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「大間まぐろ」とは「大間沖」でとれたクロマグロのはず〜豊洲市場の目利きたちに問いたい初歩的な商品審査の現実

初セリの落札価格の予想だけでよいのか?


 まもなく新年です。例年この時期になると、豊洲市場のマグロの初セリに関する話題や、初セリ最高値の常連、青森県大間の漁師たちが津軽海峡で巨大マグロを釣ろうとする姿を描くテレビの特番に注目が集まります。

 

 例えば、写真のような時事通信水産部による「2022年のマグロ初競りはどうなる」という記事がその典型です。

  この記事では2021年はコロナ禍を意識して最高値入札を見送った「すしざんまい」運営会社・喜代村の木村清社長と、やま幸の山本幸隆社長のコメントが紹介されていますが、過去の高値落札や2022年の予想など値段のことばかり書いている記事とは対照的に「両雄」の発言は慎重です。

 山本社長にいたっては「競りが過熱するほど、漁師の判断を鈍らせる危険があり、無理をして海に出れば事故につながりかねない。やり過ぎはよくないとお客さんに伝えている」と答えているくらいです。

 時事通信を含めて大手メディアは、一獲千金を狙って危険を冒しても冬の津軽海峡でマグロを追う漁師というおきまりの視点から抜け出しきれないようです。そろそろクロマグロ漁の現実を踏まえた報道が登場してもよい時期ではないかと私は思います。

漁獲報告のごまかし疑惑、国・県が大間で調査中

 初セリ最高値の常連、青森県の大間産クロマグロをめぐっては、かつてないほど大規模な漁獲報告のごまかしが発覚して、国(水産庁)や青森県が漁業者への事情聴取など調査を進めている真っ最中なのです。

 この問題については2021年11月上旬、青森県の地元紙東奥日報は「大間マグロ漁獲無報告、複数の漁船関与か」というスクープを放ちました。私も少し遅れて12月半ば、ダイヤモンド・オンラインに「大間のブランド汚すヤミ漁獲」について寄稿しました。

 ヤミ漁獲されたマグロの流通という不祥事が発覚し、現在、国(水産庁)と青森県による漁協や漁業者への調査が続いています。そんなことも報道しないで、お気楽な初セリ高値の予想記事を出稿する通信社は、報道機関としての責任を一体どう考えているのか疑問に思います。

  ちなみに水産業界専門紙の水産経済新聞は12月24日付1面で「マグロ未報告解明へ、青森県が聞き取り調査」というニュースを掲載しています。

未報告は国際非難浴びるIUUに該当


 漁獲を監督者に報告しない未報告マグロをわかりやすく言えば密漁です。いわゆるIUU(Illegal, Unreported, Unregulated=違法、無報告、無規制)漁業の一種で、海洋環境や水産資源を悪化させる要因として国際的に非難されています。

 未報告がたくさん見つかると、青森県や大間町の漁業者に割り当てられた漁獲上限量を突破して操業休止を余儀なくされる事態も予想されていたのですが、そんなことはお構いなしに初セリ用のマグロの漁獲競争にばかり注目する報道はかなり歪(いびつ)だと言ってよいでしょう。

地域団体商標「大間まぐろ」の運用実態は?

 そもそも時事通信の記事は、大間漁協が管理者となっている地域団体商標「大間まぐろ」について一切言及していません。魚体に通し番号付きで貼るこの商標シールは大間産の証で、これがあれば同じクロマグロでも倍の値段がつくほど信用絶大です。

 商標の上で「大間まぐろ」は「青森県下北半島大間沖で漁獲されるまぐろ」と定義されていて、水揚げ地についても大間漁協は特許庁の商標紹介サイトで「大間で水揚されるまぐろ」と説明しています。

 したがって大間町にあるもう一つの漁協、奥戸(おこっぺ)漁協は使用できず、代わりに「大間 奥戸 津軽海峡」という独自のシールを魚体に貼っています。

 ところが今シーズンは津軽海峡でとれるクロマグロの量が減り、太平洋側の八戸沖合や岩手県など三陸の沖合でとられたものが多くなっているようです。

 太平洋側、しかも遠い岩手沖などで漁獲された場合でも「大間まぐろ」の商標は認められるのでしょうか?

大間での水揚げなら漁獲海域を問わず大間産?

 目いっぱい拡大解釈をして、大間漁協の組合員である漁師たちが地元・大間の港まで戻って水揚げするのなら大間沖の漁獲だとみなすことも可能なのかもしれません。

 私はそのような扱いに疑問を感じ、定義自体を変更すべきだと思いますが、漁師さんや漁協を監督する青森県は大間水揚げなら大間まぐろとみなしてよいではないかという立場のようです。

 大間町以外の場所、さらには岩手県や秋田県、北海道など県外の遠隔地で水揚げしたものをトラックで大間に運んだ場合はどうなのでしょう?

 噂は流れています。事実であれば、大間産と呼ぶのは困難だし、まさにこれは産地の偽装工作そのものであると私は考えます。

 豊洲市場の卸会社の目利きたちはどう考えるでしょう?そもそも自分たちが荷を受けた商品について、どこの海域で漁獲されたものかちゃんと確認しているのでしょうか?

初セリ高値の予想記事などいらない


 私が時事通信水産部、日本経済新聞商品部、みなと新聞、水産経済新聞など豊洲市場にいつも出入りしている水産記者たちに期待するのは、初セリの高値予想ではありません。

 いま大間ブランドの信用はヤミ漁獲によって汚されています。水産業界に詳しい記者に期待したいのは、大間という最高品質の国産マグロの産地で漁獲報告のごまかしが発生している原因やそのごまかしがもたらす悪影響をしっかり分析して読者に紹介することです。

 「大間沖」を漁獲地として限定した商標「大間まぐろ」は、そのシールを貼ったマグロの漁獲・水揚げの実態と一致しているのかどうか。もし、初セリにかけられたマグロに産地偽装の疑いがかけられるようなことがあれば、市場は大混乱するでしょう。

産地偽装疑いあれば受託拒否できる

 ヤミ漁獲や産地偽装について取材を進めるとき、農林水産省の卸売市場室や卸売会社は「卸売会社は受託拒否できない」と主張して、違法商品を扱った責任を回避しようとするのですが、法令違反が疑われるような場合は拒否できます。

 東京都の卸売市場条例施行規則を例にとると、法令違反又は公益に反する行為の疑いがあるときは受託拒否できる、つまり産地からの出荷を断ることができると明確にうたっているのです。

 少なくとも十数人規模で漁獲報告を過少に申告していたことが大間漁協自身の調査でも判明しています。そして「大間まぐろ」の認定の仕方に疑義を唱える声が地元でも上がっています。豊洲市場を監督する立場の農林水産省や東京都、そしてセリを行う卸売会社は、クロマグロの出荷経過をチェックする仕組みを早急に作るべきなのではないでしょうか?


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