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小説【 あの夏あの島で 】-1-

波多野美歩がはじめて彼を見たのは5月3日。千葉から遊びに来た従妹の結衣を江の島に案内した時だった。結衣は中学2年の14歳で10年前に来た時の記憶がなく、改めて江の島に行きたいと言った。その両親の叔父夫婦は美歩の両親と共に市民会館で開催のクラシックコンサートに行く予定だった。それで美歩と結衣はふたりで江の島に行った。

美歩の自宅は鵠沼藤が谷にあるので海岸までは歩いて25分ほど。それから弁天橋を渡り仲見世通りを登り、観光客のにぎわいの中で「ママー、パパー」と探す男の子を見た。5歳ぐらいの男の子で「迷子かな」と気になったが、

「ね」と一緒に見た結衣はすぐ「あ、あれカワイイ」とそばの土産物屋に向かった。目を離さないように言われていたので美歩は結衣を追いかけた。土産物屋には貝殻でつくったネックレスやイヤリングがあって結衣は手に取り鏡を見る。

迷子が気になって美歩はすぐ外に出たがさっき見た方向に男の子はいなかった。見まわすと坂の上の人ごみから飛び出している。よく見ると肩車をされていた。その肩車をしていたのが彼だった。「どうだ? 見える?」と男の子に聞いている。

「いた!」と男の子は美歩のいる所からさらに下を指さした。美歩が振り向くと若い両親が男の子に手をあげながら来る。男の子よりさらに小さい女の子を連れていて、

「よしよし、よかったよかった」と肩車をした彼は男の子を下ろしながら美歩の横を通過した。

家族と合流すると男の子は叱られ、肩車をした彼はお礼を言われ、「お待たせ」と結衣が土産を買ってきたので美歩はそれ以上見ているわけにいかず、「うん」と参道を登った。どんどん先に行く結衣を気にしながら振り向くと彼が家族と手を振り合い別れるところだった。

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