「新聞記者」と自由民主主義

話題の映画「新聞記者」を観てきました。ひとりで映画館にやってきた若い女性が多いのは、松坂桃李が主演だからでしょうか(^^)

素晴らしい俳優だと思いました。内調スタッフを演じた松坂も新聞記者を演じたシム・ウンギョンも!

最近の朝日新聞のハンセン病家族訴訟の控訴をめぐる大誤報を思い出したりして、ゾッとしましたが、官邸の権力を使えばマスコミを操るのはわけもないことだと思わせるところ、エンターテイメントの作品として良く出来ています。

なによりも驚いたのは医学部新設の狙いです。そんなところに持ってくるとは!ありえないわけではないと思えるので不思議です(°▽°)

東京新聞の望月衣塑子記者と菅義偉官房長官周辺の攻防を描いているのかと思っていたのですが、いい意味で期待を裏切られました。楽しめました。

私も国家戦略特区での獣医学部新設プロセスを調べていた新聞記者の端くれとして、望月記者の質問に対する菅義偉官房長官や周辺の対応、それを良しとしているかのような官邸記者クラブの雰囲気を異様だと思っていました。

少し振り返ります。

今治市が獣医学部を新設する国家戦略特区に指定された直後、私は岡山市の本部で加計孝太郎理事長や獣医学部新設について先代理事長時代から検討していたという法人事務局長、今治市でも大学誘致を担当する企画課長に会いました。

それ以前からも加計学園が今治市に獣医学部を作りたがっているのは周知のことでした。今治市が国家戦略特区を利用して獣医学部新設に挑むと聞いて、誰もが加計学園を思い浮かべたことでしょう。事実、加計学園広報のところには朝日新聞ほか2、3のメディアからも問い合わせがあるということでした。

いまもまだ私は調べ直しているのですが、問題点は2つです。

1つは、なぜ愛媛県にある今治市が広島県の飛び地のようにして国家戦略特区区域に編入されたかという点。極めて変則的な区域設定のプロセスがよくわからないのです。

2つ目は、ワーキンググループが京都からも具体的な開設計画の説明を受ける直前になって、民間議員でWG座長でもある経済学者八田達夫氏がなぜ、2016年10月の国家戦略特区諮問会議で今治にゴーサインを出せと促す発言をしたかという点です。戦略会議の議事要旨を読んでみればわかりますが、議論がまだ途中だと思われるような時期なのです。突然見切り発車したような、逃げ切ったような印象を受けます。

今治市の国家戦略特区メニューには「道の駅民営化」があって感心していたのですが、今治市の担当者に聞くと、これは内閣府からの提案であって、市の側は特区編入が決まって急遽、民営化プランの検討を始めたということでした。

今治市のメニューが獣医学部新設のみでは加計学園支援であることが露骨に見えてしまうからという内閣府や首相側近たちの忖度、工作でしょうか?私はそう見ていましたが、実名証言、公文書などで裏付けるまで断定はできません。その意味でも安倍政権のもとで官邸が記録を残そうとしていないのが残念です。

獣医学部を作りたいと思っていた京都府は、国家戦略特区諮問会議での八田氏の事実上今治を応援するに等しい発言を知りませんでした。知っていれば、その時点で「勝負あった」と思ったことでしょう。

八田氏や安倍首相が獣医学部は2つでも3つでも新設すればいいといっても、もともと供給過剰だと言われて新設を制限されていたところです。

2番目にどうぞと言われても経営が成り立たないと考え、計画を断念するのが大学の経営者として当然だろうと思います。しかし、八田氏はその京都の大学が断念したことを蔑むかのような発言をしています。

「京都府・京都産業大学からは昨年(2016年)10月に具体的な提案がなされ ており、二校目の最有力候補と考えていました。結果的に十分な熟 度を伴った提案ではなかったことが判明し、大変残念です」

2017年7月、今治市への獣医学部新設問題が論争の峠を迎えていた時にもわざわざこんな声明を発表しているのです。

地域主導で大きなイノベーションを起こそうという国家戦略特区の目的からすれば、社会に与えるインパクトの大きな計画から優先的に認めていくべきでしょう。内容を十分に比較検討せずに先着順に計画を認めておいて、熟度不足と切り捨てるとはひどい。

「ちょっとおかしくないか」と誰でもが気軽に言えるのが自由民主主義の根幹ではないでしょうか?

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