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ユーザーインタビューで、話を鵜呑みにしてはいけないワケ

インサイトとは?

マーケティング・リサーチでは、「インサイト」の発見が重要視されています。
インサイトとは「本人も気づいていないような何か」であり、「他者と共有可能なもの」を示します。

たとえば最近では、コロナ禍の高校生たちの心情を表現した「カロリーメイト」(大塚製薬)のCMが「泣ける」と話題になりました。
私はコロナ禍に高校生活を送った経験がありませんが、CMを見て胸にグッとくるものがありました。
CMを見て、「泣けた」とSNSに投稿している人たちのほとんどは高校生ではありません。しかし同じような感情を味わった、まさにここにN=1ではなく、「他者と共有可能なもの」が隠れています。

カロリーメイト web movie | 「入学から、この世界だった僕たちへ。」篇 (Full Ver.)

無意識の世界

さて、なぜインサイトが重要視されるのでしょうか。
それは、人間の意識は5%程度で、95%は無意識が占めているからです。人は必ずしも合理的に行動しておらず、無意識の影響をかなり受けています。

インサイトを発見するうえで有効なのが、1対1で深掘りしていくデプスインタビューです。

インタビューの際に気をつけたいのが、「なぜそれを購入したんですか?」「どうしてそれを好きになったんですか?」などという問いかけです。
というのも、インサイトは本人も気づいていないものであり、理由を聞かれたところで言語化できるものではないからです。

理由について聞けば、「これこれ、こういう理由です」と何かしらの返事が返ってくることでしょう。ただしそれは本人も無自覚なまま、辻褄合わせをして答えている可能性が高いということに留意する必要があります。

たとえば、「どうして彼女/彼氏のことが好きになったの?」と聞かれてうまく答えられる人はどれくらいいるでしょうか?
「やさしいところに惹かれた」「料理が上手で、気が利くところが好き」などと答えるかもしれません。

しかし、本当にそれが好きになった理由でしょうか? 

やさしい人は他にもいます。彼女/彼氏より料理上手の人も大勢いるでしょう。好きになった真の理由は当の本人すらわからないものです。

話し手の言葉を鵜呑みにしてはいけない

ですので、インタビューでは話し手の言葉を鵜呑みにしてはいけません。
人の心理に留意しながら話を聞いていく必要があります。

インタビューで意識すべきこと
(1)人は、自分のことを理解していない
(2)人は、自分の考えていることを言わない
(3)人は、自分の言ったことを行わない

(1)人は、自分のことを理解していない

人はいちいち合理的な理由にもとづいて判断していません。
自身の購買活動を見てみても、「なんとなく」商品を選んでいるケースがほとんどではないでしょうか。その「なんとなく」の後押しは、いつか見たCMやパッケージから受け取ったポジティブな印象にもとづいている可能性があります。さらにその背景には何かの原体験などのバックグラウンドがあるかもしれません。

しかし本人はそんなことを覚えてもおらず、それっぽい理由、たとえば「ほかの商品よりも安かったので買いました」と答えたりします。やっかいなのは、本人もそれが自分が買った本当の理由だと信じきっていることです。

商品を購入する際、比較サイトや店頭で価格や機能などを見比べて決めるケースもありますが、最後の決断のひと押しは「なんとなくこっちの方が良い」という直感的な判断がほとんどではないでしょうか。
InstagramやTwitterなどのSNSを見ていて、「あ、これほしい」と衝動買いしてしまうのも同じことです。

それだけ私たちは無意識に物事を処理しているのです。

(2)人は、自分の考えていることを言わない

自分の考えていることを言わないというのは、見栄を張ったり、遠慮したりなど、インタビュアーに対して本音を語らないという意味です。
あるいは、その人の表現力の問題で、考えをうまく言語化できないという場合もあります。

(3)人は、自分の言ったことを行わない

人は態度と行動に不一致が生じることがあります。
インタビューをしていると、「これは本当に良い商品(サービス)ですね。絶対に買います!」と言われる場面に出くわすことがあります。
しかし、インタビューの場では「買う」と言っていたのに、その後購入に至らないケースは往々にしてあります。
インタビュイーは嘘をついていたわけではなく、インタビューの場では「本心」で良い商品と思って、「絶対に買います!」と言っているのです。

たとえば、「ワイドショーなんてくだらない。テレビ局はもっと真面目なニュースを放送するべきだ」といった会話をしばしば耳にします。(あるいは、同じような話を誰かにしたことはないでしょうか。)
しかし、当の本人はそんなことを言ったのも忘れ、翌日にはさんざんけなしていたワイドショーを見て笑っている。よくある話です。

こうした人の心理に気づかないと、商品担当者はインタビュイーの言葉を鵜呑みにしてしまいます。インタビュイーが「もっと安ければ買う」と言ったのを鵜呑みにして、「もっと値下げしなければ」などと誤った判断を招くリスクがあります。

「答えはお客さまの中にある」という言葉があるとおり、お客さまの話を聞くことは大事です。

けれども、お客さまの言葉を安易にそのまま受け取ってもいけないというのがインタビューの難しいところです。
「答えはお客さまの中にある」が、お客さまが直接答えを教えてくれるわけではないということを肝に銘じる必要があります。

お客さまの心に寄り添い、憑依して、また自分の中のインサイトを探索する。インサイトの発見は簡単ではないなというのを、日々痛感しています。


(ちなみに、インサイトの定義についてはさまざまな議論があり、詳しくはこちらの記事が参考になります。)
https://note.com/mediologic/n/na2319888b184


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