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四次元空間を認識するための訓練法

私たちは三次元の空間に生きています。この空間を、私たちはどのように認識できるようになったのかを、考えてみたことはあるでしょうか。

空間認識能力の獲得方法について考えてみると、より高次の空間であっても、訓練すれば空間認識できるかもしれません。

この記事では、空間認識をどのように私たちが獲得できるのかを考えるところから始めて、私たちは四次元空間を認識できる可能性もあるという話を掘り下げていきます。そして、四次元空間を認識するための訓練の手順についても触れていきます。

■空間認識能力

四角い部屋にいるとします。ある角に立って、その対角線上にある角に移動するとします。その場合、対角線上を歩いていくというのが、最短距離になるはずです。

もし、私に生まれつき視覚がなかったとしたら、対角線上を歩くことが最短であると気づくことができるでしょうか。

これは二次元の平面上での空間認識能力をどのようにして獲得することができるかという問題です。

視覚に頼ることなく、例えば壁沿いを手で伝いながら歩くことを繰り返すことで、4つの壁があることや、4つ目の壁の端まで来ると、最初の角に戻って来る事がわかるでしょう。

さらに、その向かい合わせになっている2つの角は、壁沿いに進むよりも、壁から離れて進む方が早くたどり着ける事も、歩いていれば気がつくでしょう。

視覚を持たないため四角という視覚的なイメージを頭の中に持つことはできませんが、感覚的なイメージとしての四角という概念は持つことができるでしょう。

感覚的なイメージとしての四角形であっても、その幾何学的な形状の性質が把握できるなら空間認識能力を獲得したと言えるでしょう。

二次元平面の空間認識ができるなら、三次元の立体的な空間認識もできるようになるでしょう。

四角い部屋の床の一つの角から、向かい側の角の上にある天井側の角の間も、直線で結ぶのが最短距離だと直感できれば、三次元の空間も認識できたことになります。

■四次元空間の認識

このように空間認識能力の獲得について考えてみると、視覚の有無にかかわらず、三次元の立体的な空間を越えて、四次元空間を認識できるかどうかという興味が湧いてきます。

二次元の四角、三次元の立方体のように、四次元にも真っ直ぐな辺と直角な角から構成される四次元立方体があります。

私たちのいる物理空間は三次元ですので、四次元空間を目の前で見せることはできませんが、幾何学的には四次元空間を想定することはできますし、四次元立方体を明確に定義することができます。

その目で見ることのできない四次元立方体は、視覚的なイメージを持つことは困難ですが、訓練すれば感覚的なイメージを掴むことはできるかもしれません。

これは、視覚がない状態で三次元の立体空間を認識することに似ています。四次元立方体のどの角が最も離れた対角であるかや、その対角同士を結ぶ直線を直感できるようになれば、四次元の空間認識ができたことになります。

■四次元仮想空間

ゲームやバーチャルリアリティにおいて、平面のディスプレイ上に、三次元の世界を仮想的に再現することができています。

その中のアバターを動かしたり、視線の向きを変えることもできます。この時に、アバターの視線の向きは、通常は上下と左右に動かす事ができるはずです。

この仮想空間としての三次元空間は、幾何学的な空間データと幾何学的な視覚の法則から成り立っています。

三次元空間の中での視点の位置と方向が動くと、それに合わせてその視点から見えるはずの景色をコンピュータが計算して、ディスプレイにそれが表示されます。

同じように、四次元の幾何学的なデータを用意して、幾何学的な視覚の法則を定義すれば、コンピュータによって四次元空間内の視点から見える景色を、ディスプレイに表示することができます。

この時、アバターの視点の向きは、三次元での上下と左右に加えて、もう1つ軸が加わるでしょう。

■四次元空間認識の訓練法

アバターの視点から見た三次元空間内で、コンピュータが操作する敵を銃で撃って倒していくシューティングゲームがあります。FPS(First Person Shooter:一人称視点のシューティングゲーム)と呼ばれるゲームです。

このゲームでは、プレイヤーは視点の向きを操作して、敵に素早く照準を合わせることが重要になります。

初めのうちは、3次元空間であっても、敵は同じ平面上に立っていることが多いでしょう。するとプレイヤーは上下に視点を動かす必要はなく、左右に視点を動かすだけで敵に照準を合わせることができます。

ゲームが進んでくると、木の上や建物の二階に敵が現れるようになります。すると、左右だけでなく上下にも視点を動かさなければ照準を合わせることができません。左右の視点移動だけに慣れているプレイヤーは、この上下の動きを的確に出来ず、初めのうちは苦労することになります。

しかも、この視点の動きの操作方法には2パターンがあり、手元のゲームコントローラのスティックを左に傾けると、アバターが左に視点を動かすパターンと、画面に見える景色が左に動くパターンがあります。上下についても同じです。このパターンはゲームごとに異なっていたり、設定で切り替えたりもできます。

このため、あるゲームでの視点移動の操作に慣れていても、別のゲームでは戸惑う事があります。ディスプレイの左上に敵が出てきた時に、とっさに左上にコントローラのスティックを傾けると、景色が左上に動いて敵が視覚から消えてしまうという事があります。頭で理解してから操作をしていると間に合わないため、プレイヤーは何度も練習してこの操作に慣れる必要があります。

同様に、四次元空間のシューティングゲームを作る事ができるでしょう。初めのうちは、左右の視点移動、その次に上下の視点移動を必要とする段階が来ます。そして、さらにその先に、四次元空間特有の追加の視点移動軸が必要になる段階が来ます。

ここでプレイヤーは戸惑う事になります。左右の視点移動と上下の視点移動だけでは、照準を合わせることができない位置関係にいる敵が出現するためです。これに気が付いたら、追加の視点移動軸を動かすことができる追加のコントローラスティックを傾けてみることになります。すると、左右と上下だけでは照準が合わなかった敵に、照準が合わせられるようになります。

これは、最初に左右の視点移動しか使っていなかったときには、木の上や二階にいる敵に照準を合わせることができなかったことと同じです。空間上の敵の位置に応じて、動かす視点移動の軸自体を変えたり、組み合わせる必要があるのです。それは二次元空間でも、三次元空間でも、四次元空間でも、同じです。

また、視点のスティック操作にパターンがあるために、スティックを動かしたときにどのように仮想空間内の視点の移動に繋がるかには訓練が必要だったように、四次元空間特有の視点移動の軸についても、初めはどちらに動かすと視点がどのように変わるかが直感できずに戸惑うでしょう。

この軸は私たちは実生活でもなれていないため、頭で考えても理解することはできません。しかし、それを素早く的確に操作して敵を照準の中に納めないと、ゲームを進めることができません。四次元空間を認識できている敵から見れば、三次元空間しか認識できてないプレイヤーは格好の餌食です。

これは、地面に立って二次元平面上にしかうまく視点を移動させられず、左右に銃を向ける事しかできない相手を、木の上から狙って打つようなものです。お互いの認識できている空間の次元の差は、このように圧倒的な違いとなります。

そこで、プレイヤーは何度もゲームを繰り返し、この四次元特有の視点移動の軸の操作に慣れるように努力をするでしょう。頭で考えていても視点操作のスティックのパターンを素早く動かすことができないように、四次元空間を頭で理解する必要はなく、慣れることで体が感覚として覚えることが重要です。

そして繰り返しゲームを遊んでいるうちに、四次元空間での視点移動を徐々に感覚として掴むことができるでしょう。そして、最終的には敵が三次元空間にいても四次元空間にいても、最短の視点移動のスティック操作で、敵を照準に収めることができるようになるはずです。

ここまでくれば、そのプレイヤーは四次元空間の空間認識を獲得したと言えるでしょう。

■身体操作の拡張

四次元空間で、特別な視点移動軸を操作することに慣れるということは、単に空間認識の話に留まりません。このプレイヤーは、自分の現実の身体が持っていない視点の移動を体得した事になります。これは、身体の操作として、私たちが生まれ持っていない部位を、あたかも自分の身体のように操作できるようになるという事です。

それは例えば三本目の手かもしれませんし、三個目の目かもしれません。仮想的に与えられ、訓練を積むことができれば、私たちはそれらを操作できるようになるということです。

もちろん、三本目の手を動かすためにゲームのコントローラを手で操作しなければならないとすれば、そのために手を拘束されます。このため、操作できる身体の部位が増えるというよりも、置き換えになるように思えるかもしれません。しかし、脳を直接コンピュータに接続する技術も登場してきています。

ゲームコントローラのスティックを操作しなくても、脳から直接指示を出せるのであれば、身体の2本の手と、仮想空間あるいはロボットの3本目の追加の手を同時に操作可能です。そして、訓練を積めば、それをすべて自在に操る事も出来るようになるでしょう。

三個目の目も、脳に直接つながるのであれば、元々私たちが持っている視覚を邪魔することなく、訓練を積めば両方の景色を同時に見て、空間を把握することができるようになるかもしれません。

■さいごに

私たちは、この空間、身体、感覚を当たり前のものだと捉えています。しかし、最初から私たちは三次元の空間に、この身体と感覚を持っていることを知っていたでしょうか。

この記事で書いたような考えを遡ると、そもそも私たちの脳は、空間が何次元であるか、どのような身体や感覚を持っているかを知らなくても、生まれた後に学習や訓練をしていくことができることになります。

もし、初めから全て四次元の仮想空間の中で行動して完全に四次元の空間を把握したとすれば、三次元の視覚的イメージまでしか持てない私たちよりも、数学や物理学における高次元の概念を理解しやすくなるかもしれません。これを人が試すことは実際上も倫理的にも問題ですが、人工知能であれば可能かもしれません。

四次元が出来れば、五次元、六次元と空間軸を増やしていくこともできるでしょう。私たちのいる現実の物理空間と身体と感覚は三次元に拘束されていますが、仮想空間とアバターであれば、次元数に制限はありません。

数学や物理の理論だけでなく、現実のデータを分析する際にも多面的な評価が求められます。また、システムとして複雑な関係や仕組みを持つものは、多面性を持ちます。私たちが日常的に言語で表現している物事も、実に多面的な構造を持っています。

これらは物理空間としてではありませんが、論理空間として三次元や四次元どころではなく、非常に高い次元を持っています。空間として三次元に縛られている私たちには、それを視覚的にイメージして捉えることが困難です。もし四次元や五次元のデータや構造を視覚的にイメージできるようになれば、様々な知的分野で、新しい視点や発見が得られるに違いありません。



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