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【無料公開】若手医師の目線で、無給医問題を斬る。無給医はまだまだ、沢山いるよ。【tea break】

無給医問題をまとめて医療業界の闇を語ります。今回かぎりのネタです。
普段の僕のコンテンツとは完全に独立したネタであり、暇なときに見て下さい。けっこうなボリュームがあります。

① 書こうと思った理由

近年になって報道されるようになった無給医問題。ニュースで見聞きされる方もいらっしゃるでしょう。とても闇が深い問題ですので、noteでは露骨に触れてきませんでした。

運営するブログでは無給医ネタを、ちょくちょく取り上げてきました。アクセスが割と集まる記事群であり、みなさんの関心の高さがうかがえます。ですが、最近になって仲のよい医師の友人から「お前は無給医を煽りすぎている。気にする人は気にする話。無給医問題は人権問題に近い。コンテンツをつくるからには、注意しなさい」とお叱りを受けました。とても優秀で知能の高い友人ですので、従わないわけにはいきません。全面的に謝罪して、最近はブログに書かないようにしました。

そうはいっても、やはりお伝えしないわけにはいかない問題だと思います。医療界の閉鎖性というのは、秘匿性にあると思っています。「みなが言わないから、言わない」、「みなが学位を欲しがるから、欲しい」と。そういった同調性が秘匿性を生み、ひいては今の無給医問題に繋がっていると確信しています。

どうも僕は無意識に文章で人を煽る習性があるようで、その点は反省しております。なるべく不快感の少ないような記事にしたつもりです。現時点で、僕が無給医について見知ったことを、まとめます。ちなみに、僕は大学医局には所属しておらず無給医ではありません。無給医視点ではない業界人として、記録できることを書きました。医者4年目という若手だから書ける内容だとも感じています。noteでも無給医にふれるのは、これ限りにしようと思っています。

ターゲットとする読者様は、下記のとおりです。
・医学部進学希望の高校生、浪人生、およびご家族
・医学部学生、初期研修医、後期研修医
・知り合いに無給医がおり、彼らを心配している人
・その他、ヤジ馬根性のある人

※ それぞれ見出しの下に、キーワードを置いておきます。あまりにリンクを貼りまくると、busyな記事になってしまいます。僕はリンクだらけのbusyな記事がどうも苦手なのです。シンプルな記事にしたい。ですので、どうしても分からなければ、各自で検索を願います。どれも一般的な単語なので、とくに調べなくても大きく意味を取り違えることは少ないでしょう。

② 無給医とは

キーワード:無給医、大学院生、大学医局、専門医資格、学位

そもそも、無給医とはどういった存在なのでしょうか? 

結論を急ぎます。「本来もらうべき給料を十分に受け取れず、いわば搾取された状態で勤務している医師」が、無給医です。ふつうに勤務している以上、給料がもらえないなどというのは常識では考えられないことです。これがまかり通るのが医療界。

こういった異常事態が起こるには、それなりの条件が必要です。医師が無給になってしまうには、医師側にも相応の「事情」があったりします。ここでいう「事情」とは、たとえば専門医資格や学位の取得が代表的です。たちの悪いことに、こういった資格を取得できる医療機関は限られています。それこそ大学病院とか急性期でバタバタしている地域の病院など、です。こういった忙しい病院群が協力しあい、ある種の「資格ビジネス」を実行しているのが現状です。「バタバタして激務な病院だけれど、ここで頑張らないと、資格をやらないぞー」と資格を認定する人たちに脅されているような状況なのです。これら「資格」は、就職や転職で有利になると医師側は思い込んでいるフシがあります。医師の側が資格を餌にされてしまっているため、なかなか強気に労働交渉できないのです。

いろいろ書きましたが、ようは「すごく忙しいわりに、給料を減らされてしまっているかわいそうなお医者さん」って認識で、大きく間違っていません。

③ 実例

キーワード:当直、学生

イメージしやすいように実例を挙げます。以下の友人Aです。

友人A:眠れない当直勤務が月に8回もあてがわれている。気になる給料は、20万ちょっと。「学位を欲する大学院生はあくまで学生なので、給料を受け取れる身分ではない」とは彼の弁。バイトする暇もない。

おおまかなモデルケースは、上記の友人Aみたいな形です。バリエーションは勿論あって、バイトに行けるようなら、それなりの月収(70万くらい)になります。土日にバイトするので、過重労働にはなりますが。

④ 医療界 vs  経済界

キーワード:医療費亡国論、少子高齢化、保険診療

新型コロナで浮き彫りになった、「医療界」と「経済界」のギャップ。「医療をまもると経済が死ぬし、経済を守ると医療が回らず人が死ぬ」っていう、アレです。この無給医問題を語るうえでも、こういった医療と経済の相互作用に無関心であってはいけないのです。そしてギャップが発生するのは、この国の医療制度の設計に根差しているんじゃないか、と。僕のなかで確信に至っています。

意外に思われるかも知れませんが、医療行為の値段っていうのは、日本国内で一律に決まっています。「採血は●●円」、「レントゲンは●●円」といった具合に。田舎でやろうが都会でやろうが、一緒。おそろしく社会主義的な予算設計なのですよね。もちろん、一定のインセンティブはあります。条件をクリアすれば値段が上がったりしますが、それらも微々たるものです。

こうやって決まった値段をもとに、病院は収入を得るわけです。この保険診療の医療費については、ざっくり7割は税金なのです(医療をうける人の年齢によっても変わります)。僕らが病気をしても、7割は国がお金を払ってくれます。こうやってみると国のお財布にとって、医療費というのは「支出」になるわけです。

国の予算を決める偉い人からみると、あくまで医療費は「支出」です。国の活力がなくなってくれば、どうしたって抑制したくなるものです。高齢化で医療には需要がある、といっても病院の収入は抑制傾向にあります。需給バランスによってサービス料金が落ち着くことがないのです。

⑤ 解決策

キーワード:厚労省、財務省、予算案

外的に期待できる解決策は、現状で存在しません。

「●●医大が無給医がいる!ほかの大学には、いないのに!」っていうなら、●●医大の責任もあるでしょうし、個別の事案だと思われます。

ところが現実には「●●医大に無給医がいる!よくみたら●●大学の医学部も!」ってことで。無給医に給料を払ったら、数々の大学病院は赤字に転落する。これはもう、一つの大学が個別の事案として経営が下手なわけじゃないのではないか、と。先にのべたような、医療の制度設計に関わる問題なのではないでしょうか。

最近では、現役の「無給医」がメディアやSNSで発言することも見られるようになりました。程度の差こそあれ、「医局が悪い。病院経営者が悪い」といった内容に終始しているように見受けられます。しかし本当にそうなのでしょうか。医局長や教授を吊し上げれば、無給医がいなくなるような問題なのでしょうか。

普通の脳ミソでちょっと考えれば、違うと気づくでしょう。保険診療の医療費は、教授や医局長が決めるわけではありません。その意味では、医局は極めて「医師側」の立場なのです。医局をたたくのは、お門違い。

ようするに、医療の予算の話につながります。厚労省が財務省からどれだけの予算(医療を含む社会保障費)を頂けるか、ってレベルの話になります。医局長とか教授とか病院長とか専門医機構のおっさんとか、そういった「医療界で登場するキャラクター」の話にとどまりません。東大法学部卒だらけ、国のトップ・エリートの財務省を含む官僚たちの采配になる。そのレイヤーの話だと、現場の医師「ごとき」では通じない世界です。ドロドロしてエグい、グロテスクな世界です。放置されてきた理由が、そのへんにあると思ってます。いくら末端の無給医が叫んでも、国のエリートはダンマリでしょう。

長々となりましたが、要は社会保障制度の歪みに落ち込んだ業界のため、何をチョイスしてもドン詰まり、ってわけです。何を選んでも大した差がなく、辛いのは皆おんなじ。SNSやそのほかメディアで無給医が登場して叫ぼうが、国のトップは見ていませんから。ターゲットの選定をミスっているため、ほんとうに意味がない。やるなら無給医の署名活動や厚労省あての要望書提出、などのほうが余程生産的です。

⑥ 教訓

個人として出来ることは、以下のとおりでしょうか。もちろん、国家レベルで根本的に改善して欲しい問題ですが、現状ちょっと難しいでしょう。自分の身は自分で守るのです。なるべく自分の選択のカードを広げて、いざヤバくなったら逃げる。流動的な考えを受け入れるようでなければ、この業界を渡り歩けないです。

★自費領域で、医師としての価値を提供することです。自費診療領域は資本主義的な市場ですので、競争も激しいでしょう。しかし、さすがに無給というのは聞いたことがありません。

★無給がどうしても嫌なら、医局には入らないほうが無難です。給料が民間病院より安いとされる国立病院や公立病院であれ、大学よりは給料は高いです。若手でも1000万に乗ります。

★鬱寸前なら、休みましょう。休んだあとで、フリーターから再開するのも一手。フリーターの時給は高いです。

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