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【初投稿】2019年個人的美術展10選

 初投稿なのに自己紹介がなくてごめんなさい。このnoteの方針が固まったら自己紹介を投稿しようとおもいます。今回は2019年に私の行った美術展10選です。 

 最初は「展覧会TOP10」にしてもいいのかなと考えていたんですが、映画と違ってどうにも評価軸が定まらず序列を付けづらいと感じてしまい、あくまで鑑賞した順番で印象的だった10の美術展(芸術祭含む)を紹介しようと思います。私の習慣であまり展示を撮影しないため、写真が殆どありませんがご了承下さい…

①Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー @兵庫県立美術館

 のらくろから柳幸典,Chim↑Pomまで、日本の近現代美術や大衆文化のアーカイブ資料から「大衆」と「英雄」の共犯関係を考察する展覧会。月光仮面の作者とグリコ森永事件の犯人のやり取りの記録など多岐にわたる歴史的資料も観ていて興味深かったし、なにより4人の作家による新作も展覧会が”ストーリー”を構築する上で重要な役割を果たしていたのが良かった。特に会田誠の新作の〈MONUMENT FOR NOTHING V〉の迫力が凄まじかった。

②IMPOSSIBLE ARCHITECTURE もうひとつの建築史 @埼玉県立近代美術館

 何らかの事情で実際に造られなかった,そもそも造ることを想定していなかった近現代建築を紹介する展覧会。私は普段建築展にあまり関心を示さないのだが、未完の建築となると観客に幾分かの想像力が試され実質的な美術展のように楽しんでいた。全体に夢やロマンのある建築が紹介された中で、最後にザハハディットの新国立競技場が展示されていたのが皮肉である。ある種のどんでん返しだが、その分展示が深くなったように思える。

③百年の編み手たち 流動する日本の近現代美術 @東京都現代美術館

 都現美のリニューアル記念の大コレクション展。圧倒的な展示の数と共に美術館の威厳を見せつけられたようだった。ここ30年の収蔵品もなかなか渋いものも多く、美術館としての予算の潤沢さや懐の深さを窺い知れた。戦前,昭和美術のコーナーにおいても中原實や桂ゆきなど独特なフォーカスがなされていて印象的だった。教科書的な展覧会として今後も各美術館のコレクション展を観るときの基準点になるであろう。

④あいちトリエンナーレ2019 情の時代 @名古屋市内,豊田市内各所

 作品の良し悪しに若干のバラつきがあったようにも思えるが、全体としてラディカルな試みの作品が多く良かった。日本人作家も新芸術校出身の作家を筆頭に、これからの日本の美術界を見据えるプレイヤーを一堂に会したような作家選定だった。特に豊田市会場は美術館とまちなか会場のバランスが良く、ここだけで一つの展覧会として完成されていた。ホーツーニェンの〈旅館アポリア〉と高嶺格の〈反歌〉は2019年の個人的ベスト作品の一つ。

⑤Reborn-Art Festival2019 @石巻市内各所

 会場ごとにキュレーターを変える「マルチキュレーター制」を導入して、ポスト北川の地方芸術祭を模索している今の日本の姿を感じ取れた。石巻という自然と人の暴力の地で繰り広げられる作品たちは、まるで土地の生命力も吸収しているかのようだった。網地島エリアのキュレーションはワタリウム美術館で流石のクオリティで、このエリアにあったフィリップパレーノ〈類推の山〉も年内ベスト作品の一つである。

⑥Her Own Way しなやかな闘い ポーランド女性作家と映像 1970年代から現在へ @東京都写真美術館

 ポーランドの戦後女性作家の映像作品を紹介する展覧会。様々な抑圧にさらされてきたからこそ生まれてくる作品は、まさに展覧会の題名通り「しなやかな闘い」であった。まるで夏のあいトリの混沌に対するポーランドからの応援メッセージのようで元気が出た。

⑦カミーユ・アンロ 蛇を踏む @東京オペラシティアートギャラリー

 フランスの作家カミーユアンロの日本初個展。巨大インスタレーション作品〈青い狐〉、PC画面を用いた映像作品〈偉大なる疲労〉でアドレナリンが出まくった。作家の純粋な知的好奇心の探究を観客にも追体験させられているようであった。

⑧岡山芸術交流2019 IF THE SNAKE もし蛇が @岡山市内各所

 フランスの作家ピエールユイグがディレクターを務めた、日本人作家,地元作家が一人も選ばれなかった芸術祭。ポストヒューマニズムを中心にディープフェイクやマイクロバイオームを題材にした作品など、世界のアートシーンの最先端の空気を感じ取れた。それでいて宗教やダンスなど人間の気配を感じ取れる作品も多くありバランスが絶妙である。作品を分断するのではなく芸術祭全体を超個体的に繋げる展示構成も独特だ。ピエールユイグとティノセーガルの(事実上の)共作〈アン・リー〉も年内ベスト作品の一つ。

⑨ART PROJECT KOBE2019 TRANS- @神戸市内各所

 ドイツの作家グレゴールシュナイダーによる神戸の下町を舞台にした連作インスタレーション〈美術館の終焉〉のみの鑑賞。題名から分かるように現代美術館への皮肉を随所に感じ取れる演出が随所に見られ、そこから生物の生と死の問題へと発展していく展示であった。⑦~⑨はそれぞれ似た時期に鑑賞したが、⑦⑧では芸術の無限の可能性を、⑨では逆に芸術の有限性を感じた。

⑩表現の生態系 世界との関係をつくりかえる @アーツ前橋

 アーツ前橋が取り組んできた地域との協働するプロジェクトを下敷きにした企画展。美術展の枠組みを超えた広義の”表現”に関する展覧会という感じで、「そもそも人間の表現はどこから湧き上がるのか」という問いについて深く考えさせられた。近代社会の構造やポストコロニアリズムを連想する作品から生命の原初的なエネルギーに着目する作品までとにかく幅が広く、その上それらがちゃんとまとめられていたのが見事である。この一年ですっかり”表現”は熱い単語になってしまったが、この展覧会はそれをクールダウンさせると共に「表現が不自由になること」の真の恐ろしさを暗に示しているようであった。

 以上が今年の10選です。正直結構悩んだうえでの10選だったので出し惜しみをしたくなく、次点の5つも簡単に紹介したいと思います。こちらの順番も視た順です。

〇ソフィ・カル 海を見る @渋谷スクランブル交差点

 深夜の渋谷スクランブル交差点のビジョンに流れる、海を見る人たちの映像作品。渋谷の喧騒に溶け込むさざ波や街と作品が直接的な関わりを持つ感じが記憶に焼き付いた。

〇クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime @国立国際美術館

 国立新美術館でも行われた個展だが、個人的には国立国際版のほうがずっと良かった。美術館の天井の低い展示スペースがボルタンスキーの”お化け屋敷”感を煽るようで印象的で、特に衣服を積んだボタ山が行き止まりにあったのが怖かった。

〇へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで @府中市美術館

 下手だったりユーモアや愛嬌の溢れる日本画を集めた展覧会。「日本画=なんか上手い」の固定概念を覆された。徳川将軍家の動物画はどうしようもなく下手で愛おしい。

〇志賀理江子 ヒューマン・スプリング @東京都写真美術館

 宮城の写真家志賀理江子の個展。展示空間が一つのインスタレーションのようになっていて印象的だった。

〇引込線/放射線 @所沢市内各所

 所沢でアーティストが企画運営をしてきたビエンナーレ。キュレーションが存在しない分、作家一人一人の自由度の高さが魅力的だった。あいトリの騒動にフォーカスした作品もあり、時代への即応性の高さという意味で他の展覧会を圧倒していたように思える。

 また以下も及第点です。ここからは正式名称と感想省きます。

・光るグラフィック展2 @ギャラリーG8

・横尾忠則 @SCAI THE BATHHOUSE

・自然国家 @原美術館

・ある心の風景1 風景と記憶 @広島市現代美術館

・塩田千春 @森美術館

・モダンウーマン @国立西洋美術館

・ロイスワインバーガー @ワタリウム美術館

・TOKYO2021 美術展 @戸田ビル

・リムソクチャンリナ @nca

・窓展 @国立近代美術館

 来年はオリパラを控え幕の内弁当的な展覧会が増えそうですが、それはそれで楽しみです。また、いよいよ”ポストあいトリ”の芸術祭としてさいたま国際芸術祭、横浜トリエンナーレ、ひろしまトリエンナーレ、札幌国際芸術祭などが一体どんな展開を見せるのか注視していきたいです。

                           2019年12月31日

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