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インチキ アーティスト スター6

ちょうどクリスマス・イブが失業保険の認定日で、この日 認定しないと今年中に金が振り込まれない。ハローワークに行くと、いつもより女が多く、誰も仕事など探してはいないようだった。

オレの受付予定は昼からだが今は10時で、10分ほど待つと、オレの番号が呼ばれ「メリークリスマス」と言ってハロワの職員の前に座った。

「今日は二時からの認定予定になってますよ」と女性職員は皮肉を言い、「昼から七面鳥を焼く」と答え、それで求職相談は終わった。どうやらオレに関わるヒマはないらしい、年末だ。

来月の認定書類をもらい、逃げるように外に出ると、ヘッドホンをしてクリスマス・ソングを耳に当てる。むかしはクリスマスというと魔法でも掛かったように街中クリスマス一色になったが、あれは歌や音楽のせいだったらしい。

今日は図書館に行って探し物をしなければならない。図書館は指紋の腐った匂いがするので嫌いだが、インターネットは薄い上に改ざんも多い。

本屋は厚い本は置いていない、プルースト全集、トマスマンの魔の山はない。オレの行く図書館は、原一男の極私的エロス恋歌1974、全身小説家の磁気テープを貸し出していたし、ヘンリー・ダーガーの画集も申請すれば閲覧できる。

図書館とは結局は選者の個人コレクションだ。オレとは趣味があう。

二時間かけて死んだ後の資料を漁ったあと、いつも開館から西の隅に座っている老人を探すと、やっぱりそこにいた。「メリークリスマス」と言えば、今日だけは誰とでも話せるような気がして、老人に話しかけた。

老人はノドを指し、口をパクパクさせ、左手でノドを切る素振りをした。

どうやら、しゃべれないらしい。言葉の湖、図書館が私語禁止の貼り紙がしてある意味をオレは納得した。そして、図書館から逃げ出し日の暮れたカフェでビールを飲みながら、ノートを整理しているとウェイトレスが「メリー・クリスマス」と赤い小さなケーキを持ってきた。

ビールを飲み終わり、レジに行くとビールにケーキ代が加算されていた。




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