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彩雲の友へ

昨日、記事を書くのがあまりに久しぶりで、書きたいことが多すぎて、伝えたい何かが見えなくて、どう書いたらいいかわからなくて何度も何度も書き直していました。


最後にスッと降りてきた言葉が「笑おう」でした。



「かすみさん、知ってる?口角を上げると脳が騙されるの。だから私は口角を上げるんです。」


息子の闘病時、あるブログで知り合った女の子がいます。

その女の子はしなやかに強く、凛としていました。

お母さんもブログをされていて、私はその親子に励まされ、導かれ、支え合い、何度も何度もくじけそうな時を救ってもらいました。

息子の治療は終わりましたが、彼女の治療は繰り返されることになりました。

当時中学生だった彼女はいつも強く、どんなに嘆いても必ず自分の力で立ち上がる姿を見せてくれました。
現実にはもう立ち上がることが難しくなっても、彼女の意思はまっすぐ未来に向かっていました。


社会と断絶された闘病生活は孤独に襲われます。
私は時折プレゼントを贈るようになりました。
彼女が大好きなスヌーピーのマグカップ、写真立て、メガネケース・・・
偽善かと言われたらそうなのかもしれませんが、同情心ではありません。
彼女の喜ぶ顔を思い浮かべたかっただけです。
元気になったら必ず会おうねと約束をしていました。


けれど、お母さんから日に日に厳しい病状になっていると連絡がありました。

「実はね、少し先の入院の予定だったから明日かすみさんへのプレゼントを買いに行く予定だったの。お揃いの服にしたらかすみさん喜んでくれるかなって。すごくすごく楽しみにしていたのに、今日緊急入院することになってしまってね。でもあの子の気持ちだけは伝えたかったの。」

私は居ても立っても居られなくて夫に相談しました。

「行きたい。会いに行きたいんだけど・・・」

新幹線を使わなければいけないような場所です。

夫は「え?行きなよ」とまるで悩む必要なんてないと背中を押してくれました。

夫の仕事が休みの週末、朝一番の電車で向かいました。



日曜日の病院は閑散としていて、薄暗く、どこか冷たく感じます。

少しでも早くと慌てる気持ちを胸に、私に何が言えるんだろうかと頭が真っ白になるような感覚でひたすらに足を動かしました。


初めて会った彼女のお母さん。

震えながら交わした言葉は今も脳裏に焼き付いています。


そしてようやく会えたずっと年下の友達。

苦しげな表情を抑え、私が来たことを喜んでくれ、手を握ってくれました。やわらかくて吸い付くような白いきれいな肌でした。



どのくらい日にちが経ってからでしょうか。

思い出せません。

ただ、彼女が空に飛び立ったその日を忘れません。


見上げた空に彩雲を見ました。

ああ、あなたがそこにいるんだね。

そう思いました。


それからもたくさんの不思議と出会いました。

その不思議は彼女を感じることができるから、とても幸せな気持ちになれました。


苦しい時、辛い時、ふと彼女を感じます。

「かすみさん、だいじょうぶ?」と聴こえてきます。

ああ、またか。またあなたが助けてくれるのか。



先ほど、彼女のお母さんから数年ぶりに連絡がありました。

「今日は娘の20歳の誕生日でした」

15歳の時に書いた20歳の自分に向けた手紙が届いたこと、この手紙をどうしてもかすみさんにも読んでもらいたいと写真に撮って送ってくださったんです。

当時の彼女のぬくもりに触れると、未来への希望と不安が混ざっていました。

自分の心と大切に向き合い、治療に耐えてきた自身を誇りに思う気高さと凛とした姿勢に懐かしさを覚えます。しなやかに強い、そんな人でした。そして何より、笑顔が最高に可愛らしい女の子でした。


まただね。また会いに来てくれたんだね。

「かすみさん、だいじょうぶだよ、口角を上げるの忘れちゃダメだよ」って。



ねえ、私がいつか空に旅立った時、迷子になったら助けてくれるかな。

あなたはしっかり者で頼られてばかりで、こんな年上の私にまで甘えられたら困っちゃうかな。

出会ってくれてありがとう。

私の中であなたは今も生きています。




読んでくださってありがとうございました。



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