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「俺の話を聞いてくれ」と思いたい 2

道東角打ち」イベント当日、昼頃にヒカリエへ。クスろ副代表ちひろさんと合流し、絶賛開催中の発酵ツーリズム展を一周し、くさやを嗅いでウッと顔をしかめるなどをして楽しむ。

髪を切ったばかりで上機嫌のちひろさん

ヒカリエの8階から下を見おろすと、そこは渋谷、めまぐるしい人々、バス、タクシーの往来……。普段は決して見ることのない東京の風景、私は、渋谷に来るといつも疲弊してしまう。

前日の夜は月島の友人の部屋に泊めてもらったのだが、彼女が突然しみじみと「かしこちゃん、ついに大学の3年間、一度も彼氏できなかったよねえ」と言うので、うろたえてしまった。事実だし自覚していたけど、出し抜けになんてことを言うんだよ、と思った。
そして本日、渋谷である。前日のこともあいまって、「東京にはこんなに人がいるのに……」というやさぐれた気持ちを持ちつつ、会場設営へ。

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道東に関係するイベントがヒカリエでできると決まったとき、私はとても嬉しかった。
発酵ツーリズム展の道東取材には同行できなかったけれど、キュレーターであるヒラクさんに同行していた拓郎さんから、取材の様子を聞いていた。展示自体ももちろん楽しみにしていたが、まさかその一環で自分たちがイベントをさせてもらえると思っていなかったし、日本のさいはてから日本の中心に来られるなんて……と感慨深い。
イベントが正式に決まったのは2月頃だったと思うが、まだ当時大学生だった友人たちに、「5/31、空けておいてね!」とお願いし、イベントに来てくれるように誘った。場所は渋谷で、道東の美味しいものやお酒を持っていくから、遊びに来てねと。

しかし実際イベントが近づくにつれ、友人たちには声をかけづらくなっていた。みんな忙しそうだったし、社会人になっての新しい環境はとても楽しそうだ。ほとんどの友人の興味はエンジニアリングやデザインだし、無理やり誘って嫌な思いをさせてもいけないなと思い、改めて声をかけることはしなかった。

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ちょうどイベントの1ヶ月前ほど、友人のKと連絡を取り合っていた。どうして連絡を取り合っていたかは忘れたけれど、私から元気にやっているか、というようなメッセージを送った気がする。

「元気だよ。辛いラーメンばっかり食べてるけど」

会社での研修もとても楽しいのだと言う。先輩も優しいし、充実していると言っていた。
Kが「今度いつ東京来るの」と言うので、実は……と道東角打ちのことを伝えた。反応は思いの外「行ってみたい」と前向きなものだったが、嬉しい反面「もし楽しんでもらえなかったらどうしよう」という不安もあり、「できることなら友達と来てくれ……」とこっそり思った。あまり自信がなかったのかもしれない。
幸い、Kと私との共通の友人も行くと言ってくれていたので、私は「共通の友人がいるなら……」と思い、「待ってるね」と前向きなメッセージをKに送った。

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当日、突然その共通の友人が来れそうにないということになった。残業があって厳しいのだと言う。慌ててKに「彼女、無理そうだって」とLINEをすると、Kからも「いま連絡あった。でも行くね」と返信が来る。
正直、困ったぞと思った。
その時点で19時、道東角打ちはスタートしていたが、開始直後から長蛇の列。ヒラクさんも苦笑いをするしかないほどのお客さんが押し寄せ、会場はすし詰め状態だったのだ。Kから「もし1人で寂しく飲むことになったら、かしこ助けにきてね」と言われていたのだが、絶対にオペレーションは抜けられない。

いつでもKを見つけられるようにと思いながらそわそわするが、手元が狂えば貴重なホタテが滑り落ちてしまう。もともと飲食店のアルバイトにまったく向いていないので、手際も悪く、お客さんの様子に注意することも難しい。

20時を越え、エレベーター側からやってくるKの姿が見えた。会うのは2ヶ月ぶりである。眼鏡を外してコンタクトにしていた。

背伸びをして小さく手を振り、身振り手振りで並ぶように伝える。
Kはニヤニヤしながら列に並んでくれた。長蛇の列を見て帰ってしまわないかドキドキしていたので、ちょっと安心する。
10分後、Kの番が回ってきたので、注文を聞きながら話をする。

「来てくれてありがとう。何にする?」
「すごい人だね。何がいいかな?」

早口で会話を進めるが、まったく相手ができない。申し訳ない……と思っていたが、さすが社会人、隣にいたサーモン科学博物館の西尾さんに話しかけていて、なんだか嬉しそうだった。

結局Kは30分弱いてくれて、お礼にと思い、お土産を手渡した。

「今日は誘ってくれてありがとう」

と、Kはとても嬉しそうだった。普段、私の前ではハロプロの推しの話をするときくらいしかニコニコしないのに、とても嬉しそうで驚いたし、安心した。

「普段とは違う世界だったよ」

と興奮気味である。以前一緒に行ったモーニング娘。'18コンサート以来の興奮状態である。
「違う世界」という言葉は自分にとって少し怖い言葉でもあるのだが、彼女のその言葉の使いどころは正しいなと思った。
実際、普段デザイン分野にいる彼女からしたら、この道東角打ちは「違う世界」なのだろうなと思う。私も一応デザイン学生の端くれなので、デザイン関係のイベントには行ったことがある。
デザイン関係のイベントはなんというかスタイリッシュで、いつもかっこいい人たちがいて、もちろんデザインの話をしていて……。
道東角打ちのイベントがスタイリッシュではなくて、かっこよくなくて、というわけでないけれど、なんとなく対象的だなと思った。

デザインのイベントに集まる人の目的は、「デザインのことをもっと知りたいから」「デザインの勉強になるから」だと思う。
でも、道東角打ちに来てくれたお客さんの目的は、実は私にもさっぱりわからなかった。それぞれ、取材だの、通りがかったから来てみただの、道東出身だからだの、バラバラの目的で来たのだということを教えてくれた。
そんなバラバラの目的の中で、カオスな熱気のようなものが渦巻いていて、それはたぶん彼女にとって「違う世界」だったのかもしれないと思った。

その「違う世界」を楽しんでくれたのはとても嬉しいし、絶対に彼女の才能なんだろうなと思い、また「誘ったら嫌な気分にさせちゃうかな」などと考えてしまった自分を恥ずかしく思った。

以前書いたnoteで偉そうに

身近な友達に、少しでも「面白そう」とか「関わってみたい」と思ってもらいたいと切に願うのは、贅沢なことなんだろうか。たぶんそうだと思う。
ただちょっとだけ、「かしこ、また『釧路』とか言ってるよ」と思われてもいいから、誘ったり、声をかけたりしていきたい。正しいかわからないけど。友達を失わないようにがんばります。

とか言っていたわりに、結局自信がない、友達に嫌われたくないという一心で大事な関わりを自分から絶ってしまおうとするのは、自分のよくない癖だ。

そういえば、前述の「『俺の話を聞いてくれ』と思いたい」で書いた友人のことだけれど、彼も私との共通の友人である大学の同期とともに、ちらっと覗きに来てくれた。全然話せなかったけど、友達にたくさん会えて嬉しかったなと素直に思った。

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全然関係ないですけど、5/31の写真と比べると、めちゃくちゃ髪が伸びました。
ショートにしてから1年半くらいしか経ってないけど、馴染んできてしまったのでしばらくショートでいようと思います。

Photo by Kazushige Nozawa

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