気配

今日は澄んだ空気によく日が照っていた。鍵を閉めて、アパートを出ると、ふんわりと鼻腔をくすぐるような匂いが漂ってきた。春は近い。鬱気が身体に滲んでくる。

春になると軽い憂鬱状態に陥るのが、自分の中ではもう毎年の恒例行事のようになっている。理由もなく心に支えがなくなって、ふらふらと宙に浮いているような気分になるのだ。ようこそ今年もいらっしゃいましたね、と憂鬱を客体化し、受け入れることで気分の沈下を緩和するという術を年を重ねるごとに身につけたが、しんどいものはしんどい。雨降りの日に傘をさして歩いても、なぜか身体の一部分が多少濡れてしまったりするのと同じだ。

今年も春の渦に飲み込まれてしまうのだろう。でもそれでいいんだと思う。流れにそって泳いで、いく。ここは渦の渦だ。

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