(試行版)ぼくらは、それを見逃さない。④赤字嫌いスポンサーが撤退、「ふるさと納税」活用狙いNPO設立


 瀬戸内海に浮かぶ離島、豊島(とよしま、愛媛県上島町)に「ヴィラ風の音」を2007年に開業させた株式会社の「風の音舎」は、いまどうなっているのでしょうか?

 2005年2月にNPO法人ピースウィンズジャパン(PWJ)の大西健丞氏が妹の由起氏を代表に据えて広島県福山市の鞆の浦に設立した「風の音舎」は、瀬戸内海産の昆布エキスなどを使った自然化粧品も売り出しました。

 出資者の多くは化粧品販売にかかわる人たちだったようです。設立から間もなくして社名を「シャノンマーレェ化粧品」と変え、2007年2月には化粧品販売部門の出身者が代表取締役に就任しています。「ヴィラ風の音」が完成するころには、もう会社の主導権は大西兄妹からは離れていたのかもしれません。

 「初代社長だった妹の由起は退社して化粧品部門の人が社長になり、本社も名古屋に移っていました。そしてPWJを支えたいという人たちが集まった会社だったのに、もう寄付は切るべきではないかという声もあがったのです」

 大西氏は著書「世界が、それを許さない。」(2017年、岩波書店)の中で、そう打ち明けています。

 PWJにとって、会社は国際援助活動や瀬戸内海の観光事業に取り組むための資金調達の手段になるはずでした。しかし、会社の側は赤字の観光事業にのめり込んでいく大西PWJ代表理事の姿勢に嫌気がさしたのでしょう。

 調べたところ、会社は2012年4月、名古屋市に移転していました。移転を念頭に「ヴィラ風の音」など観光事業からも完全に撤退し、関連する土地や建物も処分したようです。

 現在は社名をLOSAに変更しています。

 前回も触れましたが、1200万円だった資本金は、豊島に豪華ゲストハウス「ヴィラ風の音」の開業直後の2007年8月に2億5千万円超に膨らみ、2008年4月には3億4千万円になっています。

 豊島での「ヴィラ風の音」への投資がかさんで増資を繰り返したのだと思われます。

 一方、化粧品販売会社である株式会社LOSA(旧・風の音舎)の売上高は現在でも年間6億~7億円程度で、利益は数千万円あるかないかの規模のようです。ヴィラへの投資は会社の存続を危うくするくらいの重荷だったはずです。

 居づらくなった会社を辞めた大西氏は2014年4月、PWJ本部と同じ広島県神石高原町にNPO法人瀬戸内アートプラットフォーム(SAPF)を設立します。神石高原町と愛媛県上島町の両方のふるさと納税制度を使って寄付を募るためです。

 同年度のSAPF事業報告書では「愛媛県上島町の豊島で、著名な現代芸術家の作品を展示するホテル付き美術館の開設準備を行った」「神石高原町でのアートフェア開催の準備を行った」などと説明しています。

 翌2015年度に旧・ヴィラ風の音を豊島ゲストハウスとして手に入れました。PWJから6千万円を長期借り入れしていますから、それが購入資金になったとみられます。ゲルハルト・リヒターのガラス作品の一般公開や、ゲストハウスへの宿泊を返礼品とする「ふるさと納税」による寄付集めも同年度に始めています。

 しかし、SAPFへの寄付は低調で、赤字が続いています。2018年度は、神石高原町の観光施設「神石高原ティアガルテン」内での現代アート作品設置に向けて設計等を進めていたものの「資金の見通しが立たず休止した」と事業報告に書いています。

 SAPFは2019年度も神石高原町でのふるさと納税の寄付集めを申請し、事業計画は町役場の審査会の承認も得られていました。しかし、SAPF側の事情で事後的に申請を取り下げて、計画を撤回したということです。

 ふるさと納税サイトの「ふるさとチョイス」で上島町のコーナーをみると、SAPFが集める資金の使途は、リヒター作品の展示と周辺環境の維持・管理、豊島へのアーティスト招へいや作品制作にかかわる費用、現代アートに関するライブラリーの建築に向けた準備・資料収集、ゲストハウスの管理・運営経費などとなっています。

https://www.furusato-tax.jp/gcf/466

 計画では、2019年度に現代アートライブラリーの設計に取りかかり、2020年にライブラリーを着工し、2021年完成を目指す、となっています。

 しかし、前回の記事でも触れたように豊島ゲストハウスが2018年度に財産目録から消えてしまいました。

 豊島プロジェクトの将来について、愛媛県上島町総務課に聞いても、「SAPFにお問い合わせください」というばかりです。 SAPFは沈黙したままです。

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