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最高時の役員報酬「1680万円」にみる大西氏の野心と現実~NPO法人ピースウィンズ・ジャパンの認定審査資料を読む①

■寄付「税優遇」の認定NPO

 保護犬(ピースワンコ)活動を展開しているNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)は、一定以上の基準を満たす「認定」を受けているNPOで、本来なら非営利活動の手本となるべき団体です。

 認定NPOになると、寄付金が個人であれば所得控除や相続税非課税、法人であれば特別損金算入が認められ、一般の団体よりも資金調達しやすくなります。非営利と営利の違いはありますが、会社でいえば、財務内容や投資活動について適時、適切に開示したうえで、株主を広く募っている上場企業のようなものです。

 認定の有効期限は5年間です。PWJは2017年事業年度(2018年1月期)に債務超過に陥ったり、2018年に狂犬病予防法違反などで広島県警の捜査を受けたりと問題続きだったので、2019年に切れる認定期限の行方が注目されていました。

 結論から言えば、およそ1年という異例の長さに及んだ審査をパスし、2020年9月に認定更新を完了していますが、認定更新の申請や審査に関係する行政文書を読むと、具体的な内容は「黒塗り」で隠されていますが、県からも数多くの疑問点を指摘され、修正や説明に追われていた様子がわかります。

 この機会に、情報公開制度を利用して入手した県行政文書をもとに、事業の多角化とともに財務状態悪化への懸念が強まるPWJの現状、気になる点を分析してみたいと思います。

■2年で86%の報酬アップ

 まず一般向けに公表している事業報告では知ることができない役員の給料をみてみましょう。そのデータから経営陣の野心を感じ取ることができると思うからです。

 認定を更新する審査にあたって、2014年度(2015年1月期)以降の経営資料がPWJから広島県に提出されています。PWJの理事、監事は7~8人ですから役員総数の3分の1以下、つまり2人まで報酬を受け取ることはできます。

 PWJは監事報酬10万円のほか、理事に就任している人たちの地位に応じた報酬は「ゼロ」としています。ただし、肩書に支払われる報酬は「ゼロ」であっても、職員と同じように労働の対価として「給料」を受け取ることはできます。PWJの場合も理事のうち2人が給料を受け取っていて、今回取り上げるのはその「給料」としての報酬です。

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 広島県の開示文書によると、2014年度に代表理事とみられる役員の最高給は年間900万円でした。それが2015年度に1014万円、2016年度は1680万円へと上がりました。2014年度から2年間で比86%もの大幅な上昇です。

 代表を補佐するもう1人の理事のものとみられる給料は2014年度662万円が、2016年度855万円、さらに2017年度は995万円となっています。3年で50%の昇給です。2人の理事の給料は2018年度に下がりましたが、それにしてもこの2016年度~2017年度の役員給料の急上昇はどうして起きたのでしょう。

 県の審査で聞き取り対象になった可能性もありますが、書面による県とPWJの質疑応答部分は黒く塗りつぶされて「非開示」の扱いになっていて、残念ながらその内容を知ることはできません。

■報酬は「JICA理事」相当

 PWJ役員の給料の水準は何を根拠に決められたのでしょうか?そして、どうして急激に上がったのでしょうか?まったくのナゾですが、PWJの収入の多くは助成金や寄付からもたらされていますので、その理由を含めて公開することが望ましいと私は思います。

 以下は私の推理です。

 年間1680万円という金額から思い浮かべたのは、独立行政法人・国際協力機構(JICA)の役員報酬です。JICAが公開している年間報酬実績(2019年度)によると、トップの理事長2230万円、副理事長1942万円です。理事は多少ばらつきがありますがおおむね1680万円前後で、PWJ役員の最高給と同水準なのです。

 JICAは常勤職員数2千人弱、事業規模も資金協力を除いた技術協力のみで2千億円近い巨大組織です。一方のPWJは2019年度末時点でも事業費50億円弱、職員300人弱という規模です。

 単純な比較は困難ですが、JICA理事が7~8人いることを考えれば、PWJ代表理事の働きを理事1人分とみることも不可能ではないかもしれません。PWJはもともと緊急人道援助活動をする団体として発足していますから、外務省のODA資金を使う点でJICAをずっとライバル視してきたはずです。

 「せめてJICAの理事くらいの報酬をもらっていいではないか」――50歳を目前にして代表理事の大西健丞氏がそう考えたのではないでしょうか。それが私の推理です。成果を出せるのなら、そのような考え方を私も否定はしません。

 ただ、大西氏の場合、他にも複数の公益社団法人やNPOの代表者、それに株式会社等の取締役、理事を務めていて、他にも収入があったはずです。

 特に、2020年8月まで勤めていた公益社団法Civic Force(シビックフォース、東京都渋谷区)は、所轄の内閣府に「常勤(週三日以上勤務)」の代表理事として届け出ていたくらいですから、PWJのために働く時間はフルタイムの職員より少なかったはずです。それを考えれば、JICAの理事よりも好待遇ということになるかもしれません。

■絶頂期にみたバラ色の未来

 次は、役員給料が大幅に引き上げられたタイミングについての推理です。

 2016年度は認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)が得意の絶頂にあった時期です。2~3年前から準備していた新事業が一斉に滑り出しています。役員給料の引き上げは、大西健丞氏らの気分高揚感の表れだったのではないでしょうか。

 とりわけ保護犬(ピースワンコ)事業で、その年の日経ソーシャルイニシアティブ大賞を受賞したことはPWJにとって大きな宣伝になりました。

 ソーシャルイニシアティブ大賞は、社会的課題を解決する非営利団体や企業の試みを表彰するコンテストです。PWJは広島県内で殺処分されそうな犬をその年の4月から全頭引き取って「殺処分をゼロにする」と宣言し、実行したことなどが評価されました。「ふるさと納税」による寄付集めの弾みになり、お金がたくさん集まるようになりました。

 この年、佐賀県のCSO(市民社会組織)誘致政策に応じて、同県と進出協定を締結しています。PWJの姉妹団体として災害支援活動などに取り組むNPO法人アジアパシフィックアライアンス・ジャパン(APADジャパン、佐賀市)も2015年11月に設立していて、PWJとともに佐賀県の「ふるさと納税」の資金援助を受けて社会貢献活動に取り組み始めました。

 愛媛県の上島町でもドイツ人現代アート作家、ゲルハルト・リヒターのガラス作品の一般公開を始めたのも2016年です。作品はPWJがリヒター氏から寄贈をうけたもので、もともと大西健丞氏が株式会社によるリゾート開発を試みた宿泊施設(ヴィラ風の音)の付近に展示施設を設けました。

 事業不振から人手に渡っていた宿泊施設も、PWJが姉妹団体のNPO法人瀬戸内アートプラットフォーム(設立時は広島県神石高原町、現在は愛媛県上島町)に資金を貸し付けて買い戻させ、上島町のふるさと納税の返礼品としてリゾート宿泊事業を再開しました。

 新規事業を次々立ち上げた結果、2016年度の職員数は2年前の2倍、148人に増えていました。地方自治体と提携した「ふるさと納税」を資金源として期待できるようにもなりました。

■職員年収は220~240万円程度

 役員給料が大幅に上がったのに比べて、現の職員の待遇改善は置き去りにされている感じがします。

 PWJの職員数は2014年度73人から2016年度148人、2018年度278人へと、2年で倍増という勢いで増えましたが、平均賃金は一進一退で大きな変化がありません。2014年度は1人あたり220万円で、2017年度には244万円まで上りましたが、その後また下がっているようです。

 職員の給料は基本給一律20万円が出発点ということですから年収は最低240万円あるはずですが、平均賃金がそれを下回るということは、非正規職員の割合が多かったり、短期間で退職する人が多かったりするのかもしれません。

 JICA常勤職員の平均給与は838万円(2019年度)です。大卒新入職員の年間給与320万円が標準、定年後の再任用職員でさえ給与は平均316万円となっています。JICAトップの報酬と平均給与の格差はせいぜい2.6倍なのに対し、PWJは7倍前後も開きがあります。

 内閣府のNPO実態調査(平成29年度)によると、認定NPO常勤職員の人件費は1人あたり平均246万円です。人件費と給料の違いもありそうですが、PWJの給料は平凡なところなのかもしれません。

 PWJ職員はJICAの初任給以下の低賃金で働く状態が続いているということになります。低賃金では優秀なスタッフを育てるのが難しいのではないでしょうか。

 大西健丞氏が代表を務めるPWJやその親密な提携団体はヘリコプターや航空機、医療支援船などを次々と購入して、運用していますが、購入資金を寄付や助成金ではまかない切れていないようです。

 PWJの決算を分析すると、保護犬(ピースワンコ)以外はPWJの部門別収支は赤字だとわかります。不採算事業にもメスを入れていかなければ、職員待遇を改善する財源は生まれてこないのではないでしょうか?

■赤字補てんに消えていくお金

 PWJが本部を置いている地元の広島県神石高原町と給料を比較しても、トップの給料が高く、職員の賃金が安いというPWJの特徴がはっきりわかります。神石高原町長の給料は月額72万7千円です。3カ月弱の期末手当を入れて年収1100万円程度とみられ、PWJのトップよりも安い給料で町政全体を担っています。

 143人いる町職員の1人あたり給与費は607万円で、これは逆にPWJより3倍近く高い水準にあります。JICAとの比較と同じように勤務年数や年齢構成の違いがあるので、単純には比較できませんが、PWJが職員の低賃金労働によって成り立っている現状がよくわかります。

 稼ぎ柱の保護犬(ピースワンコ)事業では、広島と岡山の山中のシェルターなどに3千頭近い頭数の犬を保護し、里親探しに取り組んでいます。

 しかし、岡山県高梁市にあるシェルター(西山犬舎)では、首輪が装着できず、外に散歩も連れ出せないような状態の犬が多数収容されていることが市の調査で分かっています。野犬を里親に譲渡できるように訓練する高度な技能を持つトレーナーが十分確保できていないようなのです。

 PWJが町に提出した「ふるさと納税」支援対象事業の収支報告によると、ふるさと納税からの交付金などピースワンコ寄付収集のうち15%はピースワンコ事業以外に使う「一般管理費」に充当されてしまいます。

 寄付が目的外に流用されて他の分野の赤字補てんや役員給料に回っている可能性があるのですが、保護犬活動への投資が不十分なうちはそのような資金使途の変更を思いとどまるべきだと私は思います。

■「債務超過」後に給料引き下げ

 大西健丞氏らPWJの幹部たちは、バラ色の未来を思い描いて、役員給料から引き上げ、その後に職員給与も改善しようと思ったのかもしれません。

 しかし、残念ながら、新しい事業は思いのほか早くつまずいてしまいました。「全頭引き取り」を掲げたピースワンコ事業は、増え続ける犬に狂犬病予防注射などを打ち切れず、2018年に法令違反に問われました。起訴は逃れましたが、現在は毎月の引き取り頭数を制限して、収容している犬の数も減らす方向へと事業を縮小しようとしています。

 愛媛県上島町の離島での芸術、観光事業は鳴かず飛ばずの状態が続き、PWJから6千万円を貸し付けてNPO瀬戸内アートプラットフォームに買い取らせた高級宿泊施設「ヴィラ風の音」(豊島ゲストハウス)も2019年に投資家・村上世彰氏の一族が経営する会社に売却して、活動は休眠状態のようです。

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 2017年度(2018年1月期)決算で債務超過という厳しい現実に直面しました。リヒターから寄贈されたガラス作品の評価額を利益に繰り入れて債務超過を解消しましたが、経営は赤字基調が続きます。

■目標未達続く「ふるさと納税」

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 ふるさと納税も「ピースワンコ」以外は振るわず、目標金額を下回る例が続出しています。PWJは不足する事業資金の穴埋めに四苦八苦していて、賃金アップどころではなさそうです。

 2016年度から年1680万円となっていた役員の最高給は2018年度に1440万円に下がりました。2017年度に995万円まで上ったもう一人の理事の給料も2018年度には854万円に戻っています。2019年度以降もその水準が続いていると思われます。

 経営状況の悪化を考えれば、役員給料はもっと引き下げる必要があるのかもしれません。とりあえず、寄付をする支援者らにも情報を公開して、意見を問うてみるといいと思います。

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