●解説
NHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」が1993年に放送した、強制連行された当事者たちの証言である。この番組では、厚生省(当時)の倉庫に眠っていた、戦時期に動員された朝鮮人の名簿(6万7千人分)から関係者を探り当て、その証言を得ることで、動員の実態を明らかにし、補償もなされていない現状に焦点を当てている。
今や直接聞くことが難しくなった当事者の証言も映像に記録されている。引用は、兵庫県の生野鉱山に動員された3人についてのもので、本人やその妻の生の声だ。
証言から分かるように、彼らは村の有力者の圧力で、あるいはくじ引きで選ばれて仕方なく、あるいは夜にやって来た警官に連れられていった。番組タイトルにあるとおり、まさに「強制連行」である。
だが、2000年代の、特に安倍晋三氏が政権中枢に入ったころから、日本社会では「強制連行」という言葉自体が使われなくなり、「そもそも強制連行などなかった」という主張も宣伝されはじめた。
最近のテレビでは、「韓国の主張はおかしい」とする日本政府や「識者」の言葉ばかりが紹介されている。だが20世紀の終わりごろまでは、戦争における加害の歴史を振り返るドキュメンタリーがNHKでも民放でも放送されていた。
今となっては、当時のことを証言できる当事者のほとんども他界してしまっている。だが、こうして過去に制作された映像記録や書籍などを発掘すると、このように、そこには貴重な証言がたくさん残されているのである。