われます)。
ものを買う人が減ることはものを売る全ての企業にとって大きな負担です。多くの企業は利益が減り、経営が苦しくなっていくでしょう。
特に自動車という高額な商品を扱う自動車メーカーへの影響は大きいでしょう。日本国内で自動車を買える人は確実に減りますので、自動車メーカーの日本国内での経営は今後厳しくなります。
そんな状況で自動車期間工の給与だけを上げ続けることは現実的ではありません。自動車メーカーは売り上げが減ってお金が無くなり、期間工に高い給与を出すことができなくなる時期が近づいているのです。

仕事の低コスト化

人手不足の問題は「働ける人が減って従業員確保が困難」であり、さらに「もの買う人が減って経営が苦しい」という2つの点にまとめられました。企業はこれらの問題にどう対応するでしょうか。そして企業で働く従業員の仕事はどう変化するでしょうか。
先ほど述べた通り企業は売り上げが減りますので、従業員に支払う給与も減ることになります。言い換えると、従業員の仕事が低コスト化されます
しかし給与が減ったままでは従業員が集まりませんので、企業は次の2つの対策で従業員を確保しようとすると考えられます。
1. 人口比率が減っていない層から従業員を確保する。
従業員確保にコストがかかるのは人が減ったからなので、減っていない人を従業員にすればコスト削減になります。具体的には日本国内の50代から60代の高齢化した層を雇うことになります。あるいは労働人口が減っていない国の人、つまり外国人労働者を雇えばコスト削減になると考えられます。高齢者や外国人労働者の導入はコンビニ業界などで既に日常となっています。
自動車メーカーの場合60代以上の人を雇うことは現実的ではありませんが、工場での作業を補助する設備を導入して50代くらいの人でも従業員として確保する可能性があります。外国人労働者の導入も不可能ではありません。日本の自動車会社は海外の自動車工場を操業するノウハウがありますので、外国人労働者を従業員にすること自体は可能なのです。
2. 給与以外の条件で従業員を集める。
従業員確保の競争にコストがかけられないので、企業はお金のかからない工夫で人を集めようとするでしょう。具体的には休日を増やす、福利厚生の充実をアピールするなどです。企業はいわゆる「働きかた改革」によって、給与が低くても働きやすいことを重視して従業員が集まることを期待すると思われます。
自動車メーカーで既にこの傾向が強いのがトヨタ自動車です。トヨタ自動車は社員の健康管理だけでなく、グループ会社で住宅、保険、金融、教育などの生活全般の基盤を供給し、長く働ける環境を作っています。
以上の2点が「仕事の低コスト化」という仕事の変化の具体的な中身です。

ライフプランを考え直す

これまでの話を整理しましょう。安易なライフプランで期間工バブルに飛びついた私でしたが、期間工バブルの背景には日本の人手不足という大きな問題があるのでした。そして日本の人手不足は仕事の低コスト化という、大きな変化を自動車メーカーや他業種の大半の企業にもたらすと考えられます。
以上の変化はライフプランの選択にどう関わるのでしょうか。

低コスト化した仕事では給与が減ると予想されます。その上で企業は「働きやすさ」によって従業員を集めようとするでしょう。このことは働く人の視点から見ると、ライフプランの選び方が限定されることを意味します。
低コスト化した仕事では従業員確保のために「働きやすさ」が上がって仕事を続けやすくなっているかもしれません。ですが給与が減っていては少しの貯金を作るために非常に長い時間がかかるでしょうし、あるいは貯金したり自由に使えるお金も手に入らないかもしれません。
要するに仕事が低コスト化した状況では、働きながら自分のやりたいことをしたり、準備したりというライフプランを選ぶことが困難になるのです。逆に、自分のやりたいことのために時間やお金を使いたいなら、働く以外の方法で資金などを準備するのが不可欠になります。
要するに、これからの時代は働くこととライフプランの選択の関係が二極化するということです。働くということはその仕事で生活し続けるというライフプランに限定され、自分のしたいことを実現するライフプランは仕事以外の実現手段を見つければなりません。

この記事のはじめで触れた、私のライフプランの考え方はどうだったでしょうか。
「期間工の収入なら、今後の生活が楽になるはずだ」
「期間工の収入があれば、やりたい仕事(私の場合ライターなど)にステップアップする資金になる」
私のライフプランは働き続けて生活する選択と、自分のやりたいことを実現する選択のどっちつかずになっていることがわかります。ですが、将来は仕事の変化によりライフプランの選択肢が極端になっていくと考えられます。私が考えを改めないままだとどうなるでしょうか。もし私が働き続けた場合、生活を維持することはできるかもしれませんが仕事が低コスト化したことによってやりたいことをできなくて後悔するでしょう。反対に仕事をやめていても、ライフプランの選択をしっかり考えていなければ生活が苦しくなった時後悔するはずです。
私のライフプランの考え方でもっとも良くなかったことは、何を選ぶかはっきりしなかったことです。ライフプランの選び方が極端になっていく時代で中途半端なままでいては必ず後悔するでしょう。生活の維持を選ぶならはっきりと働き続けることを、やりたいことを実現したいなら実現する行動をはっきりと選ぶべきでした。

人手不足の日本では生活の維持か、やりたいことの実現かのライフプランの選択が極端になっていくと考えられます。その状況の中にあってはっきりとした選択をしなければ後悔することになるでしょう。