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海外で働けるトキシコロジストという研究者の道 - 2. 珍しく認定資格が取れる研究者

僕は製薬会社の中でトキシコロジストとして働いている研究者です。十分な治療法がなく、新薬を待っている患者さんに画期的な新薬を開発し、それを届けることに関われるやりがいのある仕事です。日本で教育を受けた者が、海外の企業で研究者として働き続け、生き残っていくことは、とてもチャレンジングです。その中で、トキシコロジストは、日本人がアメリカやヨーロッパで働き続けやすい研究者の道と感じています。その理由のひとつが今回紹介する認定制度がある研究者であることです。

僕は日本で6年制大学の獣医学科を卒業し、獣医学士として製薬会社の研究者となりました。ラッキーなことに製薬会社に入った後で、会社で博士号をとるための研究をさせてもらい、仕事をしながら、大学院から論文博士号を取得することができました。もちろん、博士号を取ることは自分の中の大きな目標であったので、取った際には大きな達成感を味わえました。しかし、日本にいる間に、博士号を取ったことの社会的価値を大きく感じることはありませんでした。たかが、名刺の自分の名前の横に、獣医学博士と付け加えられて何となく箔がついた程度でしょうか。それでもって給料が上がるとか、昇進するとかという明らかな付加価値は何もありませんでした。

しかし、アメリカに渡って超ジョブ型雇用、かつ超学歴格差社会を目の当たりにし、自分が日本で受けさせてもらった博士号取得までの教育、学歴が、いかに大きなもので、感謝すべきものだったことを痛感しました。アメリカでは研究開発型企業の中で、ある程度上級職の研究者ポストに就こうと思うと、雇用条件に、博士号研究者(Ph.D)あるいはそれと同等の者という条件が入ります。事情があって学士や修士で学歴をストップし、企業の研究者となった人は、何年もかけて経験を積んでようやく博士号研究者と同等となれるか、結局なれないで終わってしまいます。逆に言うと、たとえ社会に出るのが何年も遅くなろうとも、博士号まで学歴を積み上げることは、将来の仕事での成功を考えた場合には、十分に見返りのある先行自己投資なのです。アメリカの大学の学費は、公立大学でさえ日本に比べて超高額です。Ph.Dを取得するまでの経済的負担はすごいものです。とても残酷な超学歴格差社会だと思います。もし、僕がアメリカ生まれで、Ph.Dを得るまでの学歴をすべてアメリカで行うことを想像するとぞっとします。日本で就職した会社のサポートで博士号(Ph.D)を取得できた僕は本当に感謝せねばならない幸せ者です。

超ジョブ型雇用で超学歴格差社会のアメリカ企業で働いていく中で、Ph.Dとともに、自分を守ってくれる大切な武器になってくれるのが、認定制度です。そして、研究者の中では、珍しく認定制度があるのが、トキシコロジストとなのです。通常、研究者というと、それぞれの研究者が多種多様な研究を行うので、統一した試験などを行って認定制度を作ることは、ほとんど不可能です。しかし、トキシコロジストは、物質の毒性を評価し、その毒性が、人体、生物、生態系、環境へどのような影響を及ぼすかを評価する研究を行うので、トキシコロジストの知識・経験を評価する認定制度を作ることが可能であるし、その認定試験をパスした認定トキシコロジストが行った評価は、一般的に信頼性の高いものと取り扱われます。

特にアメリカの製薬会社が、トキシコロジストを募集する場合、Ph.Dに加えて、トキシコロジストの認定資格であるDABT (Diplomate of the American Board of Toxicology)を取得していることを募集条件にすることが多いです。DABTを持っていないトキシコロジストが行った新薬の安全性評価が信頼されないなどということは全くありません。しかし、僕のようなアメリカ以外で教育を受けた外国人研究者が、アウェイであるアメリカの企業でトキシコロジストとして働き続ける場合には、Ph.Dに加えて認定トキシコロジストであることは、自分を守ってくれる強力な武器になるのです。このため、研究者の中では、認定制度のあるトキシコロジストという研究者の道は、アメリカで生き残っていくためには、お勧めの道なのです。



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