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【詩】坂のない町

坂のない町に生まれて
坂のない町で育った
どこまでも、たいらで
どの道も、まっすぐ
むこうまで突きぬけていた

おなじ高さのまなざしで
吹きぬける風を浴びて
眺めに耳をすましていた

はじめに空が奪われた
どこまでも、たいらな先を
無愛想な壁がさえぎった
風は行き先をうしなった
虚しく居場所をさがしている

畑地がつぶされた
安易な暮らしをつらねて
無数の命のいとなみを
踏みにじっていく
やわらかな土壌に波を打つ
はぐくむ匂いは葬られた

秩序なく空をめざし
富士の高嶺を沈めてしまった
庭のみどりをあきらめて
鳥の陽だまりを忘れてしまった
花のうたげを捨ててしまった

坂のない地図をひろげて
風のない町を歩いた
どこまでも、よどんだ道に
埋もれてしまった
思い出の小さななごりが
やるせない起伏となって
進もうとする足を躓かせる


©2022 Hiroshi Kasumi

お読みいただき有難うございます。 よい詩が書けるよう、日々精進してまいります。