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「0と0の最大公約数」とは?

私は日頃から「数学で一番大事なのは定義だ」と言っている。私が監修している高校赤チャートのコラムにも、そのように書いた。「定義」に関連した話題としては、

  • 定義が曖昧なので起こる問題点

  • 定義が「相応しくない」ので起こる問題点

の二つがある。今回は後者の方の話題だ。

自然数$${a}$$と$${b}$$の最大公約数は、高校までの数学では$${a}$$と$${b}$$の公約数の中で最大のもの●●●●●とされる。この「定義」のよくない点は

  1. 本来、整数の整除関係のみに依存する概念である「最大公約数」の扱いに、大小関係が混入している。

  2. 本来、二つの整数に対して定義されるべき「最大公約数」だが、この「定義」では$${0}$$と$${0}$$の最大公約数が定義できない。

最初の点に関して言うと、例えば、普通の整数ではなくて(最近では暗号理論などでも登場する)ガウス整数$${\mathbb{Z}[i]=\{a+bi\mid\textrm{$a,b$は整数}\}}$$のような、一般化された整数の概念を考えてみるとよい。$${\mathbb{Z}[i]}$$でも整数の整除関係と同様の議論ができるが、$${\mathbb{Z}[i]}$$には大小関係がない。

しかし、もっと注目されるべきなのは2.である。$${0}$$と$${0}$$の最大公約数はどうするべきか?$${0}$$は「すべての整数」を約数にもつ。となると、$${0}$$と$${0}$$の最大公約数とは「すべての整数の中で最大の整数」ということになってしまうが、そんなものはもちろん存在しない。

ここで重要なことは、この問題は些細な問題であるとか、便宜上の問題であるとかではないという点だ。「$${0}$$と$${0}$$の最大公約数は存在しない」でよいのでは?とか「$${0}$$の$${0}$$乗と同じように臨機応変に定義すればいいのでは?」という意見もあるだろう。しかし、この問題はそういう問題ではない。(後で説明するように)「$${0}$$と$${0}$$の最大公約数は$${0}$$である」という唯一の正しい答えが存在する問題である。

しかし、私はこのように言うことで「高校数学の最大公約数の定義は修正すべきだ!」と主張しているわけではない。高校の教科書は自然数の場合だけで閉じているので、これはこれで問題はない。とはいえ、数学を教える立場の人たちを含めて、より多くの人たちに「本当はこうなのだ」ということを、きちんと知ってほしい、とは思う。

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