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ウーバーイーツを初めてみた

  11月の初め、私はやっとこさ見つけた仕事をもう辞めていた。けれど安心してほしい、これは別にネガティブな理由からではなく、単純に夜勤のせいで友達と遊べないのが嫌になって昼勤務に変えるだけなのだ。次の当てもきちんと確保してある。


  ただ、ここで一つ問題が立ちはだかった。年末調整である。私は今年の四月から六月までの間清掃のアルバイトをしていたのだけれど、年内に倉庫労働を再開すると源泉徴収票というものを前の会社に送ってもらわなければいけないらしいのだ。もしそれが間に合わなければ自分で申告とかしなければいけないらしいし、なんだかすごく面倒そうだ。ということで年内はウーバーで稼ぐことにした。軽くググると、20万円まではなんの申告もいらないらしいし。いつでもウーバーできるようにしておくのは、倉庫を再開してからもきっと役に立つはずだ。

  思い立ったが吉日、私はメルカリでUberバッグもどきの3千円のデリバリーバッグを買い、昨日はじめてウーバー配達員をやってみた。

三千円で買ったウーバーバッグ

今日はその記憶が薄れないうちに、記録を書き記しておこうと思う。




  はじめてウーバーをするからには、買ったバッグの代金くらいは稼ぎたい。私は目標を低く持ち、まずは初日は3000円を稼げれば良いことにした。そしてどうやら、ウーバーで稼ぐためには都市部に出なければいけないらしい。わたしはバイクも免許も持っていないので、基本的には自転車を使って都市部まで向かわなければならない。


  きょうは一日中自転車を漕ぐ予定になるはずだからと、わたしは卵かけご飯+カニカマ•豚肉焼いたやつに福神漬け•昨日の残りの鍋の大根をたらふく食べ、ついでにおにぎりと自作のレモネードと韓国海苔とカラムーチョをお弁当に持った。ご飯を作ってうだうだしていると時刻は8:40に差し掛かる。わたしは重い腰をあげ、まずは都市部に向けて出発することにした。


  家を出てすぐの道路でウーバーのアプリを立ち上げて、地図を確認してみる。節約のために電車を使わず都市部に出るなら、2時間はかかりそうだな…。わたしはお昼のピークタイムに間に合うか多少不安になりながら、自転車を漕ぎ始めた。するとすぐにウーバーのアプリがピロポンパンポンみたいな軽快な音をたてて”配車があります”と告げてきた。


  焦ったわたしは画面をタップし、間違えてその依頼を受けてしまった。「うわ、これ微妙に行きたい道と違うやん…ミスったなあ」と思いながらも、キャンセル申請の出し方もわからないので最寄駅のマックへ向かう。わたしの初仕事は2kmほど離れたマクドナルドでピックした料理を、さらに2キロほど離れた家に届けることだった。


  ブンブンと自転車を漕ぎ、そのまま最寄りのマックへ向かう。そしてドキドキしながら料理を依頼人の家の前まで持っていく。わたしは「やっぱりお釣りのやり取りとかしなきゃいけないのかなあ…」と不安に思いながらアプリを確認した。すると「家の前に置いておいてください」と書いてある。どうやらアプリにクレカを登録していない人は、置き配の依頼しか回ってこないらしい。これは嬉しい誤算だと思いながら、わたしは依頼人の家のドアノブにマクドナルドの袋をぶら下げてその場を離れた。

初仕事の売り上げは300円だった




  初仕事を終えたわたしは、そのまますぐに都心への道を進む。道の脇には広大な自然があったり、ビルの街並みがあったり、走るだけで世界はどんどんと景色を変えていく。


沿道の街並み(特定回避のため多少ぼかしを入れている)
(写真を撮る余裕がなかったのでGoogleのストリートビューから写真を拝借した)

わたしはもともと自転車に乗るのが好きなので、これが仕事になるならすごくいいなあと嬉しくなった。


  そのまま道を間違えたり、車しか渡れない橋に文句を言ったりしながら都心部へ入った。最初の仕事が結構時間を食ったのもあって、わたしが次の仕事にありつけたのは、お弁当を食べたたあとの12時くらいだった。次の仕事はショッピングモールの中のおしゃれなご飯を受け取り、3キロほど離れた家に届けることである。わたしはまたもやドキドキしながら自転車を走らせ、都心にあるおしゃれなマンションにたどり着いた。わたしが気づいたことの一つに、ウーバーイーツを頼む人の家は基本的に綺麗だということがある。「やっぱりお金に余裕のある人しかウーバーなんかしないんだなぁ…」と変なことに感心しながら、わたしはマンションのエントランスを抜け、ドアノブに料理をかけてその場を離れた。


  その後ほとんど全ての依頼をこなしても、人間との接触はゼロに近かった。これはウーバー初日に得られた一番嬉しい知見である。こんなにストレスフリーならば、間違いなく今後もゆるくウーバーを続けられるだろう。



   その後も都市部を駆け回り、14:30頃にタンパク質が欲しくなったので近くのスーパーで唐揚げ弁当とスナック菓子とチョコレートを買って近くの駐車場に座り込んで食べる。

やっぱり外でご飯を買うと高くつく

さすがにおにぎりだけでは体がもたないんだなあと思いながら、わたしはだんだん気温が低くなっていることに気づき始めていた。スマホを確認してみると14℃、ギリギリ秋と言えなくはないけれど長袖一枚では肌寒さが耐えられなくなり始めていた。わたしは「さむ…さむ…」と不審者のように呟きながら駐車場をあとにした。


  そのまま注文が多いとアプリに表示されている場所を19:00くらいまで駆けずり回る。けれど何時間もずっと自転車を漕ぎ続けるとお尻、太もも、ふくらはぎが筋肉痛で悲鳴を上げてくる。その日最後の注文を配達し終えた時、最早それは無視できないレベルまで来ていた。流石に帰るか…と思ったわたしは家まで帰るのにまた何時間もかかるのだということに気づいて、一瞬絶望してしまった。


  モバイルバッテリーは2.5回分充電できるものを持ってきていたものの、フルで充電していたわけではないのですでに携帯の電源は20%ほどになっている。また知らないところを駆けずり回るうちに随分遠くまで来てしまっていたので、家に帰り着くのが何時になるやら途方もつかない。途方に暮れたわたしは途中一瞬「もうカラオケで一晩明かすか…?」と考え、21:00ごろに実際まねきねこの店内まで入ってしまった。けれど休日のカラオケの深夜料金というモノは、途方もない。

まねきねこの料金

今日一日駆けずり回った金額が全部飛んでいくことに気づいたわたしは「流石にそれはバカすぎるな…」と思って、寒さと筋肉痛にブルブル震えながらまた自転車にまたがらざるを得なかった。




  「家に帰る間はお金も出ないのに…」ということに辛さを覚えながらわたしは走れメロスのように自分を叱咤激励し、冷え冷えとする空気の中自転車を走らせる。カラオケに入りそうになったのも、さながらメロスが心折れそうになったようなものかもしれない。けれどここで忘れてはいけないのは、メロスが友達のために走っていたのに対してわたしはただ無計画だからこんな目にあっているという事だ。やり切れない。やけっぱちになったわたしは最近覚えたヨルシカの「都落ち」を声に出して歌いながら誰もいない道路を疾走する。歌っている歌はかわいいが、実態は夜の街を徘徊する妖怪のようなモノである。夜が更けるにつれ寒さはどんどんきびしくなり、わたしは今朝の自分の浅慮を恨んだ。


  それでもなんとか橋を越え、24:00くらいには道のりの半分も過ぎた。そんな時ずっと死にそうだった携帯のバッテリーがついにプツっと途切れた。終わった。真っ暗くて知らない道のりを携帯のガイドなしで走るなんて、迷うなという方が無理である。


  困ったわたしはそれでも必死に朝方走った道を思い出し、それに忠実に走ろうと努力した。けれどどうも迷っているような気がしてならない。困りに困り果てたわたしは、道端のコンビニによろめきながら入り、どうか携帯の充電をさせてくれないかと必死の思いで頼み込んだ。あの時快く充電させてくれたおじちゃん店員の顔は、まるで菩薩のように見えた。凍えて疲れている時の人の優しさというのは、本当に心に染みるモノなのである。




  そうやって人に助けられ、よろめきながらやっと1:20くらいに家に帰り着いた。一日やってみて、ウーバーを本格的にやりたいのであればバイクは必須だと確信した。自転車でやっても時給千円くらいは稼げるけれど正直な話、馬力が違いすぎる。今日モノは試しとやってみて、実際に一日で得られた額はこれだけだった。

慣れない道と場所で試しながらやったので、売上自体は目標の3千円を多少超えたくらいに落ち着いた。やってみて思ったのは、結局家の近くでやった方が稼げる遠くの場所までわざわざ出かけるよりいいのではないかということ。次からはこんな大変な思いをして遠くまでは出かけず、家の近くでゆるゆるとウーバーをしようと思う。それと筋肉痛がすごくて大変なので数日は自主的にお休みをし、頃合いを見計らってまた再開しようと思う。こうやって自分で勝手におやすみができるのがウーバーの最高なところのひとつだ。以上、ウーバーイーツを初めてみた。でした。


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生活費の足しにさせていただきます。 サポートしていただいたご恩は忘れませんので、そのうちあなたのお家をトントンとし、着物を織らせていただけませんでしょうかという者がいればそれは私です。