大西氏の軌道修正を期待、ピースワンコ「急ぎ過ぎて失敗」と原田氏

 狂犬病予防法違反、動物愛護管理法違反の疑いで代表らが広島県警から書類送検されているNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は2016年に日経ソーシャルイニシアティブ大賞を受賞しています。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO04763410S6A710C1M12900/

PWJが法令違反を繰り返す事態を、大賞の関係者はどう見ているのでしょうか?

主催者の日本経済新聞社広報室は「PWJに関するご質問についてはコメントする立場にございません」と言及を避けています。

それでは審査員はどうでしょう?

PWJの日経大賞受賞後のパネル討論で司会も務めた原田勝広さん(当時は明治学院大学教授)に連絡をとり、個人的な立場から審査の様子、PWJの現況などについて聞いてみました。

原田さんは日経社会部記者時代、社長の業務上横領などKDDの乱脈経理が明るみに出るきっかけとなった密輸事件をスクープしたことで知られ、1980年にKDD事件特報により日本新聞協会賞を受賞しています。

ニューヨーク勤務時代に国連を担当した縁で、NGOの重要性に着目し、日本のNGO・NPO、社会起業家の動きを日経紙面で紹介、市民社会の育成に尽力しました。ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の大西健丞氏の国際協力分野での活動も知っており、「NGO界のイチロー」と評価していた時期もあります。


 Q PWJは2016年に日経ソーシャルイニシアティブ大賞を受賞しています。PWJのどこが評価されたのですか?

 A  他の審査委員の方にも是非聞いてほしいのですが、まず申し上げたいのは、審査は公平に行われたということです。ふるさと納税で資金を大量に集める手法を開発し、メディアを通して「殺処分ゼロ」をわかりやすい形で動物愛護を訴えたことが審査委員から評価されました。
殺処分前に引き取った雑種犬を災害救助犬に育て、救助犬は広島土砂災害や熊本地震で活躍したので、殺処分問題への一般の関心を高めた功績も大きかったと思います。
その後も施設やスタッフを充実させ、譲渡ルートを広島県外にも広げ、捨て犬対応策に挑戦しているのも確かです。月50頭くらいの譲渡実績も上がるようにはなっていると聞いています。

Q 繁殖制限の問題、不妊・去勢手術をしない点が動物愛護団体から批判されていますが、その点は問題にならなかったのですか。

A その時点では知られておらず、審査委員としては気が付きませんでした。

 Q 大賞を受賞した後、法令違反を繰り返す結果となっています。

 A 難しい問題ですね。個人的な意見になりますが、非常に残念に思います。ひとことで言えば、無理して「殺処分ゼロ」を急ぎすぎたゆえの失敗だと思います。
手を抜いたのではなく、むしろ頑張りすぎ。一気にコトを進めようと急ぎすぎて、失敗しています。
「殺処分ゼロ」をぶち上げ、見込み違いが分かった後も能力以上の犬を引き受けたことで、譲渡しきれない犬を山中に囲い込まざるをえない状況に追い込まれています。
そのため狂犬病予防注射が間に合わず、犬同士のケンカも防げない状況になり、広島県警の2度の摘発を受け、書類送検に追い込まれました。
大西氏は能力の高い人ですが、ひとりよがりのやり方が結果として社会の信頼を裏切り、信用を失墜させていると思います。

Q 運営の仕方に問題があるということでしょうか。
A 素人ですが、これだけは言えると思います。殺処分をゼロにするには、飼い主の教育から始まり、病気・高齢を理由に飼えなくなった人への対応、犬の訓練や譲渡網の拡充など地道な努力の積み重ねが必要だと思います。
 国際協力の分野で名前を知られた自分なら何でもできるという過剰な自信から、広島県や神石高原町を巻き込み、能力以上の犬を引き取ってしまったと思います。

 Q 本当にふるさと納税を利用してよかったのでしょうか?

A 実際には殺処分(筆者注:病気等で譲渡に向かない犬の注射などによる安楽死処分)が続いているにもかかわらず(ガス室での殺処分がないことだけを取り出して)「ゼロ実現」と事実とは異なる宣伝をしているし、引き取り数を減らして「殺処分ゼロ」が破綻すれば、ふるさと納税寄付が集まらなくなるので看板を下ろせなくなっているのではないでしょうか。
安定した財源も増やすべきだったと思います。サポーターを増やす地道な資金集めがNGOの基本です。原点に帰ってほしいですね。

Q 動物愛護管理法違反に関連した報道などを読むと、シェルター内の悲惨な状況は隠していたのじゃないかという印象も持ちますが。

A どうでしょうか。一般には整った設備、素晴らしい環境を見せ、意図的ではないかもしれませんが、実体を隠蔽していたと言われてもしかたないかもしれません。資金繰りが苦しくなると、C&Iホールディングスという新・村上ファンドからの援助に頼り、ますます評価を下げる結果になっている可能性もあります。
一度、冷静になって正しい方向に軌道修正してほしいし、大西氏ならそれができると思います。

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