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キミは漕ぐ

定期検査のため大学病院へ向かう車中、息子は隣で口を開けて寝ていた。



受験勉強、おつかれさま。

塾への送迎は「やらされてる感があるから嫌だ」と毎日自転車で片道3キロを走る。
今年の夏の暑さは異常だったろうに、大量の汗をかきながら漕いでいた。

雨が降ったら、電車を使う。
地元で幅をきかせるクリーニング店の広告丸出しの二両編成の電車に揺られる。

車でたった10分の距離を「自分で行く」ことにこだわる。

昨日は片道8キロの模試の会場に友達と自転車で向かった。
その友達は自転車で行きたいわけじゃなく、親御さんが仕事で送迎をしてもらえなかっただけ。
だから「友達も乗せていくよ」と声をかけたが、自転車がいいからと断られる。

帰り、近道だったはずのサイクリングコースでどうやら事件があり、数台のパトカーと上空にヘリコプターがくるくると回り、あと4分の1のところまで到達していたサイクリングコースをUターン。
田舎道ではGoogleナビも力及ばず、結果、2時間以上かけて帰宅した。

会場で会った他の友達に自転車で来たことを伝えたら「アタオカ(頭がおかしいという中学生御用達表現)」と笑われたそうだ。

時間はいくらあっても足りないはずの受験生とは思えないのだが、勉強量は減ったとしても、自転車を貫く高校受験は彼の人生に必要なのだろう。


そんなこんなの受験生。


その彼、今日はMRIを受けている。

年に数回の検査。

その度に私はいろんな感情でごちゃまぜになりながら車に乗せて連れていく。

寝顔を横目に「これで何かあったら神様も何もないな」と思わずこぼれそうになって、口をキュッと結んで空に目を移す。

数年同じようなことをしてきてるから、もう「起きていない何か」を考えることはしない。

神様は己の中にあると信じているのに、こんな時だけ空を見上げるのもおかしな話だ。


高校生になってほしい。

高校生活を楽しんでほしい。

そのあともこれまでと、みんなと、同じように年齢を重ねて、経験を積んで、大人になって…それは未来への願い。


もっと願いはシンプルに。

「息子といたい」

彼が巣立つその日まで「息子といたい」

そう、彼の隣はあったかい。



MRIが終わったら院内のLAWSONでからあげくんを食べる。

小児科に行って、血液検査と画像検査の結果を聞く。

今回も無事にクリア。

長い会計を「まだかね…」と何度か2人で呟きながら待つ。

やった!終わった!!と、帰りに大好きなくら寿司に寄る。

毎度おなじみのことをこれからもそうやって繰り返す。

けれど、いつかこの25キロの道のりを「自転車で行く」と言い出すかもしれない。

頼もしいじゃないか。



読んでいただきありがとうございました。

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