(試行版)ぼくらは、それを見逃さない。⑪瀬戸内アートPF、神石高原町で「ふるさと納税」事業中止、指定取り下げる

 広島県神石高原町に本部を置くNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、大西健丞代表理事)、NPO法人瀬戸内アートプラットフォーム(SAPF、大西健丞理事長)は、前回の記事でもお伝えしたように、愛媛県上島町にも活動拠点を持ち、両方の町から「ふるさと納税」交付金を受けていました。

 しかし、2019年度、異変が生じました。SAPFが突如、本部のある地元・神石高原町でふるさと納税の交付を受ける認定を返上したのです。

 資金不足で地元に貢献できる事業が企画できない状態でした。総務省が4月に実施したふるさと納税制度の見直しも影響したとみられます。

 今年度から始まった町役場幹部による審査会でも落第点すれすれの最低評価で、計画を撤回せざるを得なくなったとみていいでしょう。

 神石高原町が公表しているふるさと納税の寄付実績(2018年度)によると、総額5億3千万円弱のうち、使いみちをNPO法人に対する支援と指定したものは5億円あまりを占めていました。

 支援対象NPOリストに掲載された8つのNPOのうち、捨て犬シェルター事業(ピースワンコ)を運営するPWJが4億9千万円ほどを占めるのですが、SAPFにも360万円ほどの寄付がありました。

 年間1万2千円の会費を払う会員がわずか12人しかいないSAPFは、神石高原町と愛媛県上島町からのふるさと納税からの交付金なしに活動を続けられません。2018年度活動計算書によると、469万円の収入のうち交付金が455万円で、97%を占めていました。

 2019年度も神石高原町の名前を借りて、ふるさと納税の寄付を募る計画を立てていました。

 神石高原町が情報公開請求に応じて開示した行政文書によると、5月17日開催された2019年度分のふるさと納税NPO団体指定と交付金申請の審査会にSAPFも事業計画書など申請書類を提出しています。

 事業計画といっても内容を200字足らずで紹介する簡素なものですが、SAPFは「瀬戸内海地域でのアートを核とした地域振興事業」として、寄付金300万円と自己資金100万円の合計400万円を財源とする活動の計画を示しました。

 内容は以下の通りです。

① 愛媛県上島町豊島でゲルハルト・リヒター作品を9-10月に一般公開する
② 島内のゲストハウスを運営し、寄付者らを招く
③ せとうちDMOなどと連携してアート鑑賞を組み込んだツアーを企画する
④ 現代アートのアーカイブ開設に向け、企業経営者らと連携して資金調達する

 これを神石高原町の課長(総務、政策企画、住民、産業、まちづくり推進)5人が審査した結果、団体指定、交付金事業いずれも「合格」判定を受け、団体指定する運びとなっていました。

 ただし、前述の通り、評価は審査対象の6団体8事業のうち最低でした。

 開示資料によると、事業計画は公益性や独創性、実現性など7項目について各5点、課長1人35点満点で採点し、最高は175点となります。

 最低基準点は105点で、それ未満なら却下されます。SAPFの点数は、105点ぴったりでギリギリのところでの合格でした。

 それから半月も経たない5月29日、SAPFは大西健丞理事長名で指定団体としての登録の取り下げを届け出ました。町役場はそれを受理し、翌30日に「SAPFから申請書取り下げ届があったためふるさと納税支援団体への認定を行わない」として、指定団体を5つのNPOにすることを最終決定しました。

 私が7月はじめに神石高原町役場に問い合わせたところ、「事業を行う場所が町外でもあり、総務省がふるさと納税の見直しを進めていることも勘案して、6月に開いた審査会で交付金の指定団体から外すことになった」という趣旨の説明をしてくれていました。

 しかし、事実は少し違いました。

 今回、開示された行政文書では、審査会の開催は5月と判明しました。指定団体からの除外も、実は審査会で指定継続が内定した後にSAPFが申請を取り下げ、町役場がSAPFを除く5団体のみを指定したという流れでした。

 SAPFは2018年度に神石高原町内の観光施設「神石高原ティアガルテン」に現代アート作品を設置するための設計などを進めていましたが、資金確保が出来ず休止しました。

 2017年7月には「妖怪」をテーマに神石高原町でイベントを開いたこともありますが、参加者わずか25人という状態で、人もお金も集まりませんでした。

 ふるさと納税の返礼品を地元産品に限るなど総務省はふるさと納税制度の運用厳格化に動いています。

 それを勘案すると、愛媛県上島町でしか行わない事業のために神石高原町の看板で寄付を募る計画は、本来なら審査段階で却下されてもおかしくなかったはずです。

 町役場は、審査段階でふるい落とすことは控え、自発的な取り下げを求めたのが真相ではないかと私は推測しました。

 神石高原町まちづくり推進課の矢川利幸課長は「そんなやりとりや忖度など一切ない」ということなので、あとで町の説明を追加しますが、私がそう推測した理由は以下の通りです。

 私が注目したのは、町が開示した行政文書のうち「NPO活動支援交付金審査票」という5人の課長たちがつけた採点用紙です。

 事後的な調整のため加点したのではないかと思えるような審査票が2枚あったのです。

 5人の評価を合計すると、105点を下回ることがわかってエンピツを舐めたあとだと私は思ったのです。

 それは下衆の勘繰りなのかもしれません。

 この記事を知らせたら、神石高原町のふるさと納税を所管する矢川課長から早速電話があり、審査会では課長同士が採点を伝えあったりすることは一切なく、それぞれの立場から評価した結果だ、ということです。

 審査会に出席したわけでもなく、議事録を持っているわけでもないので、当事者の言い分を否定することもできません。それにしても出来過ぎた偶然だと思いつつ、ここで争うつもりもないので、課長同士が105点以上にするために示し合わせたわけではないという神石高原町の説明、意見として紹介しておきます。

 SAPFが補助金以外の資金確保に努めているかという評価項目も、低評価でした。2017年度のSAPFの事業費はふるさと納税の寄付金収入を充当していて自己資金による負担はゼロです。

 ふるさと納税担当のまちづくり推進課長はその項目で最低の「1点」をつけていました。こんなの論外という気持ちでしょう。

 新しい公共、協働の理念とはほど遠い「交付金依存」という実態。神石高原町役場がSAPFを見る目は、思いのほか厳しいものでした。

 

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