感想の練習3:映画「アシスタント」

公式サイト
https://senlisfilms.jp/assistant/

敬愛する冬野梅子氏がパンフレットのイラストを書いているとかで知り(あっ!パンフ買い忘れた!)、その後「ウーマントーキング」を観た時予告編を見て、面白そうだなと思って観に行ったのだった。

観る者を引きつける、
緊迫のリアルタイムスリラー。

宣伝のこの文句を見て、「スリラーだって!怖そう!」と半ば怯えて劇場に入った。映画会社の新人アシスタントの単調で息苦しく抑圧的な一日を淡々と、余白多めに、静かに描く…それが穏やかな狂気を感じさせ…といいたいところだが、なんだろう、途中ちょっとだけ寝てしまった。見終わったあともエンドロールの曲が短調で不穏なストリングスの音なんだけど、「不穏ですよ」って言われてるのはわかってるのに、なんか「落ち着くな」って感じでゆったりめをつぶってしまった。

爽快でもないんだが、気持ち悪いわけでもなく。暗いんだがじめじめしてはおらず。平熱で、つまらなくて、けだるい感じ。なんか、こういうテンションの日を私は知っている。曖昧で、身体の力を抜き取ってしまうような脱力感がある。

もちろん、描いているものはただただ苦しい。理不尽な物言い、ハラスメント、事務所でのどことなく所在のない感じ。名門大学出身の主人公を周囲はただただ変にきをつかう。からみにくい女、って感じ?プライド高そうで、冗談通じなさそうな感じ。わかる。時々こういう立ち位置になることってあるのよね。

特に後半部分、彼女が意を決して立ち上がるきっかけが、自分の会社の代表がセクハラしているのではーーという疑惑だったのが示唆的だった。腐った社内と業界で、せめて自分だけは「正しく」ありたい。彼女を支えるのは、「腐った彼らと一緒になるものか」といった、正義感だったのかもしれない。彼女は他のスタッフが、会社の代表の疑惑を笑いながら囁いている声を聞き、静かに(おそらく)ハラスメント相談室に足を運ぶ。そこでも結局彼女の、被害者(かもしれない)女性を心配した行為が、女性への嫉妬なのではないかとねじまげられて解釈されてしまう(本当にこのシーンの苦しさ)。告発は彼女の「将来」を案ずる言葉とともにもみ消される。彼女は申し立てを取り下げ、静かに退室する。その過程は静かで巧妙で、何かが起こったという衝撃はない。しかし、よく目を凝らせば、「多分大変なことが起こってしまった」という感覚だけはある。何かの正義が揉み消される瞬間って、いつも静かな物音しかたたないのだった。

徒労感。私がこの作品を見て寝ちゃったのは、退屈だからでも、疲れてたからでもない、脱力させる魔力が作品全体に働いているからだって思うのだ。なぜ?私も一社目で狂ったように居眠りしていたことを思い出した。パワハラも横行し、深夜残業も慢性化し、給料も労働基準法的にアウトな契約で、皆大企業へのコンプレックスを抱きながらふてくされて働いている。その中で一人、旧帝国の大学院出身のふんわり系な雰囲気の自分は、まさにこの主人公と同様の「なんとなく絡みにくい感じ」な彼女だったろうなあと思う。そこで、私は眠くて眠くてしょうがなかった。気づけば、周りもみんな寝ていたのだった。
結局半年で退職に至るあんな殺伐とした職場で、私はどうして毎日居眠りし続けられていたのだろうか…?ずっと不思議でならなかったが、作品をみながら、本当に力を削ぐ、徒労感と疲労感に支配された環境は、人を眠らせるほどの脱力におとしいれるのではないか…と思った。その眠りは「リラックス」と見分けがつきにくい。そうして人は眠りながら居心地の悪い場所へと順応していくのではないか…。

これは拡大解釈。だって主人公はどれだけ深夜残業しても表情一つ崩さずタイトに仕事をし続けるのだから。一つ彼女がゆるむのは、監督志望が持ってきた作品をこっそり視聴する瞬間くらいか。こうやって心が動く瞬間をわずかにも自分で取りにいく彼女。良いか悪いかは置いておいて、がんばれてしまうのはこういう人なのかもしれないなと、カラフルなコーンフレークをかきこむ彼女を見て思う。

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