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【詩】幾何学色の町

この町に、移り住んできた
幾何学色に、切り刻まれた
立体交差のあたらしい町
みずみずしい若木に
芽が、かがやいていた
すべてが、色あざやかで
タイルの路面に、跳ねていた
生え揃わない箱庭に
過ぎし日を知る老木が
腕をひろげ、背筋をのばして
眺めの移ろいを、見おろしていた
町の片隅の、切り取られた森で
手つかずの自然をよろこぶ
風のそよぎに、導かれて
道すじを、振り返れば
いにしえの往来が、湾曲している
町をつらぬき、谷を越えてゆく
アスファルトの、じぐざぐ
いにしえの、けもの道だ
分け入り、踏みしめられた
細い轍が、浮かんで沈む
遠い眺めに、想いをはせて
流れる風に、身をまかせれば
コンクリートの積み木の下に
遣る方のない、においが揺れる

この町も、古びてしまった
彩りの艶は、はげおちた
路面のタイルは、ひび割れている
窮屈そうな箱庭で
過ぎし日を知る老木が
腕をひろげ、背筋をのばして
眺めの移ろいを、見おろしている
町の傍らに、取り残された原っぱ
つどつど、切り取られていく
鳥がつどい、虫があそんだ
手つかずの自然がだまりこむ
風が立ち止まる

この春も、ツバメがやって来た
幾何学色の切れ端で
影のすき間を、飛んでいる
三角四角につなぐ空に
羽根の安堵はあるのだろうか
そうだ、ツバメは知っているのだ
過ぎし日を生きた老木が
見おろしている、刹那の眺めを

この町を、出ようと思う
遣る方のない、においに揺れる
直線が曲線に、出会う坂で
風が息をとめてしまうまえに


©2022 Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。