小説【 dreamers 】15
英理は自室のベッドに転がる。また頭を冷やす。このまま夕飯になれば態度に出る。
私にとっては知らない男でも、ママにとっては知り合い――英理は言い聞かせた。「汚い」なんてひどいかもしれない。好意があるからホテルに行ったんだし。無理矢理じゃなかった。連れ込まれたわけじゃなく同意の上で。
それに嫌悪感とか、不潔に感じるのは子供のせいかも。いつまでも「母」でいて欲しくて。
ママの立場だったらどお?
1年半前を思い出す。英理が高校に入ってすぐ恭子はパートで働きだした。銀行の案内係。結婚前に2年間勤めていたのがやはり銀行で、別系列の銀行だったがその経験を活かして、のはずだった。しかし半年で辞めた。
「昔とは全然違ってね」と恭子は目を合わさず苦笑した。結婚後の15年間は専業主婦だった。
「ムリだった?」と英理が聞くと、苦笑のまま答えなかった。
言いたくないようなことがあったのかもしれない。恥ずかしい失敗とか、それで怒られたりバカにされたり。
ひどいことを言った、と英理は時々思い出す。『ムリだった?』のあの一言は、母を余計傷つけた気がする。追い打ちをかけたような。
悪かった、無神経だったと疼きながら、英理はまだ謝れてない。
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