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【きくこと】 第9回 絵描き 木下ようすけ


木下ようすけ
炭水化物及び食べることをこよなく愛する絵描き・イラストレーターとしてPOPEYEの表紙などをはじめとした雑誌・広告・書籍・音楽・壁画・映像など様々な媒体で幅広く活動する。普通と言われるコトはとても奇妙に見えることもあるし、奇妙と言われるコトもなぜか普通にも見えることもあり、その両方を行ったり来たりしてる様なものを描いてみたいと思っている。

染谷:図書館について語るときに我々の語ること。特別バージョンと言いますか、場所を変えてお送りしていきたいと思います。「超図書館総合研究所」が完成しまして、今日はここからお送りしていきたいと思います。

廣木:我々自己紹介するのを最近忘れてて、お前は誰だっていう感じになっちゃうんで、染谷さんの方からよろしくお願いたします。

染谷:わかりました。私は株式会社ひらくの染谷拓郎と申します。普段は本のある場所づくりを事業にしておりまして、箱根本箱とか文喫とか様々な場所のプロデュースや運営をしております。

廣木:私は図書館総合研究所の廣木と言います。全国の公共図書館を作る時のお手伝いをさせていただいております。

染谷:今日はゲストに木下ようすけさんをお招きして、この超図書館総合研究所のビジュアルを作ってくださったということで、そのあたりの話とか色々聞いていきたいと思います。早速お呼びしちゃいましょうか。木下さんよろしくお願いします。

木下:よろしくお願いします。

染谷:この場所でやるのが初めてで、ちょっと僕らも空気を見つつというか、考えながらやっていければなと思います。木下さんを今日はお招きして色々お話を聞いていきたいなと思いまして、簡単に自己紹介と今の活動内容を最初に伺ってもいいですか?

木下:わかりました。イラストレーター、絵描きの木下ようすけと言います。普段は雑誌やWeb関係のお仕事ですとか、広告のイラストを描く仕事をしています。あとは展示で自分の作品を出展したり、物語や絵本とかそういうものを作っている感じですね。もともと音楽でドラムもやっていて、ドラムのサポートですとかそういうのもやってます。

染谷:もともと今回の超図書館総合研究所、「超研」と今呼んでますけど、このビジュアルを作ってくださった経緯としては、僕が木下さんが手掛けられたミュージシャンのアルバムジャケットを見て、この方のにお願いしたいということで今回依頼させていただいたと。

木下:ありがとうございます。

廣木:元々お知り合いではなかったんですね。本当に一ファンとして声をかけて、よく受けていただいて。ありがとうございます。

木下:面白そうだなと思いました。ありがとうございます。

染谷:今キャリアのお話がありましたけど、イラストレーターになってどれぐらいなんですか?

木下:一応、屋号を出したのは2006、7年ぐらいだと思います。

染谷:15年とか。

木下:なんとなく描いてたんですけど、ちゃんと仕事としてというならそのぐらいです。

廣木:もともとはドラマーとしてお仕事されていて、こうして絵も描かれている。両方やられてるんですか?

木下:そうっすね。聞こえはいいですけど元々バンドをやってたんですよ。20代の時は一応インディーズなんですけどバンドをずっとやっていて。それでバイトしながらみたいな、まあまあいい感じのアウトローみたいな感じでやっていて。

元々僕絵本がすごい好きで。長新太さんとか、そういう昔の日本のちょっと変な絵本作家さん、ちょっと狂った感じの人たちがすごい好きで。自分の好きな音楽の姿勢と似てるなと思って、それで大人になってからすごく好きになりました。

あと元々僕大学を卒業した後に幼稚園で働いてたんです。護国寺の幼稚園で仕事をしてて、その時は完全に担任とかではなく、資格もその時持ってなかったので、脳性麻痺の子を抱っこしながら、みんなの補佐っていうかそういうのをやっていました。

染谷:療育みたいな?

木下:そうですね。子どもとアートっていいなって思いつつ、バンドもやってた感じです。そこは3年ぐらいでもうやめちゃったんですけど。そういうのもあって、その時に結構子どもに対してのアートとか興味があって。実際に子供と接した時に、なんか「子ども向け」ってすげえ嫌な言葉だなと思って。自分の好きなことをどうやったら伝えられるかって、子どもは結構素直に受けてるので、結局自分が本当にやりたいこと、創作のことをやった方が子供に響くんじゃないかなと思って、絵本作家というよりは創作したいなってずっと思いつつもバンドをやってたみたいな。

一応もうそのバンドは解散じゃないんですけど、今は活動を休止していて、ちょっとずつイラストの仕事を始めたのはその後からですかね、バイトしながら。僕は本当に普通のイラストレーターさんとかとはちょっと違う道を辿ってきてるので。学校に行って勉強したとかそういうタイプの人間ではないので、割と変っていうか。会社にポートフォリオを作って100社ぐらいこう出して一つだけ引っかかるみたいな、そういうのはやりましたけど、仕事しながら自分の腕も上げてくみたいな、そういうやり方でやってきました。

廣木:今までどういう媒体を手掛けられましたか?

木下:皆さんが知ってるやつだと最初は「ソトコト」のイラストの仕事をいただきました。今もずっと続けているのは住友生命の会員の方に、本を毎月紹介する雑誌があるんですけど、そこで毎月イラストをもう6年間ぐらい描いてます。あとはBSのNHKで「ねこ育ていぬ育て」ていう番組があって、そこでももう3年4年ぐらい。年に4回ぐらい書いて、あとはもう雑誌とかバラバラなんですけどPOPEYEもそうですし、そういう仕事をしてますね。

染谷:こういう空間のビジュアルとかっていうのはありますか?

木下:もしかするとあったかもしれないですが、こういう会社はあんまりない気がします。

染谷:基本はwebとか雑誌媒体。アルバムジャケットとかアートワークみたいなところの、この間の僕が見つけた小田晃生さんのやつとかは割と珍しい方って感じなんですか?

木下:ジャケットは本当に最初の時に何枚かやってますね。最近ちょっとやってないんですけど。

染谷:ご自身のバンドのアートワークとかもやられてるんですか?

木下:それはやってないですね。やらせてもらえなかったです(笑)結構みんな写真とかできる3人だったので。

染谷:長新太さんとか、ちょっとへんてこナンセンス的なそういう絵本とかに興味を持ったのはどれぐらいの時期ですか?

木下:高校3年とかだった気がしますね。持ってはいたけど、長新太ってこんな面白い人だったんだとか。なんかあの時代って結構横のつながりがすごいじゃないですか。元々イラストレーターとしてやってるわけじゃなくて、編集者の方も多分横のつながりがね。例えばアンパンマンの作者のやなせさんも伊勢丹のデザインやりながら絵本も書いたりとか、そういう良い時代だなとか思いつつ、やりたいことができてたんだろうなとか思って、なんか楽しそうだなとか、そういうのはなんか今も結構あるかもしれないですね。

染谷:その時はもう絵は描いてたんですか?

木下:描いてはいたんですけど、なんかあんまり自信がないっていうか。なんかもうフラフラフラフラしてました。音楽もやりたいし、自分の中で腹が座ってないっていうか。でも逆に回り道してよかったのかなとも思います。

廣木:そういう中で絵を本気で描いてこうってこう決めた瞬間とかってあるんですか?

木下:全然かっこいい話じゃないんですけど、結婚してからなんですよね。僕の妻が振り付けの仕事をしてるんですよ。もともとコンテンポラリーというかダンサーで、その時は2人組ユニットでちゃんと作品を出してて、最近だとサニーデイサービスの振り付けとか、しまじろうの振り付けとかもやってるんですけど、彼女の創作タイプが僕と似ていて。その時僕は契約社員として印刷会社で働いてたんですけど「1回、お金ないかもしれないけど仕事辞めなよ。絶対やんないよ」って言われて、仕事全部辞めたんですよね。それでさっき言ったようにポートフォリオ送ったりとかしてたら仕事が本当に来るようになって、最初は結構大変だったんですけど、ドラムのサポートとか子供向けの太鼓のサポートとかしながらなんとかお金をかき集めて。それ以来は一応バイトはしてないです。日本的な世の中だと結構ありえないとは思うんですけど、なんとかなるなと思いました。逆にそういう状況じゃないとやらないタイプだったので本当に良かったです。

廣木:奥さんが仕事もう辞めなよって?

木下:そうなんですよね。本当に創作をやりたいんだったら、中途半端に仕事行って

廣木:疲弊するなと。

木下:はい。本当に疲弊して帰っていたので。たぶんストレスが溜まってたんだと思います。僕はこの時間に創作ができるなとかずっと考えたりしてたし、この満員電車に乗ってる間に絵が描けるなとか。だったらやめろよって(笑)

染谷:それが何歳ぐらいの時なんですか?

木下:年齢的には29、30とか。10年前とか、それでなんとかやってきたみたいな。

廣木:最初に仕事が取れるまでは相当不安じゃなかったですか?

木下:めちゃくちゃ不安でしたね。

廣木:どのくらいで取れましたか?

木下:まあでも屋号取ったのが15年くらい前なんで、4年ぐらい経ってるのかな?学校に行こうか迷ったんですけど、そのお金もなくて。結構がむしゃらだったからどういう経緯になるかわからないけど、とにかくやろうみたいな。関係が近い人の仕事をしたり絵の手伝いとかそういうので、周りの協力や支えもあってみたいな感じもありますけどね。

廣木:その時期は図書館とかは行ったりしましたか?

木下:やっぱりアートの作品とか絵本もそうですし参考に借りたりはしてましたね。

廣木:それは良かった。一応図書館ってNGワードなんですけど、図書館について触れてはいけないっていう(笑)

木下:そういうルールだったんですね。

染谷:図書館のことを直接聞かずにいろんな人の話を聞いていくと、結果的に今後の図書館のために何かアイデアが出たりとか、そういう風になるんじゃないかっていう、ちょっと回りくどい考え方じゃないですけど、そういう感じでやってます。

今のこの木下さんの作風っていうかシグネチャーが固まったのはどれぐらいの時期なんですか?

木下:割と最近かもしれないですね。僕本当に変わってきちゃうので、どんどん変わっていくタイプだったんで、今も変わるかもしれないんですけど。僕の近くにいる人は根本的には変わってないって言う人が多いですけど、多分考え方が変わってないんだと思います。

染谷:意識して作風を変えようみたいな時期はあるんですか?

木下:あります。やっぱりすごい悩みますし、一応イラストレーターっていうお仕事なので、わかってもらわないと意味がないというのもあって、それぞれ自分がやりたいことをどのくらいできるかっていうさじ加減のお仕事だと思うんですけど。多分イラストレーターの方によってはそのさじ加減が全然違うので、イコール価値観っていうか。イラストレーターっていろんな人がいるのでなんとも言えないんですよ。

僕は割と出ちゃうタイプというか、ちょっとごちゃごちゃしてる感じ。言うと単純なんですけど、僕は何か物を考えるとき、友達とかと会って話してる時に何個か同時に違うことを考えちゃうんですよね。怒ってる時に面白いこと考えたりとか。それは僕の場合ですけど、感情が悲しいとか面白いとか、割と日本的な考えだと一方通行なんですけど、その中に色々入っているんじゃないかなっていうのを絵でやりたいっていうか。

あともう一つ、いろんなそのバイトとか仕事してた時に、すごくマイノリティの人たち、いろんな人たちを見てきたので、そういう人たちが結局コミュニティにもやっぱ関係してるんですけど、絵でそういうのをこうピックアップとかできないかなっていうのは、あんまり言葉にしたことないんですけど僕は割と考えているかもしれないですね。

似顔絵で、「調味料似顔絵」っていう似顔絵をたまにイベントの出展とかで描いてるんですけど、それは似顔絵を普通に書いて、Tシャツの柄っぽいところにその人に調味料を名付けるみたいな。例えば塩麹とかみりんとか。血液型でAB型とかO型とかなんかそれで人判断するのすごい嫌なんですけど、調味料を名付ける感じだと僕もすごいグレーゾーンで言ってるのでなんか別に傷つけないんじゃないかなと思って。さっきの話と繋がるかわかんないですけど、そういうなんかいろんな人たちがいるよねみたいなのを絵でやりたいんだろうなと思います。そこは変わんないですね結構。

廣木:この絵もまさに、今「超研くん」と我々は勝手に呼んでますが。二面性、多様性。


木下:まさにそういう意識はかなりあると思います。これをこういうふうにしようとは別に文字にはしてないですけど、この絵の彼も二人にも見えるし一人の人間としても見えるし、いろんな2つの側面があるみたいな、人間とかなんかそういうキャラクターが本を読むみたいなイメージは最初に思いつきました。

廣木:こっちの絵(画像下中央)も二人でちょっと言い合いしてますよね。

木下:そうなんですよ。そこも見てる人が考えてくれれば。一応僕の中で設定はあるんですけど割と自由に考えてもらえたらいいなと思って描きました。

染谷:僕が最初木下さんに依頼させていただいた時もかなりアバウトというか、コンセプトだけお伝えしたんですよね。あんまりガチガチに言っちゃうとあれだなと思って自由にって言ってお願いしたら本当にすごいいろんな解釈で作っていただいて。

木下:逆にこうなんか本っていうものが、図書館に限らず古本屋さんとかで、自分が死んでも残る気がしてて。この絵(画像上中央)の本も彼がたまたま落としたのかわざと落としたのかわからないですけど、そういう本を全然違う人がまた読んで、読み継がれてくみたいな。それでその人の人生が変わったりとか動いたりする感じが本の本当に素晴らしさだと思うので、そこをうまく表現できないかなと思ってちょっとした物語っぽくしたんですけど。これもなんか最初砂漠にしようと思ったんですけど、多分おじさんがわざと落としたのかな、どっちだったかな。色んな人たちが読んでっていう感じかな。

廣木:こっちの人たち(画像下左)は本じゃないですよね。

木下:完全に音楽ですね。一応その音楽とか録音もするって言ってたので、そういうの入れたいなと思いました。

廣木:僕ちょっとこれがずっと気になってるんですよ。

木下:この模様ですよね。最近の僕の特徴っていうか、全然関係ない模様を入れるのが好きで。そこに意味は込めてないんですけど、そもそもこの絵も漫画じゃないですけど物語っぽい感じで書いていて、でも1枚の絵でも見れるみたいなそういう絵が好きで描いています。漫画みたいにコマを描いても、その良さはあるんですけど、もう少し一つの絵で見るときにちょっとこうバランスを取ったりするときにとかちょっと余計なもの入れたらどうなるかっていうのをここに入れた感じです。

廣木:闇がここにあって、そのままここに吸い込まれるのか、吸い込まれないのかみたいな。

木下:それ面白いですね

廣木:なんかこうすごい明るい色で、絵もこの絵本から始まってるけども、ちょっと気持ち悪さもあって。見ていくと深い闇もありそうな、そんなことを感じながら見てました。

木下:よかったです。

染谷:わかるものだけだったらやっぱり長く見れないというか、わからないことがある方が一緒に長くいられる感じがあるというか。

木下:それは結構意識してると思います。

染谷:きっとそうですよね。

木下:わかりやすいものがちょっと難しいですよね。それはそれでわかりやすく伝えるっていう素晴らしさもあると思うんですけど。

廣木:最初染谷さんにお願いする時に、メキシコの死者の祭りみたいな、あれも骸骨とかそういう感じだけども色彩は鮮やかですよね。祭りっていうからにはっていう感じで。いろんな要素が一緒くたになってる、逆のものが一緒になってるとか、あるいはそのアンディ・ウォーホルのスカルってあるじゃないですか、あれもまあ題材はガイコツで何種類かあると思うんですけど、結構色彩は明るくて、なんかああいう感じを求めてたんですよ。もうこれはそういう感じだと思ってるんですけど。

木下:黒は結構入れたいなと思ってたんですよね。これも一発で描くことはちょっと難しくて、僕もほんとiPadでかなり描いて完全に作ってからこれを描いたので。

染谷:iPadで描いてからどういうプロセスでキャンバスに写すんですか?

木下:もうそのまま描いてそれを見ながらもう一発で。一応下描きはすることもありますけど大体の位置決めて。それ通りとは若干違うんですよね

廣木:最初にデータをいただいたじゃないですか、いいなと思って。そのあと原画持ってきていただいて、そしたらなんか混乱しましたよね。普通なんか原画があってそれのデータですってくるのかなって思ってたら、データが下描きっていうか。多分見てる皆さんわかんないと思うんですけど、立体感があるんですよこの絵って。なのでそのデータでは絶対できないこの手描きならではの。

木下:そうちょっとボコッと、こういうちょっと草っぽい感じの質感ですね。

実際にiPadで描いてからキャンバスに描くのはめちゃめちゃ楽しかったです。やっぱ実際に描く方が楽しいんで。

染谷:最近僕はいろんなプロジェクトで、イラストレーターの方とかアーティストの方にお願いするときに、デジタルデータだけで納品いただくんじゃなくて元々アナログで描いてる人に声かけするのが最近僕の中で結構好きというか。

別のプロジェクトの河合浩さんと言って割と抽象的な絵を描く方がいるんですけど、その方にも原画で描いてもらって、それをデジタルにしてみたいな感じで。

普通にイラストレーターの方に納品データとしてもらうんじゃなくて、物として残ると、それをその場に置くと何かまた別の協奏が生まれるんで全然違いますね。それは結構最近意識していて、そういう方にお声かけしたほうがプロジェクトがうまく転がるような気がします。物がここにあるっていうのがすごくいいなと。

廣木:超研にいらっしゃった方にはぜひじっくり見てほしいですね。この絵の裏にも実は…。何も言わずに黙ってお帰りになったので(笑)。

染谷:後で見つけてうわーみたいな(笑)

木下:そうなんですよ。確かに前は結構アナログでやってたんですが、最近は映像系の仕事だと結構iPadが多くて。

僕の超個人的なあれですけど自律神経的には良くないですね。頭も痛くなるし。やっぱ手で描いている方が個人的には好きみたいですね。

廣木:iPadで描くと自律神経的に良くないんですか?

木下:一応メガネをつけてるんですけど。

染谷:ブルーライトとか。

木下:なんかそこから始めなくて良かったなって最近つくづく思います。でも最近の若い方とかタブレットだけで描いてる人たちもすごいなと思うし、その良さもあるんですけどね。個人的に描く気分だけですね、本当はそっちの方が好きです。

染谷:そのクライアントワーク的に雑誌とかwebとかそういうところから依頼があるっていう話と、個展でっていうのがあるじゃないですか。それは今全体のバランスだと(アナログとデジタルの割合は)どれぐらいですか?

木下:半々ですね。なるべくアナログで描こうと思ってるんですけど、時間の制限ですとか直しとか修正が入る場合はiPadで描いている方が多いかもしれないです。

染谷:クライアントワークとかでここをちょっと直してほしいみたいなのはiPadになると。

木下:何個かちょっと重なっちゃうと描き直すのが難しいので。

染谷:僕が吉祥寺の個展を拝見させていただいたときに、キャンバスじゃなくて木のフレームみたいなのがあるじゃないですか、あとタイルのやつとか、そのフレームみたいなのも全部ご自身で作られてるんですか?

木下:そうです。普通の額ではなく、額の枠の部分がちょっとはみ出したりとかちょっと変な形をしてる額に入れてるやつですよね。それは一応僕が設計して友人の木工作家の方にやってもらったんですけど、なんか額も含めて作品を作りたくて。さっきメキシコの話をされてたと思うんですけど、無意識だと思うんですけど多分そっちの方の絵がすごく好きっぽいです。その額を作る時に友人に渡した参考資料も、画像がたまたまそっちの方の絵の額も多かったので、なんかやっぱ好きなんだろうなと思いますね。

染谷:ナンセンス絵本みたいな話もありましたけど、そういうんじゃなくて海外のアーティストから影響を受けたみたいのがあるんですか?

木下:それ言われると本当に出てこないですね。誰だろう。

染谷:1人ではないってことですよね。確かにそれを言われると難しいかもしれない。本当にいろんなものがお好きですね。

木下:映画もすごい好きで、漫画も好きですし、最近だとグラフィックノベルでアメリカの漫画小説?ほぼ漫画なんですけど、面白くてすごい読んでますね。実際にそのままこう映画になってるやつも結構多いので。大人向けの絵小説みたいなのもすごい好きで読んでます。それが直接絵に影響を受け、与えてるかって言ったら…難しいですね。

廣木:やられてた音楽が絵に影響することはあるんですか?

木下:かなりあると思うんですよね。ちょっとお話ししたかもしれないですけど、ハードコアのFugaziってバンド。

廣木:またFugaziですね。ここに来る人みんなFugazi(笑)

木下:みんなFugaziなんですか (笑)うるさくないけど変なバンドがすごい好きだったんで。うるさいバンドが好きなわけじゃなくて、ちょっとひねくれてるって言うんですかね。そういうのがすごい好きなので、それはかなり無意識にあると思いました。精神性とかはなんかあんまり…。肯定してる部分もありますけど、それを好きな人たちの話を聞いた時に、わかるけどなんか違うなっていう部分もちょっと個人的にはあるので、もう少し単純な話なんじゃないかなって思ったりもすることがあるので。僕個人的にですけど、割と好きなものとして、「みんなやってない音楽を想像する」とか、「色々組み合わせてやっていく」みたいなやり方がありますけど、音楽で実験とか音楽を楽しむってそういうことじゃないかなと思うので。そういう人たちからはかなり影響をうけているかもしれないですね。

廣木:そうですね。パンクを通過してる絵というのは感じました。

木下:好きみたいですね。90年代のそういうオルタナのバンドとかは反応してますね。

でも最近の若い女の子とかすごいリバイバルがあるじゃないですか。それすごいいいなって僕思ってて。要素だけそういう音とかありますけど、本当に自分の人生を歌ってる感じ、完全にオリジナルに昇華してる感じが好きで。

染谷:どういう感じの人たちのことですか?リンダリンダズとか?

木下:リンダリンダズも割とそうですね。あの子たちもそうですね。

染谷:CHAIみたいなことですか?

木下:CHAIもそうですね。イギリスのビーバードゥービー(Beabadoobee)っていうフィリピン系のイギリス人の女性なんですけど、割と自分の性の話とか、彼女は男性の子と付き合っておりますけど(Beebadoobeeはバイセクシャルであることを公表している)、

自分の話をする手段としてそういう音楽の要素も入れたりしていて、ライトでなんかいいなと思って。

染谷:ルーツとかバックグラウンドとかがちゃんと作品にも出てくるし、それを隠さずにやるみたいなね。ジャパニーズ・ブレックファスト( Japanese Breakfast )の人の本とかもそういうことが書いてありますよね。

木下:多分そういうジャンル的な感じで僕も実際バンドでやっててそれがあんまり好きじゃなかったんですけど、発表会みたいになるのがすごい嫌で。好きな人たちだけで集まって、一緒に頑張っていこうぜっていう感じならいいんですけど、そこでこう集まってやるだけってなんか広がりがないなって。やっぱり結局全然音楽をよく知らない人たちに向けてやって考えてる方がすごく創作なんじゃないかなと思うので、その考え方は割と自分が絵を描くときにはかなり意識してるかもしれないですね。自分のそういう気持ち悪い部分とかひねくれてる部分もあるけど結局見る人にそのままやって伝えてもしょうがないんで。やっぱり見てる人たちがどう思うかっていうところは常に考えてはいるつもりですね。

染谷:僕の企画とかも本の企画で出版業界の人だけが見るみたいな形に閉じやすいんですけど、結構オルタナティブっていうか違うやり方をするようにしているので、今の話は結構僕も意識してやってますね。だからこそ業界の人からすごい無視されてるというか、あんまり見られないってっていうのか。でもなんかそこに(業界に向けて)やっててもしょうがないじゃんみたいな。

廣木:このイベント自体がそうですね。図書館業界から外れていろんな人に話を聞くというのが。

木下:なんかいいですよね。図書館でそういうのやってほしいです。それこそ今小学2年生の息子がいますが、閉じた世界に押し込められている感じはすごいするので。せめて家だけとかはいろんな人に会わせようと思ってます。

染谷:その絵本を作るとかそのワークショップは今もやられてるんですか?

木下:作るって言って全然作れてないんですけど、もうそろそろいいだろうって感じで今作り始めてますね。

染谷:それはそのZineじゃなくて商業出版っていう形で?

木下:そのために案はあるので。仕事はしつつちゃんとそれは形にしようとは思っています。

染谷:できた暁には、いろんな書店とか図書館とかでイベントとかやられるんであれば、ぜひご一緒したいですね。ワークショップとかをもしやられるのであればこの場所を使っていただくこともできますし。

木下:超研のテーブルの形すごい面白いですよね。なんかあんまり見たことないなと思って。ここに20人ぐらい来たときに、どういうコミュニケーションになるのかすごく興味があります。

染谷:このテーブルの天板を挟んで使うこともありますし、この中にいろんな棚があるんですけど、それをテーブル的に使うこともできるので、この中にいくつか島を作ることもできるみたいな感じで。いろんな使い方ができるかなと思います。

木下:色々なとこで発生してもいいし、なんかみんなで一つのことやろうというのも素晴らしいですけど、それぞれでやってるみたいなことがやりやすそうだなというイメージを受けました。

染谷:作るところまではまずは全力でやりましたけど、ここから先どういう風にやっていくかっていうのがまだまだこれからなので、いろんなこの場所の使い方の企画をこれからどんどん考えていきたいなと。

廣木:ここで本当にいろんな個展とかで使っていただいても。

木下:すごい。確かにでもなんかそういうねワークショップ的なのも面白いですね。

廣木:とにかくここでいろんなことやりたいんですよ。

木下:具体的には?

廣木:その説明はまた別の放送で。とにかくいろんなことをやってもらって、その中からまた何か新しいものが生まれるだろうと。

超研にはあえて時計をつけなかったんですけど、時間がわかんないですね。時間を忘れたいなと。もうでも結構喋りましたね。

染谷:そうですね。

廣木:はいじゃあそろそろですね。なんか締めの言葉みたいなの言わなくて良かったんでしたっけ?

染谷:締めの言葉は特にないんじゃないかな。

廣木:護国寺の保育園でのエピソードが僕結構好きだなと思って。子供たちに子供向けの絵を描いてあげるんじゃなくて、自分で一番いいと思う、そういうものをぶつけた方が子どもに興味持ってもらえるみたいなそういうお話があったと思うんですけど、なんか本当にそういうことなんだろうなと思って。

図書館っていうのも児童コーナーとか青少年コーナーとかいろいろ分けるんですけど、分けた方がもちろんいいこともあるんですけど、「君はこれだから」ってこっちから押し付けることっていうのがいいかどうかっていうのがもっとこう、図書館でこんなに語っていいのかあれですけど、自由に来れる場所っていう中で、もうちょっと自分が好きな作品に触れられる、なんかそういう場になっていくべきなんだろうなと。それを表してくれている絵なのかなという風に聞きながら思いました。

木下:嬉しいです。図書館で思い出したんですけど、去年ちょうどこの12月24日ぐらいの時に図書館ってリソグラフの印刷機あるじゃないですか。たまたまプレゼント用にサンタの絵を描いて、時間なかったんで図書館にやりに行ったんですよ。その時全然使われてなくて、そこで全部僕直して、刷り終わって余ったやつを全員図書館の人にあげたんです。次の日に行ったら飾ってあってちょっと嬉しかったですね。すごい嬉しそうに受け取ってくれたのがその時めちゃくちゃ嬉しくて。

廣木:嬉しかったでしょうね。本当はそういう図書館員がそういう何かを与えないといけない。忙しくてあれなんでしょうね。

染谷:どんな場でもそうですけど、そういう硬直しちゃう場面が多いじゃないですか。特に図書館とかだと普段の業務も忙しいでしょうしみたいな。それがなんか属人化によってなされるものなのか、マニュアルでなされるものなのかは置いといて、そういう風に割と自由に場が育っていかないと多分そういう風にならないっていうか。結構人による部分はあるかなって感じなんですね。いくら場があってもそこの人っていうのは結構あるから。僕らもいろんなお店の経営とかもしてますけど、やっぱ人にすごいよっちゃう部分があって。でももはや人によって(提供することが違って)いいなと思ってて、なんかそれを平易化する必要もないし、その人がいるから成り立つでいいじゃんって最近はちょっと開き直っているというか。

木下:でも大事ですよね。

 

染谷:すいません最後話を広げてしまいました。じゃあ終わりましょうか。今日のゲストは木下ようすけさんでした。ありがとうございました。

廣木:ありがとうございました。

木下:ありがとうございました。

2022年11月25日収録