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『コロナのせいで高級魚が売れない』以前のお話

ちなみに知らない人もいるかもしれませんが私は元魚屋で、いまは魚の流通の支援などをしています。子供向け魚料理教室先生してます。大学で流通も教えています。

そんな元魚屋が思う、魚の流通の問題。コロナのせいで飲食店が営業できず、高級魚が売れないという話があります。しかし、それ以前から魚の需要は減り続けており、漁業を抱える村落は大きなダメージを受けてきました。そのあたりの話をしておきたいと思います。

1.魚は高すぎるのか??

魚は高い?なぜ魚を食べなくなったか。魚食普及センターが2019年にした調査詳細を見ると、次のことが分かります。
肉料理の方が簡単(≒魚料理は手間がかかる)
・魚の方が健康に良さそう(でも、現実には食べていない)
しかし、実際の声でよく聞くのは「魚は高くつく」という声です。(少し前ですが有賀さんのnote引用)

魚価は魚の獲れ具合によって変わりますが、この数年明確に上昇しているのは、マグロ、イカ、タコ、エビ、サーモン(輸入)など、食宅にはなじみの深いものですが、それ以外の魚(例えば秋刀魚等)は年によって変動していて、魚価全体が上がっているかというとそうではないです。

加えて、魚の価格を決めているのは今となってはスーパーマーケットがほとんどで、水産業者は値段を上げたくても上げられない、というのが実際のところです。また、価格弾性力と所得弾性力統計が近年のものが少なくなっているのですが2007年までの計測では魚の所得弾性値はマイナスで、所得が上がると消費量が減る、という状況を表しています(内閣府の国民経済計算など参照)。つまり、これでみると実勢所得が上がっていないのであれば魚は消費が増えるはずです(ただ、所得弾力性の数値は経済状況や社会構造の変化で大きく変化します。私は所得弾性力による消費動向推測は補完にしかならないと考えています。)

※この記事書く前に内閣府や農水省のHPできるだけ見て、所得弾力性の最新データ見ようとしたけど、全然ない。で、いくつかの大学論文見てみたが、鮮魚などの価格弾性値がそれぞれの諸与条件で違う(当たり前といえばそうなんですが)から、参考になりにくい。

ただ、魚離れは価格の問題だけではないです。


2.流通業の事情

・メインの魚種の価格決定権がほぼ下流にあり、漁業者が漁獲高をコントロールすることで価格を調整できない。
※これに対抗して、大阪湾のイワシ巾着網の水揚げ場所を集約・セリ取引にすることによって価格を上げた事例はありますが、すべてのさかなについては適応できません。
・そもそも自然のものだから魚を獲れるか獲れないか難しいから、獲れるだけとってしまいたい漁師のモチベーションを抑えられない➡結果獲りすぎ➡価格上がらず

これらによる水産業自体の衰退、消費地への提案力の低下、若者漁業離れによる収穫量の逓減、養殖業者の低迷。で、結局スーパーが売りたい魚しか流通しなくなる(でも加工とかは上流に押し付ける)、でも別にスーパーの店頭ではちゃんと提案力があるわけでないから、お客様が買わないというマイナススパイラル。

に、加えて

・魚より肉系の加工品や惣菜作るほうが手間がかからない
・魚屋は水道代電気代人件費半端ない(肉屋に比べて)
・ロス率半端ない(肉屋に比べて)

・だから、店舗で捌くのではなくセントラルチッキンで切り身など加工するが、どうしても鮮度的に見劣りする➡味がちょっと悪い、売れない
という、加工業や流通業(スーパー)の事情が複合的に絡んでいると思います。
(全体的に生鮮品が日本においては安いと思っております。安すぎ。国産の野菜肉魚米はもう1割から2割高い値段で買ってくれないと農業漁業絶対やっていけない。これは小売・流通の事情、仕組みもあるが、、、中間流通排除すればいいという問題でもないと思っています)


3.消費者の事情

家庭のキッチンがコンパクト化して、魚を洗ったり捌いたりする場所がない(魚屋時代のお客様談)
・ごみの日が週2回しかないから、今日はゴミの出ないハンバーグにするといったゴミ事情
料理の仕方がわからない(捌くどころか、どれだけ焼いたらいいかとか分からない)
・家帰って料理する時間がない

という家庭の事情もあります。

また、魚を買うにしても「刺身」「寿司」が中心になっています。私が魚屋をしているときでも、年々その売り上げ費が高くなっていることを感じました。しかし、刺身を作るにしても寿司でも、「職人の手間」が非常にかかります。そりゃその分、『価格の割に魚は(食べる量が少ないので)高い』という感想になります。

しかし、それは「魚の偏食」を招きます。特にウナギとマグロとサーモン。刺身用の鯛とハマチ、ブリもある程度食べていますが、刺身より切り身で焼き魚煮魚で食べる人が減っています。子供に魚料理の先生していますが、多くは家庭の上記の事情によって食卓は決まってしまいます。もちろん子供が魚食べたいというのであればお父さんお母さんも意識してくれるでしょうが、大半の家庭が回転すし屋につれていくことでしょう。農水省による魚をたべましょう運動は一定の効果があるとみています。問題は、それで輸入サーモンばっかり食べても仕方ないので、ウオゼやウマヅラカワハギやイシモチやシイラやトビウオ食べましょう、ということが大切だと思います。あとは国産わかめ使いましょう。乾燥わかめのほとんどは中国産です。


4.コロナのせいで高級魚が売れない対策

今まで述べてきたように、家庭で魚を食べることが少なくなっています。いろいろな魚がもっと消費者が鮨と刺身以外の方法で食べるようになり、水産業へ、地方へお金が回る仕組みを作ることが大切だと考えています。
高級な魚が売れなくても、普段の魚がしっかりとお金になっていれば、産地はコロナ後まで維持できるかもしれません(そもそもそういう魚はそれなりに少ないから価値が出るものです。3000円で売れるヒラメが1匹揚がるより、あまりお金にならない魚20匹を、相応の値段で買ってくれる方が日本国中でみれば漁業にとってプラスです。)

もちろん、それでも高級魚全体の売れ行きをカバーするまでには至らないかもしれませんが、松坂牛などは家庭用でも売れているのに、ノドグロやキンキのような高級魚がそこまで家庭用としては引き合いは強くありません。過程で美味しい料理になりにくいという意識があるのだと推察します。

漁師さんや産地のストーリーもいいのでしょうが、多くの消費者の意向としては調理のしずらさ(もしくは、美味しくする調理方法を知らない、できない)やゴミが、といった考えの方が上回ります。まちの小さな魚屋さんがほぼ絶滅している今、下処理を家庭に求めるのも酷ですが、魚はむつかしいという概念を取り除きたいのが今の想いです。包丁の使い方が悪いだけ。

一部、角上魚類さんなど魚の専門店舗さんなどがにぎわっているのは、魚を伝える人がいることと、魚の魚種が豊富で、買い物が楽しい、魚をもっと食べたい、と思いにさせていることが成功の要因ではないかと推測しています。

というわけで、皆さん魚を食べましょう。


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