オタクが初めて歌舞伎を見に行った話
先日近くで歌舞伎の特別興行があり、一度見てみるのも悪くないかと思って観賞してまいりました。声優さんのコンサート・ライブなどにはよく行っているオタクの私ですが、能・狂言・歌舞伎など日本の伝統芸能は覚えている限りでは一度も行ったことがありません(落語の寄席であれば若干観賞経験あり)。
そんな自分から見て、「意外と歌舞伎って……」と思うところがありましたので是非皆さんにご紹介したく本記事を投稿します。本記事は歌舞伎を全く見たことのないサブカル系オタクが同じような方向けに紹介する記事ということで、感想を交えて書いたものになります。歌舞伎ファンの方にとっては「こいつ全然分かってねえな」と思われるかも知れませんがご容赦ください。
1.見に行くことにしたきっかけ
アニメ・ゲーム等を趣味としている私がなぜ歌舞伎を見に行くことにしたのか。直接的な要因は、「普段の生活圏で開催されるから」「割引料金で買えて意外と高くなかったから(※安くは無い)」というところでしょうか。
しかし、それだけが理由で行こうと思ったわけではありません。「日本人たるもの伝統芸能に若干でも触れておきたいから」という考えがもともと薄っすらとあったのは確かで、最近はnoteでアイドルマスター関係の考察記事などを書くようになったこともあり「多様な文化に触れることでアイマスのコミュや公演に対する理解・考察力を高めたいから」という意識が高まりつつありました。結果的にはこれらが決め手となって観賞してみることにしたわけです。
2.実際に歌舞伎を見た感想
さて、ここからが本題。知識のない人間が実際に歌舞伎を見た感想になります。
今回鑑賞したのは、いわゆる歌舞伎座という常設劇場で行われているものではなく地方の文化センターで行われた以下の公演です。そのため、舞台セット、座席配置、客層なども含め一般的な公演とは違うということは念頭に置いておきます。
今回の演目は超有名な『連獅子』『忠臣蔵』『勧進帳』などではないため、ストーリーが理解できるか、楽しめるか多少不安がありましたが、実際はコンパクトかつシンプルにまとまった脚本で非常に理解しやすいものでした。もともと大衆娯楽だった面があり、一幕が短いのであまり複雑なストーリーラインではないということでしょう(イヤホンガイドというもので音声解説を聞きながら観れるのも理解の助けになります。一方で、演者のセリフや演奏などが聞きづらくなってしまうのは本末転倒な気もします)。
演者はさすが一流。立役は舞台を踏み鳴らす音も力強く、派手で荒々しい立ち回りや滑稽さが際立つような細かな仕草など、堂々とした様子と台詞回し。しかしそれ以上に驚いたのが女形の美しさ。繊細で優雅な身のこなし、舞台上を滑るような足さばき、それでいて時に強い踏み音も出せる。立役に見劣りしない身長の大きさもあり、舞台では一層華やかで目立って見えます。
演奏と歌唱は基本的な背景や設定、登場人物の心情などを歌いつつ、盛り上がりどころを作っていく。ミュージカル的な構造だと言っていいでしょう。
以上の個別要素を合わせて考えると、唄あり、演奏あり、踊りあり、物語としては笑い・人情・悲劇あり。ものによっては宗教的な祭礼・儀式を大衆向けにアレンジした側面あり。そして観客によっては演者個人に対する贔屓あり。ミュージカル的でもありつつ、壮大すぎない短編映画のようでもある。一部の富裕層向けに発展した芸術ではなく、あくまで大衆向けに発展した総合エンターテインメントである。それが数百年の歴史を経て洗練され芸術の域に達した芸能なのだということが実感できました。
また、公演内容とは別で実際に行ってみて初めて知ったことがあります。それは、観客は8割方女性だということ。かつ、年齢層も20代くらいの方から高齢の方まで幅広い。男性は2割ほどだったようですが、基本的には夫婦・親子で来ていると思われる方ばかり。私のような男性単独の客は5%にも満たなかったように見えました。
もう1点。歌舞伎といえば「◯◯屋!」という声掛け(大向う)が飛び交うイメージがありましたが、本公演に関してはほとんどそのような発声はありませんでした。それだけに、ごく一部の観客が声を張っていたのが浮いているように感じられました。特に発声禁止というようなレギュレーションではなかったようですが……このあたりは本家の歌舞伎座では雰囲気が違うのかも知れません。
なお、チケット料金は割引価格で6,000円(S-A-B席のうちA席の価格)。正味2時間弱の公演でこの価格というのは……正直言って安い。そのくらい満足感のある内容でした。ただし歌舞伎座の良席で見ようとなるとかなりお高いので、頻繁に通う趣味とするにはハードルが高いようです。
3.まとめ
見る前は人生経験として一回くらいは見ておくか…くらいの気持ちだったのですが、思いのほか楽しめました。
演目に関しては、今回見たものは能の脚本をアレンジしたもの、歴史的な物語の場面を抽出し脚色したもの、近年(江戸後期ですが)作られた滑稽で分かりやすいものなど、非常に多彩です。『釣女』は能狂言の『釣針』を歌舞伎に輸入したものだということですが、もしかしたら元々は記紀の天孫降臨の一節のパロディなのでは……と思ったり、単に滑稽なだけではない考察する余地のあるもので非常に興味を惹かれました。
私は初めて見たということもあり演者個人に対しての思い入れや贔屓などはありませんが、もしそのような感情を持って見ればまた違った見方・楽しみ方ができるのだと思います。そういう面を考えれば、アイドルなどに対する推しの感情も、歌舞伎などの文化で培われた贔屓の意識が日本人の根底にあり、それを前提として現代の営業・商業化が行われているのかも知れないという思いを抱くようになりました。
もう一回、今度は歌舞伎座に行ってみようかなと思うには料金もそれなりにするのでハードルは高いですが、もし一度も見たことがないなら見てみても損はないでしょう。少なくとも全く知らないよりは思考・考察・発想の幅を広げられる可能性はあると思います。
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