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【書き起こし】『無限ファンデーション』×大崎章監督

活弁シネマ倶楽部です。
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南沙良主演!!全編即興&オールロケ『無限ファンデーション』を大崎章監督が語る!!活弁シネマ倶楽部#42

(森直人)始まりました、活弁シネマ倶楽部。この番組のMCを務めます、映画評論家の森直人です。どうぞよろしくお願い致します。というわけで、今回のゲストを早速ご紹介したいと思います。『無限ファンデーション』の大崎章監督です。どうも。

(大崎章)よろしくお願いします、どうも。

(森直人)ようこそおいでいただきました。

(大崎章)いえいえ、嬉しいです。

(森直人)いやいや。昨年末に実は初めて、チラッとご挨拶させて頂いて。MOOSIC LABの授賞式で。

(大崎章)MOOSIC LABの授賞式ですね。

(森直人)年末でしたよね。

(大崎章)そうですね。

(森直人)その時は本当、でも話してないんですよね。

(大崎章)話してないですね。

(森直人)実は今日ほぼ、初めましてみたいな感じで。

(大崎章)そうですね。あの時は相当な人数がいて、司会なさっていますし、他にもいっぱいいたので。

(森直人)ですよね。だからちゃんとお話させて頂くのが今日初めてということで、大変楽しみにしてまいりました。

(大崎章)とんでもないです。

(森直人)いやいや、どうぞよろしくお願いいたします。

(大崎章)よろしくお願いします、はい。

(森直人)今日は話長くなりそうな気がするんですけども(笑)まずは、大崎監督の簡単なプロフィールのご紹介からさせていただきたいと思います。

(大崎章)あ、あるんですね、そういうのが。

(森直人)あります。もちろん。まぁ実はこの段階でもう、既に色々聞きたいことがウワーっと起こってくるんですけども。

(大崎章)嬉しいですね。

(森直人)濃厚な経歴で。では、ちょっと行きたいと思います。1961年生まれ、群馬県出身でございまして、龍村仁監督に師事され、ドキュメンタリー番組、CMなどを製作。まずここでもいきなりサラっとは流せない(笑)

(大崎章)流せないですよね(笑)

(森直人)エピソードが出てきますよね。龍村仁監督に師事され。ちょっと後でお聞きしてよろしいですか。まぁその後、フリーになられ。助監督として、これがすごいんですよ。『無能の人』竹中直人監督。『あの夏、いちばん静かな海。』『ソナチネ』北野武監督ですかね。で、諏訪敦彦監督の『デュオ』。篠原哲雄監督の『洗濯機は俺にまかせろ』。庵野秀明監督の『式日』。黒木和雄監督の『スリ』。あとテレビ『私立探偵 濱マイク』などにも携わって。で、あの、山下敦弘監督の『リンダリンダリンダ』では監督補をして。すごいですよね。これ、この作品歴、誰よりもすごいっていう最強のフィルモグラフィー。でも本当90年代以降のなんか日本映画の最前線を生き証人として。

(大崎章)生き証人、最前線。嬉しいですね。

(森直人)いや、でも本当にそうじゃないですか。僕すごい影響を受けたラインなので、ウワーっていうか、圧倒されます。

(大崎章)たけしさんとか。

(森直人)いや、もう、もろですね。ガラッガラの劇場ですごい衝撃を受けたっていう、90年、91年、92年。

(大崎章)『3-4X10月』とか『ソナチネ』、もちろん『あの夏、いちばん静かな海。』も全然入らなかったんですよ。

(森直人)全然入らなかった。それは身をもって学生の時、体感したんですけども(笑)

(大崎章)ただなんか、本当にその数人の中の若い人は衝撃を受けていたっていう話も、あとで。

(森直人)いや、本当そうで。あの中にいた数少ない人が、かなりの率でこういう業界に来たりしていると思うんですよね。

(大崎章)嬉しいですね、本当ね。

(森直人)そして2006年、足立紳さんのオリジナル脚本による。

(大崎章)そうですね。

(森直人)監督デビュー作『キャッチボール屋』が公開されまして。これも僕とても好きな映画で。音楽がSAKEROCK。これまた。

(大崎章)音楽SAKEROCKですよって言いたいぐらいすごいんですよ。

(森直人)すごいですよね。そう。これまた今をときめく、星野源さんとか浜野謙太さんとか、ね。で、この作品で第16回、日本映画批評家大賞新人監督賞を見事受賞。ここまですごい、キラッキラしている経歴の後が、なんか長いんですよね。空白が。ほぼ10年経過し、2015年に監督第二作『お盆の弟』が公開。脚本は再びあの、足立紳さんで。出身県の群馬県を舞台にご自身の自伝的要素が。

(大崎章)売れない映画監督。

(森直人)売れない映画監督の映画という。そう。これもちょっと後でお聞きしたいんですけど、はい。で、これがまたその内外から高い評価を獲得して。ヨコハマ映画祭で主演男優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞の4冠に輝いたと。そして、昨年MOOSIC LAB2018で、長編監督第三作となります『無限ファンデーション』が、これまたベストミュージシャン賞に、ここに書いてあるんですけど、西山小雨が輝き、女優賞に南沙良さんが輝き、スペシャルメンション賞に日高七海さんが輝いた、という。全部評価高いんですけどね。

(大崎章)いや、評価。どうなんでしょうね。

(森直人)そう。で、8月24日から公開で。丁度この収録日のまさに直前って感じなんですけども。

(大崎章)まさに収録日言っちゃっていいんですか。明後日公開ですね。

(森直人)ちょっとこれお忙しい時に。

(大崎章)いやいや、とんでもないです、嬉しいです。

(森直人)今どうですか、劇場公開控えての感じっていうのは?

(大崎章)あぁ、いやなんかね、緊張していますね。とても緊張して、色々こう宣伝のために日々動いているんですけど。とっても緊張。日々緊張が高まって来ているっていうか。なんか新人監督のような気分で。

(森直人)初々しい感じ。

(大崎章)そうです、そうです。本当に。

(森直人)でもその新人監督のように、って今おっしゃったのが本当すごいなと思うんですけども。この無限ファンデーションが、直井卓俊さん主催のMOOSIC LABっていう、通称ムーラボと言われている人気映画祭がありまして。気鋭の映画監督とその気鋭のミュージシャンのコラボレーション企画をやる人気映画祭で、僕ずっとコンペの審査員やらせていただいているんですけども、昨年そこに大崎監督がこの作品でエントリーされまして、もちろん歴代最年長。

(大崎章)最年長ですし、多分さっき言ったその賞を取っていたりするじゃないですか。で、この歳で50、つまり去年、55歳過ぎている訳ですよね。ムーラボという映画祭に55歳過ぎてヨコハマ映画祭で賞を取ったやつが来るって、それはちょっとなかったんじゃないかと言われました。

(森直人)いや僕もびびりました。えっ、すごい。いや、でもね、感動しました。やっぱりその、なんて言うんでしょうかね。

(大崎章)映画に、ですか?

(森直人)映画もすごいし、まずその大崎さんエントリーされたっていうその気概と言いますか。

(大崎章)聞いたんですよ、直井さんに。これって、誰が出てもいいの?って言ったら、「あぁ別に規定はないです」って言うから。

(森直人)確かにない、確かにない。だから一人、広げたみたいな。

(大崎章)じゃあ俺出ていいのって言ったら、「別にいいですよ、企画があれば」って言ったから。

(森直人)さすが直井さん。

(大崎章)さすが直井さんですよね。いや、だから、でも、多分俺ぐらいの歳の、俺ぐらいの経歴だと多分出ないと思うんですよね。なんとなくあの雰囲気というか。

(森直人)いや、だって、まず基本皆、若いじゃないですか、エントリーが。

(大崎章)そう、皆若い。大体大学生とか。

(森直人)そう、あの、ね。この番組にも出ていた女性監督とかもいらっしゃるんですけども、本当にその大学の卒業制作だったり、出たばかりだったり。20代、30代で。まぁ30代だったらもうかなり年増っていうようなイメージ。

(大崎章)ですよね。俺あんまり知らなかったんですよ。知らないって言ったら変ですけど、まぁあんまりすべて調べて行った訳じゃなくて、まぁ映画が撮れるんだったらいいし、逆に若い人いっぱいいるっていうのもあぁ逆にいいな、って思ったんですよね。何となく自分で。それでもう、あ、これ行ってみようかなって。

(森直人)そう。さっき普通出ないようなっておっしゃった通り、第一回が2012年だったんですけども、グランプリが今泉力哉監督で。今泉さんが当時まだ30ちょいですよね。今泉さんが出るって言うだけで、「いやもうあんたいいやん」って皆。

(大崎章)当時ね。

(森直人)そう。もうプロで撮っていたし。でも直井さんとしては皆を発奮させようと最強プレーヤーを敢えて投じるっていうような意気込みがあったらしいんですよ。

(大崎章)いやなんか、だから今年直井さんがね、僕をいいよっていう所にやっぱり直井さん、彼の企画力って言うんですか、あると思うんですよね。

(森直人)そうですよね。緊張感がやっぱり走ると思うんですよね、皆ね。えー、すごいの来たよっていう。

(大崎章)嘘でしょってすごい言われたんですよね。

(森直人)で、大崎さんもやっぱりその、なんて言うんでしょう。そもそもアウェイな所に行くっていうノリだから、緊張感っていうのがお互いあるって感じになりますもんね。

(大崎章)あぁ、ありますよ。なんか若い人ばっかりじゃないですか。いやだから、あとで色々、ムーラボのメンバーとすごい交流ができたんですけど。

(森直人)このお人柄もありますね、やっぱりこの気さくな。

(大崎章)おっさんに優しくしてくれるんです。若い映画人が。

(森直人)皆さんが。尊敬していらっしゃるんですよ、やっぱり。

(大崎章)そうだと嬉しいですけどね。

(森直人)だから結構本当すごい監督を輩出していて、第2回のグランプリが山戸結希さん、『おとぎ話みたい』で。まだ山戸さん大学出たての頃。

(大崎章)そうだったんですよね、あの当時ね。

(森直人)で、そのムーラボでまぁ評価もすごく高かったですし、すごいみずみずしい青春映画をおっさんが撮られて。

(大崎章)おっさんが撮ったという。

(森直人)女子青春映画ですよね。

(大崎章)そうです、はい。

(森直人)しかもまぁご存じの方多いと思うんですけども、全編即興。

(大崎章)ここがミソですね、本当に。

(森直人)全部ワンテイクなんですか?本当に。

(大崎章)あ、えっとね、全部ではないんですけど。

(森直人)ほぼほぼ?

(大崎章)ほぼほぼ後半は特に、ほぼほぼワンテイクで。今から思うとすごかったなと思って。この人たちの集中力。

(森直人)そうですよね。本当に信頼関係もそうだし、役者の強度がないと崩れちゃうっていう。撮り直しはでもワンテイクってことはほぼなしで進んで行った?

(大崎章)だから後半は撮って、撮り終わったらこれ以上のものは無理だっていう位、皆俳優陣はもう出し切っているので。だからもうこれでオッケーってことが多かったです。

(森直人)やっぱり全力疾走終わった後で、もう一回走れ、はないなって。

(大崎章)ないし、あと最初の頃にもう、はいオッケーって言ったら皆、特に近藤笑菜が言ってたんですけど、「これはただことじゃないぞ」って思ったらしくて。これ一発で全部出さないと、要するに何人かいるじゃないですか。一発で全部出さないと、あ、私はやれなかったってなるから。これはただことじゃない、って思ったらしいですよ。

(森直人)本当その、群像劇ですし。結局チームプレイなので一人がトスをし終わったら、ガッて。

(大崎章)そうです。でも、例えば部室のシーンとかで、まぁ7,8人でやっている訳じゃないですか。そうすると誰が何をやるかって全く決めていないから。

(森直人)すごいなぁ。

(大崎章)そうそう。そこでもう。

(森直人)こわっ、っていう。

(大崎章)そう、怖かったみたい、相当。俺も今から思うと、いや怖かったなって思いますけどね。

(森直人)まさにその近藤さんが確かMOOSIC LABのパンフレットだったのかな、ちょっとコメント出してくれまして、リハーサルすら撮影前3回ぐらいやったぐらい。そのリハーサルというのは、大体って感じなんですか。

(大崎章)そうですね、実はリハの時は相当皆不安で、正直言って俺も。

(森直人)皆不安(笑)

(大崎章)皆不安で。リハの時は本当にやるシーンをやっても意味がないし。で、一応やったんですけど、まぁリハの時やったのが、菜乃華ちゃんが南沙良、原菜乃華さんが、主人公の沙良ちゃんを連れてきて、部室に紹介するシーンをやったんですけど。やっぱね、何回かやって、え、でもそれってどうなの、どうなのってすごいディスカッション始まりましたね、それは。で、なおかつ他のシーン、他のシーンというか、多分この映画の始まる前のシーンをやろう、とか。全部エチュードなので。まぁある種こう、演劇の訓練みたいな感じなんですけど。ただこれがそのまま撮影でこれをやるんだっていうことで、全員不安ですよね。

(森直人)確かにでもその映画の物語の前をやるってちょっと面白いですね。なんか連続性で繋がっているような、気持ちが繋がるというか、ってことは、まぁ割と順撮りのような感じではあった?

(大崎章)全部順撮りです。

(森直人)そこはやっぱり?

(大崎章)一応全部順撮りで、ただ、場所がここの工場とか一日とか決まっているので、その日の中は順撮りで。

(森直人)あぁ、でもできるだけ感情の流れというか。

(大崎章)あぁもうその日のその場所の感情の中で絶対もう、絶対順撮りじゃないとできないってありますよね。順撮りじゃないと意味がないというか。

(森直人)確かに、本当そうですよね。

(大崎章)無理なんですよ。それだけは。順撮りでしたね。

(森直人)この極端なアイデアはどこから出て来たんですか?

(大崎章)これが、ですね。なんとね、自分で出したアイデアじゃなくて、あれなんですよ。怪我の功名というか、苦肉の策でして。実は台本があったんですけど。

(森直人)えっ。結構完成したやつ、ですか?

(大崎章)はい。結構完成していました。

(森直人)えーっ。同じタイトルで、みたいな?

(大崎章)同じタイトルではないかもしれないですね。要は、その最初にこの映画の最後に流れる『未来へ』って曲の。

(森直人)はいはい、西山さんの。

(大崎章)あの西山さんが僕にミュージックビデオ撮って欲しいっていう所から。

(森直人)あ、そうか。最初そうなんですよね。

(大崎章)そこからスタートしていまして。それで、これ、名前が3人、4人出てくるんですけど、最初に松本花奈さん。その、ミュージックビデオのプロットを書いてもらったんですよ。

(森直人)あ、そうなんですか。松本花奈さんに。へぇーっ。

(大崎章)そしたらそれが、すごく良くて。で、俺は、勝手にこのミュージックビデオとこのプロットが長編映画にならないかなって、広げて。で、直井さんに持って行ったんですよ。持って行ったっていうかメールで、「直井さんこれ、長編で、例えばムーラボの長編っていうのはあるんですか」って言ったら、即決で「あ、オッケーです」って。おかしくないですか!(笑)

(森直人)すごいですね。ヒュっと入っちゃう。

(大崎章)ヒュっと入っちゃうの。これは面白いので、やりましょう、って言って。

(森直人)直感で動いてるなぁ、直井さん。

(大崎章)直感で。それからなんですよ。それから、シナリオ作りに始まりまして。

(森直人)えー、じゃあその松本花奈さんの脚本ってどうなったんですか。

(大崎章)それはね、実はその原型が先日ミュージックビデオになったんですよ。クラウドファンディングで。

(森直人)あーそうなんだ。ちゃんと生きていたんですね。

(大崎章)生きているんですよ。

(森直人)よかったー。もったいないですもんね。

(大崎章)もったいない。それで、松本さんに、これ長編になるから書いてくれって言ったら、長編の台本。そしたら、なんかなかなか来ないんですよ。で、上がってきたのが全然違う話書いてきたの。全く違う「セックスする話」書いてきていて。で、俺と直井さんが、頭抱えて。花奈ちゃんこれ、どうしたんだろうなぁって思って。

(森直人)そうなんだ。方向性が変わっちゃって。

(大崎章)いや方向性もなにも、全然別の話書いて来て。あれには愕然としましたよ。

(森直人)面白いなぁ(笑)何かこう創作の火がついちゃったかもしれないですね。

(大崎章)完全に自分の創作の火がついちゃって。それで、直井さんと俺で「これどうする?」って言ったら直井さんが、これ酒井麻衣だねってなって。

(森直人)あぁ、はい、酒井麻衣さん。

(大崎章)ファンタジーの酒井麻衣さんに台本書いてもらったんですよ。それで、ところが、これも停滞しちゃって。で、大西君って人にもう一回入ってもらって酒井さんと一緒にやって。で、それができたのが6月ぐらい。

(森直人)できているんですか、え、その?

(大崎章)全然、なんかね、アニメのようなストーリー。

(森直人)なるほどねぇ。

(大崎章)で、ですよ。僕の旧知の知り合いのラインプロデューサー連れてきますよね。連れて来たんですよ。そしてその台本読ませたじゃないですか。「これはこんだけ金額がかかる、大崎どうするんだよ」って言って。で、俺が今回集めた金額の3倍かかるんですよ。絶対無理なんですよ。だから。

(森直人)さぁどうする。

(大崎章)んで、一人辞めていただいて、プロデューサーに。またプロデューサー連れてきたら同じ金額書いてあるんですよ、見積書に。

(森直人)そしたら?

(大崎章)また辞めてもらったんですよ。で、越川さんに入ってもらったんですよ。

(森直人)越川道夫さん。いよいよ。いよいよ、来ましたか。

(大崎章)いよいよ来ました。

(森直人)いよいよ来ましたね。映画監督としても今、ご活躍の。

(大崎章)なんか不思議な方ですよね。それで、忘れもしない。「これ、大崎さんこれ、俺は決めたのよ」と。「今年の夏、大崎章に映画を撮らせることは決めた」と。わかんないですよ、意味が。

(森直人)そこは決めた、と。もう何がなんやらって感じですね。

(大崎章)それで越川さんが「これ主役の南沙良の事務所挨拶に行かないとダメだ」って。

(森直人)南さんは決まっていたんですか?

(大崎章)決まってたんですよ。これだけが不思議で。

(森直人)これ奇跡じゃないですか。だってこのキープ。南さんですよ。

(大崎章)まだ台本が出来上がってない時に南さんのチーフマネージャーとお会いして、直井さんと4人で。本人じゃないですよ。マネージャーが2人いたんですよ。で、こういう形で予算はこれしかないんですよってその時、予算ちゃんと言ったんですけど。そしたら、なんか10分ぐらい話していたら「あぁいいですよ」って。それがすごい前の話なんですよ。南さんに決まっていたのが。

(森直人)もうちょっとずれてたら危なかったですねぇ。

(大崎章)もうちょっとずれていたら完全に頓挫してたし。多分俺ムーラボ参加してないですね。

(森直人)だから、いわば南さん、その間に南さんの注目度が上がって行ったんですよね。

(大崎章)つまり、そうなんですよ。つまり運命としては南沙良が出演をオッケーしていたってことですよ。これが運命、本当に。

(森直人)良かった、命綱。

(大崎章)いや命綱っていうかなんか、これ運命を感じました。

(森直人)確かにそうですよね。

(大崎章)で、南さんの出演を2か月ずらしてもらいましたもんね。停滞していたから。でもさっき言った越川さんが登場して「これ南沙良の事務所に挨拶行かないといけねぇ」って言って、雁首揃えて行ったんですよ。

(森直人)大の大人たちが、こう。

(大崎章)で、なんか越川さんが主導している訳ですよ。越川さん。そしたら、で、その時は台本あったんですよ、ファンタジーの台本が。すごい長いのが。

(森直人)はい。酒井さんの。

(大崎章)酒井さんが原案の、大西君がまとめた。2人が書いた感じですね。

(森直人)これも...まぁいいや。それで?(笑)

(大崎章)なんか色々話していたら「今回の予算はこれしかないので、南さんのギャラはこれしか出せない」みたいな話して、渋られちゃったんですよ。その、マネージャーさんがね。

(森直人)そんなこと言っていいんですか?(笑)

(大崎章)いや、その時は、最初はそういうすごい「ムーラボっていつもそんなんでやってるんですか?」って。でも最初に入った時、「俺、予算言いましたよね」って言ったら「覚えてない」って(笑)

(森直人)なるほど。まぁまぁ。それで?

(大崎章)そしたら急に突然ですよ。越川さんが何の前触れもなく、「ひとつだけこの映画を成立させる方法がある」と。「全編即興で、7日間で、1日1箇所で撮ればできますよ」って言ったんですよ。すごくないですか?

(森直人)すごい人ですね。

(大崎章)いや、俺はちょっと。

(森直人)初めて聞くみたいな。

(大崎章)いやいや、その時初めて聞いたんですよ。

(森直人)聞いたんでしょ。初耳ですけど、みたいな。監督は。

(大崎章)初耳です。いやでもそれは、越川さんは芝居をうっていたってことですよ。

(森直人)それはもう策略ですね。

(大崎章)策略ですよ。

(森直人)もう大崎さんをやらざるを得ない状況に持っていった。

(大崎章)いやでも、俺は3分ぐらい考えて、立ちあがって、「面白い!」って言ったんですよ。

(森直人)皆ノリのいい大人ですよね。おっさんみんなノリがいいという。

(大崎章)ノリがいいっていうかちょっと、で、僕は...

(森直人)百戦錬磨感あるよなぁ。

(大崎章)さっきの諏訪さんの映画の助監督も全部やっているので。

(森直人)これがね、お聞きしたかったんですよ。諏訪敦彦さんの『2/デュオ』の助監督をやっていらしたってことは、即興の大家である組にズバっといたという。これが大きいですね。

(大崎章)ズバっといたんです。これが大きい。だから越川さんもそれやっていたので、脇で。

(森直人)それですよね。

(大崎章)それを、僕が諏訪とやっているのを知っていて、確信があったと思うんですよね。

(森直人)多分頭の中に系譜がこう。設計図も系譜も全部書けていたんですね。

(大崎章)でも格好良くないですか。全編即興、7日間、1日1箇所って。言いようがさ。セリフ、家で練習してきたのって思って。

(森直人)やるのは俺だぞ、みたいな。

(大崎章)だから俺立ち上がって、「面白い!」って言ったらそのレプロのチーフマネージャーが「だったら出す価値あるかも」って言ったんですよ。実験的だし、経験になるし。

(森直人)でも皆さん素晴らしいですね。

(大崎章)そうなんですよ。素晴らしいというかちょっと綱渡り感ひどいですけど。

(森直人)素晴らしく狂った大人たちが。この映画を成立させていたっていう。

(大崎章)だから直井さんがそれ、パンフレットのレビューで延々書いていますよね。その時のことを。

(森直人)面白いなぁ。いや、でも本当にそのキャストが素晴らしい方々が揃いましたよね。

(大崎章)そうですね、実は南さんと原さんは決まっていたんですよね。

(森直人)原さんも決まってた?

(大崎章)原さんは、さっき言った酒井さんの台本を書いているっていう状況から流れで原さん。で、原さんその時ちょうど事務所決まっていなくて、フリーだったんですよ。

(森直人)これまた奇跡が。

(大崎章)奇跡が。研音から今はトライストーンに移ってるんですけど丁度その端境期で。

(森直人)端境期の7日間を。

(大崎章)そうなんですよ、本当に。だから出て頂いたんですよね。

(森直人)ちなみにその、酒井麻衣監督が書かれた、じゃあ脚本はどうなったんですか。

(大崎章)倉庫に保管しています。

(森直人)あぁ、これまたね。これもなんとかしないと、お宝がこう。

(大崎章)もしかしたらそれ映画化したらすげえ面白いかもしれないって。

(森直人)言ったら松本さんから始まり、最初は本当その若い女性監督の割と等身大の心情を込められるような脚本を作っていたってことですもんね。ところが、即興になり。じゃ、あらすじっていうのは?

(大崎章)あらすじっていうのはその酒井さん、大西君が作った台本に沿っています。あの感じが。あの『シンデレラ』やるってこともそうですし。

(森直人)そういえばなんとなくその、自己実現的な主題から始まる感じっていうのは酒井さんの世界って気がしますよね。

(大崎章)いや、完全に酒井さんの世界観です。

(森直人)言われりゃそうだなぁ。で、もともとのは西山さんの『未来へ』の曲からのインスピレーションでもあるっていう。それで南さんと原菜乃華さんと、ほか小野花梨さん、近藤笑菜さん、日高七海さん、池田朱那さん。

(大崎章)あの辺はオーディションです。

(森直人)でもすごいメンバーになりましたよね。

(大崎章)そうなんですよ。小野花梨さんはオーディションじゃなかったんですが、なんかか本人、事務所含めて本人も出ていいよって噂を聞いて。俺は本当に、「絶対、小野花梨お願いします」って。

(森直人)もうピンポイントで。

(大崎章)ピンポイントで。「小野花梨はとにかくいいから、絶対お願いします」って言って、で、他のメンバーはオーディションで、って感じです。

(森直人)じゃあ本当ベストメンバーが。

(大崎章)ありがとうございます。本当それが嬉しくて。なんかバランスを色々考えたというか直感だったんですけど。すごく良かったんです。特に日高とかが、素晴らしいですね。

(森直人)日高さん、すばらしい。スペシャルメンションというのは他に『いつか輝いていた彼女は』だとか、複数出られて。今回一番すごかったっていう。

(大崎章)本当に素晴らしいです、日高さん。

(森直人)すごいですね。3本出られて、全部素晴らしかった。

(大崎章)本当に良くて。もちろん近藤笑菜も素晴らしいし。小野花梨ちゃんも、もう子役からやってるから。

(森直人)もう、うまい、うまい。

(大崎章)リアクションが本当にいいですから。俺やっぱり現場の時はすごくこう神経集中しているだけだったんですけど、後で編集の時に見たら、それぞれの芝居が立っているので。それは本当にキャスティングが上手くいったなって思いました、あとで。

(森直人)だってこの本当その10代、20代の実力派の方々に加えて脇も本当にそうで、南さんのお母さんが片岡礼子さん。

(大崎章)そう、片岡礼子さん。これがね、これが、あれなんですよね。実は片岡さんの母親役っていうのは、最初にあったファンタジーの台本にはなくて。即興になってからちょっとこれお母さんいたほうがいいんじゃね、って越川さんとかと相談して。

(森直人)じゃあ越川パワーで。

(大崎章)越川パワーというか、越川アイデア。僕も何人かこのクラスの女優さん知っているんですけど、片岡さんがもし出て頂いたら本当最高だなと思って。その前に、ちょっと前に群馬でやった『榎田貿易堂』とか出ていらっしゃったし。あと昔僕も仕事したことあったし。

(森直人)あの渋川さん主演のやつね。その繋がりもあって。

(大崎章)そう、繋がりもあったりしてオファーしたら、引き受けてくださったんですね、これが。多分その即興、全部即興ってちょっと面白がってくれたかな、って。

(森直人)でもこれ、大きいですよね。多分その、役者さんとしてもすごいそのチャレンジできるいい機会だっていう所で面白がって頂いた。でもそれだけに、上手い人達が本当に揃ったっていう。

(大崎章)本当にねぇ。

(森直人)ロケが、大崎監督の地元である群馬県高崎の玉村?

(大崎章)高崎市の隣が玉村町。隣接してる。

(森直人)隣になるんですね。じゃあ高崎ではないんですね。

(大崎章)高崎市ではない。佐波郡っていう所で。ただ隣接しているので。ほぼ高崎みたいなものなんですけど。ただ玉村の人は絶対高崎じゃない、って。

(森直人)そうですよね。地元ではそうですよね。こういう。

(大崎章)そういうのはあるんですけど。だからあれなんです。前作の『お盆の弟』も同じですし、実は枝の『少女邂逅』もほぼ同じ所で撮ってるんです。

(森直人)あ、枝優花さんの『少女邂逅』もそうなんだ。

(大崎章)そうなんです。実はそこが深くて、ですね。

(森直人)やっぱり映画にすごく協力的な。

(大崎章)もちろん高崎市は本当に協力的。

(森直人)まぁよく撮っていますもんね。さっきの榎田貿易堂でも。

(大崎章)多分コミッションがとても充実していて、ほとんど制作のような仕事までしてくれる。

(森直人)これまた群馬県で良かった。群馬から出てきて良かった、っていう、大きいですよね。

(大崎章)良かった。はい、大きいです。

(森直人)しかもその、カメラが『キャッチボール屋』や『お盆の弟』でも続けて組まれている猪本雅三さん。これの信頼関係も大きい。

(大崎章)信頼関係というか、あの人も職人なので、ね。まぁ一言で言うとやっぱりこの企画を面白がっていただいたっていう。

(森直人)猪本さんも、いわばよく空いていたという感じで。

(大崎章)そうですね。俺はもう絶対猪本さんにやってもらいたかったので。その脚本当時から、絶対に。

(森直人)そこはやっぱりもう勝手知ったるコンビで?

(大崎章)やっぱり特に即興になった時点で絶対猪本さんじゃないとダメだなと思ったのは。『M/OTHER』撮ってるし。

(森直人)諏訪さんの、ね。補足します。

(大崎章)諏訪さんの。だから即興の時にどう捉えるかっていうのを、やっぱりまぁ猪本さんしかいないな、と思って、本当に。

(森直人)すごいメンバーなんだな。で、そのやっぱり地元の土地で撮られているって所で地理的に把握をしているっていうことも、やっぱり即興になると重要になってきますもんね。

(大崎章)そうですね、あとやっぱりこれも結果たまたま群馬で撮ったんですけど、それは色んな事がやりやすいし、お金のことも含めて。丁度この物語のその少女が東京に憧れるという距離感がちょうど、群馬が丁度いいんですよ。これが北海道とかだったら遠すぎるから。

(森直人)札幌になっちゃう。

(大崎章)そう。札幌なら、札幌で、ってことで。これ、群馬ってちょうど中途半端な。

(森直人)北関東っていう。埼玉、群馬の。

(大崎章)で、1日で行けるっていう、本当にその、オーディションの時にすぐ行って帰ってくる感じが。

(森直人)そう。高崎ってだから、結構本当に、高崎自体色々あるし。本当近くて遠いっていう感じしますよね、東京まで。全部が上手くいっている。で、やっぱり、ね。でもその僕映画をそういう情報もほどほどに入れつつ観た訳なんですけど、アバンタイトルのシーンから、あれは土管のある、空き地なんですか?

(大崎章)あれね、これは行ってほしいです、本当にあれ。最初のアバンは、あれもリサイクル施設の一角なんですよ。

(森直人)そういうことか。

(大崎章)で、リサイクル施設が死ぬほど広いんですよ。死ぬほどって言うのはちょっと。相当広い。球場ぐらいの広さです。

(森直人)すごいですね。でもリサイクル施設ってそれぐらいないと、ってことですもんね。

(大崎章)で、見て頂ければわかるんですけど、ちゃんとリサイクル施設の色んなアイテムが出て来る。車が乗っかっている所とか。鉄くずの所とか。

(森直人)一見スクラップ工場みたいにも見えるんですけど。

(大崎章)そうです。あ、スクラップ工場と言っても過言ではない。だから、あの車の原型のやつをぐしゃぐしゃに潰して。

(森直人)そうですよね。だからそういうセクションがあるってことですもんね。

(大崎章)ぐしゃぐしゃに潰して鉄くずにして、それをまたもう一回別の業者に持って行く。

(森直人)なるほど。それが全部あの敷地内。あれ敷地内かぁ。

(大崎章)そうです。

(森直人)なるほど。空き地に見えますもんね。

(大崎章)空き地に見えます。あれは、カメラマンのセンスですね。なんか最初のアバンはちょっと瓦礫のように見えるんですよ。あれ絶対カメラマンがそういうのを意識して撮っていて。

(森直人)なるほど。だからそう、本当に空間の撮り方、風景の捉え方、緑の田園風景に本当ウクレレの弾き語りが聞こえてくる冒頭のイメージがまず非常に美しい。ロケーションも面白いですしね。で、7日間で撮ったっていう。

(大崎章)そう。7日間で撮ったっていうのが。7日間で撮ったっていう風には見えないかもしれないですね。

(森直人)いや、本当そうですね。やっぱりでも7日間と言われた時に、即興の緊張感というのは腑に落ちる感じもあって。だからまぁその両方。えーっ、っていうのと、なるほど、っていうのが両方来るっていう感じはあるんですけども。やっぱりその、例えばMOOSIC LABの時に結構リアルタイムでどんどん評価がツイッターとかで上がってくる訳ですけども、中森明夫先生とかがすごい絶賛されていて。

(大崎章)そう。大絶賛して頂いたんですよね。

(森直人)中森さんとかは、ね、コメントで。丁度大崎さんと同世代って感じだと思うんですけども、やっぱり即興というのはある種丸投げの要請によって、中森先生がおっしゃっているのは、演者達が演じることを、生きることを要請される、と。これが優しいようで結構残酷だ、みたいな。怖いよねっていう言い方をされていて、さすがって思ったんですけど。

(大崎章)さすがですね。

(森直人)で、やっぱりその中森先生の言葉で言うと、本当監督がやられているのは信じて待つこと。待機する事だって。で、さっきもちょっとそういう風におっしゃられていますもんね。とにかく待って、受け止めるっていう所。

(大崎章)中森さんが怖いって言い方をなさっているのは嬉しいんですけど、確かにあとで聞いたら相当大変だったし、あと結構色々相談を受けたんですよ、役者さんから直接とか助監督さんを介して、とか。で、まぁ悪いんですけどちょっと馬鹿なふりをして何も言わないっていう。

(森直人)え、大崎さんが?すごい戦略じゃないですか(笑)「えー...」みたいな?「わかんないなぁ」みたいな感じでしたんですか。

(大崎章)わかんないなぁとは言わないけど、「その気持ちでやればいいと思うよ」とか。

(森直人)本当は何か浮かんでいるけど敢えてそこを。

(大崎章)まぁ浮かんだとしてもなんかもっと言ってしまえば、僕が浮かんだことなんかよりも、ともいう気がするんですよ。

(森直人)でもそれすごいじゃないですか。

(大崎章)僕が浮かんだことを言って影響されてやるよりも、本当に考えた方が、苦しんだ方がいいと思うし、という感覚でずっといて。あと本当にそうなんですよ。撮影の初日になんか、あの越川ですら一発目のテストかなんか終わった後に寄って来て、多分助監督さんも心配して言ってたと思うんですけど「大崎ちゃん、大崎ちゃん」って。「段取りはやった方がいいんじゃね?」とかって。俺はそれ聞いた時にすごくムカついて、というか気分が悪くなって。絶対やらないからって。

(森直人)そこでグワっと出ちゃった。

(大崎章)いや、気持ち悪くなっちゃって。絶対段取りなんかやったらこの映画の良さなくなるんで。それが逆に言うと刺激になった。初日に言われたことによって、「これは違うな」と思って。なるだけそういうことやらないでやろうと思って。逆にあの、言ってくれた越川さんですらやっぱり現場来たら心配になるよね。何が芝居なのかわかんないけど、途中始まってカットがかかってオッケーだから。

(森直人)なるほどなぁ。

(大崎章)だから、そうなんですよ。待つということで言ったら結構ガヤガヤ、あとでその、女優陣は同じ部屋で泊まっていて、夜中の3時ぐらいまでなんか話していたらしいです。

(森直人)監督の知らない所で。

(大崎章)知らなかったんですけど、でも。

(森直人)そっか、合宿になっちゃう訳ですね。

(大崎章)合宿になってたので。やりやすかったと思う。それが後で嬉しかったですけど。

(森直人)あ、嬉しかったですか。

(大崎章)もちろん嬉しかったですよ。だってそんな撮影ないと思うので。

(森直人)ないよなぁ。監督の知らない所で皆でなんか話してるんだけど。

(大崎章)ただ聞いたら、芝居半分あとはなんか別の女の子の話みたいに言ってました。

(森直人)でも理想的じゃない。その半々って。

(大崎章)理想的だと思う。だからやっぱりさっき言った近藤笑菜とかすごく真面目な人で、すごい心配してこう、話す訳ですよ。

(森直人)そうか、近藤さんが結構引っぱって。

(大崎章)近藤さん本当部長のようにまとめてくれたり。

(森直人)この関係性もまた良かったんですね。

(大崎章)いやぁ、本当に良かったです。近藤さん絶対部長役できるなってイメージでキャスティングしたので。

(森直人)すごいじゃないですか。

(大崎章)それはもう当たりました。本当に当たりました。

(森直人)いやでも僕、今のお話聞いて、ちょっと二つ新たに思ったことがあるんですけども。やっぱり大崎監督が自分の出た言葉よりも、その皆さんが本当その10代20代の皆さんが持っていらっしゃる言葉で語らせるっていうのは、僕のすごい好きなガス・ヴァン・サントの『エレファント』とかもそうですよね。

(大崎章)はい、はい。あれもそうなんですかね。

(森直人)全くそうらしいです。私服を結構持ってこさせて、セリフもあまり詰めずにとにかく自分の言葉で喋ってくれっていうのを待つっていうスタイルだったらしいですよ。

(大崎章)素晴らしいですね。いや、そうなんですよ。絶対それなんですよ。

(森直人)でもリアリティっていうほど、調整するって意味ではそれが一番やっぱりいいですもんね。

(大崎章)結局映画っていうのは全部作り物だと思っているんですよ。ただ、どこまでね、どこまでそういうことでなんかできるかな、っていうことと。あと、特に日本のドラマの場合のセリフの言い方が嫌いで。

(森直人)あぁ。そこへの批評があるんですね。

(大崎章)批評はありました。それは即興決まった時からこれで一回挑戦できるなっていうか。なんかアメリカ、どうなんですか。ハリウッドのもともとの演技システムで教えることと日本の演技の教える、教え方って違うような気がして。日本の場合なんか根本、歌舞伎じゃないかな、みたいな。

(森直人)アハハ。型。

(大崎章)型がすごくあって、特に刑事ドラマとかの型みたいなのが。

(森直人)全くそうですよね。

(大崎章)そこは別にいいんですよ、刑事ドラマは刑事ドラマですごく面白くて大好きなんですけど。

(森直人)まぁいわば、ね。歌舞伎を楽しむようにああいう刑事ドラマを楽しむっていう感じがある。

(大崎章)だって最後は土手か何かで、崖か何かで、刑事が5、6人立っていてすべてカメラで見える所に立って、それぞれがセリフを言うっておかしくないですか。

(森直人)おかしい。リアルではない。まぁ、歌舞伎ですよね。

(大崎章)歌舞伎じゃないですか。

(森直人)で、ここで見栄を切り、みたいな。そういうのもあり。

(大崎章)でも日本の、言ってはあれですけど、例えば奥さん方って、夜のテレビドラマを観ながら映画とかを意識している人じゃないですか。だからそういうのがちょっとすごく、ちょっとだけ違うかな、って。

(森直人)なんで急に弱気に(笑)でもまぁ映画を撮るんだったら別のやり方が必要であるって気はしますよね。

(大崎章)そうだと思います。

(森直人)なるほどな。あともう1つ思ったのがやっぱり越川プロデューサーが現場にずっとおられたってことですよね。

(大崎章)そんなにいなかった。

(森直人)そんなにいなかったか。

(大崎章)初日だけです。初日にそのセリフを残して帰りました(笑)

(森直人)越川さんも今監督だから、監督が2人いる現場ってどうなるんだろうって思ったんですよ。

(大崎章)それはなかったです。

(森直人)そっか、そっか。やっぱりちょっと難しくなりますよね。

(大崎章)あぁもし越川さんがずっといたら、ちょっと嫌です。

(森直人)ハハハハ!

(大崎章)だから気を利かせて帰ったっていうのもあります。

(森直人)なるほど、なるほど。そうですよね。そこもやっぱりちゃんと意識されて。でもそうだと思う。やっぱり監督一人でないと、っていう気はしますもんね。あとその、やっぱり即興ってことになると、これは僕の想像で喋るんですけど、その夜中合宿で皆さんが話されてたってことも含めて、役者の皆さんがこう本人とどこかニアイコールにもなりつつ、でもそれぞれ役に深く入って生っぽくシンクロしていないと成立しないですよね。やっぱりその即興の緊張感とアンサンブルの緊張感って別のベクトルだから。それをこう折衷させるっていうか両立させようとする。

(大崎章)でもね、それはね、同時に来るので。

(森直人)そう。でも同時に来ますよね。それ本当すごく難しい気がするんですよね。

(大崎章)だから本当あとあとで、なんか取材とか受けていて、なんか相当難しいことやっていたなって再確認しているんです。

(森直人)いや、滅茶苦茶思いますよ。だってその結局、自分から出てきた言葉なのか、これは役として言っているのかっていうのが多分演者さんの中で、ぼやけたまま肉体化、肉声化するっていうような回路になるんじゃないかと思って。

(大崎章)多分ですね、まぁよく言っていたのが、特に前半、煮え切らないっていうのは、どうしても長く撮りますけど、この映画がどこに向かって行くかっていう確証がない訳ですよ。

(森直人)でもそのあらすじってゴールは決めて?

(大崎章)ゴールはほぼ決まっているんですよ。それでも。

(森直人)それでもわからない?

(大崎章)わからないんですよ。やっている時に今のは本当に良かったのかっていうのもまぁ、はっきり言ってわからないですね。だからなんか日常会話みたいなのをやっているだけですからね。特に前半の、例えば親子の会話の所とか。

(森直人)確かにそうですよね。クライマックスとかっていうのは、分かりやすい手応えがありますけども。普段の所って、いわばまぁ平準化した状態で流していかないといけない。

(大崎章)そうですね。ただ一応普段の所も一応伏線とかにはなっているので、今となっては。バランス、自分とのバランスと即興とのバランスの事で言ったらまぁ、小野花梨さんですかね。小野花梨ちゃんが「本当に全体を考えながらやっていた」って今、語っているんですよ。

(森直人)監督が「語ってるんですよ」って(笑)全体のことを考えながら、小野花梨さんがって。その関係性でいいんですか(笑)

(大崎章)いやいや、いいんですよ。

(森直人)いいのか。いいんだなぁ。

(大崎章)だってもちろん全体のことこっちは考えながらやっているんですよ。ただ演者とこっち違う立場なので。あとこっちは、一応僕は責任を取るっていう立場ですよね。だから、まぁ責任の取り方は、今こうなってこれから公開するってことだけなんですけど。いや本当に。

(森直人)面白いなぁ。

(大崎章)いや本当に。小野花梨ちゃんが実は当初のリハーサルでも一番まぁ不安というか、言っていたのが小野花梨さんで。初日に皆に配布されていたその台本をずっと読んでいるんですよ。これから即興をやるっていうのに、ずっと読んでいるので。で、なんか自己紹介をしてもらったんです、最初に。よくやるんですけど。そしたら自己紹介してくださいって言ったら、いきなり「え、これって台本あっての即興ですよね。台本がない即興なんてやったことありません」みたいなことを最初に言われて。で、僕はその時に、「いや今回はその台本を捨てて欲しいんだ」って話をしたんですよ。その時にすごくやっぱり小野花梨さんが、「いや全然わかんない」とかって。

(森直人)まだ肌に落ちてないよって感じっていうか。

(大崎章)小野花梨は下手したら撮影が終わっても落ちてなかったかもしれないです。

(森直人)あぁそうですか。

(大崎章)ただすごいのは、ずっとわかんないってやっていながら、小野花梨、芝居の時は全部計算してました、目線とか。

(森直人)すごいですね。

(大崎章)それはわかると思うんですけど。

(森直人)本当そうですね。

(大崎章)どれほど悩んでいたかっていうのが。

(森直人)すごいドキュメントじゃないですか。

(大崎章)それいい話ですけどね。

(森直人)いや、いい話かわかんないけど(笑)

(大崎章)確かに。

(森直人)でも僕はちょっとこれゾっとするぐらいにこれ、すごいことだなと思いました。あんまりないですよね、なかなか。こうやって作品を構築していくって。

(大崎章)確かに小野花梨さんが演じるそのあの役の、ユリって役は、相当なキーマン。この映画において一番のキーマンで。実はあそこの役、南沙良演じる未来ともう一人の女優目指す原菜乃華っていうのは、これは才能があるじゃないですか。一応ね。そういう、才能があるという設定で。ユリには才能もないっていう設定じゃないですか。

(森直人)難しいですね。

(大崎章)で、実は俺が一番感情移入していたのはユリなんですよね。

(森直人)ほぉ、これまた興味深い話ですね。

(大崎章)つまりもともと才能ないけど、頑張って映画監督になったっていうのは、あぁいう感じなんです。あぁいうまぁ、最後の方でひどいことやっちゃうんですけど。

(森直人)これすごいまた、興味深い話聞けた。なるほど。

(大崎章)そうなんですよ。

(森直人)監督の感情はあそこのキャラクターに。

(大崎章)キャラクターが一番です。ただし僕の中ではもちろん未来への感情移入もあるし、女優になりたい菜乃華への感情移入も全部あるんですけど。一番強いのは、あの何もできなくてイライラしてひどいことしちゃうっていう。

(森直人)そうなんだ。『お盆の弟』に繋がりそうな。

(大崎章)そうそう。そうなんです。

(森直人)そういうことですよね。

(大崎章)でね、もうちょっと言っちゃっていいかな。花梨ちゃんが、花梨ちゃんに聞いたんですよ。最後、ひどいことになってるじゃないですか。したらもう、いなくなってもいいんだよ、みたいな。だってもう、あんな大愚というかもう、いなくなってもいいけどって言ったら、彼女が「いやこの状態で自分からはいなくなれないです」って言ったんですよ。これリアルでしょう、これ。

(森直人)リアルですね。結構感動しますよね、この話。

(大崎章)感動するんですよ。俺それ聞いた時、すげーなって思って。

(森直人)監督色々こう、役者さんからもらって。

(大崎章)いやもらっていました。相談するところは相談してたんですよ。

(森直人)話聞くと面白いですね。

(大崎章)いや面白い。だから作りながらちょこちょこっとポイントでは色々相談しているし、あとスタッフ間で、もちろん猪本さんと録音の伊藤さんと「いやそっちの方が」「いやいやそうなったら、予定調和になっちゃうから。」「いやいや違う、こっちが予定調和じゃない?」とか、そういう皆で話し合って。「いやだからさ、ずっと追っかけてってもいいじゃん」とか。その撮り方とかもどこまで役者に寄っていいかって言えるんですよ、全員ね。言おうと思えば。で、言わないし。

(森直人)皆さんがやっぱりそのチャレンジングなテンションがぐっと一段上がったような状態だったわけですね。

(大崎章)面白い、だからこれはとてもスゲーことをやっているぞっていう自負というか、こんなことほぼやんないっていう。まぁもちろん河瀬さんとかもやってますけど、もちろん諏訪さんもずっとやっているし。ただこの若いメンバーではまずないだろうって。

(森直人)そうだなぁ、確かに。あとお話聞くと、やっぱり例えばその即興性を劇に取り入れて構築するっていうのは、マイク・リーだったりホン・サンスだったり、色々あるんですけども。

(大崎章)僕も色々調べたんですけど最終的にはちゃんとやっぱりセリフになっているので。ここまでセリフを全く決めないのは、僕は諏訪さんと僕ぐらいかなって。

(森直人)お話聞いた感じだと、諏訪さん越えかもしれないですよね(笑)いやその、なんて言うのか、ある種の実験性という意味では。

(大崎章)そうですね。で、諏訪さんから学んだのは、諏訪さんも絶対具体的なことは言わなかったです、現場で。

(森直人)やっぱりそこは柱があるんですね。

(大崎章)そこは。だから諏訪さんが細かい演出の話したのを聞いたことないんですよ。

(森直人)あぁ、そうなんですね。やっぱりそこはでも本当『2/デュオ』の助監督体験がすごく大きい。で、『M/OTHER』のカメラであって。しかも、西山さんってミュージシャンで、演技経験って。

(大崎章)ないんですよ。

(森直人)ないですよね。でもすごい女優さんになりましたね。

(大崎章)いやいや、もう、彼女は素晴らしかったですよ。

(森直人)すごいですよね。冒頭から出てるし。

(大崎章)冒頭から出てる。

(森直人)すごいよなぁ。あの、この女優陣に混ざってミュージシャンの方が、これだけ女優になってるってことも感動したんですけど。

(大崎章)あぁ、なんかテンション高いんですよ。で、あとで聞いたら「いやもう、足が右と左どう出ていたか分かんない」って言ってたんですけど。

(森直人)あ、緊張してた?

(大崎章)緊張してたって言うんですよ。僕には緊張感わかんなかったです。

(森直人)その緊張わかんないなぁ。

(大崎章)わかんない。だから、何でしょう。アーティストであり、出る人ということの完成されていますね、小雨さんは。

(森直人)確かMOOSIC LABのプレイベントか何かで演奏する時があって。とちっちゃったんですよね、ちょっと。とちりかけた。

(大崎章)違うんですよ、あれね、ピアノがね、バグったんですよ。ピアノの音が、ググ、なんかね。

(森直人)あっそういうことか。こっちの不調が。そういうことか。

(大崎章)そうなんですよ。ピアノがガガガガってなったんですよ。

(森直人)そう。その時に西山さんが、なんかね「頑張れ私よ」って言ったんですよね。

(大崎章)言った。俺も横で聞いててスゲーなって。

(森直人)スゲーな、と思いましたよね。

(大崎章)あれが彼女の本質ですよ。

(森直人)そう。それ今思い出しました。

(大崎章)そうなの。まさにその通りで。スッゲーいい所覚えてますね。俺もあの時、うんコイツやっぱりまた、ただ者じゃないなって。いつもあんな感じなんですよ、彼女って。

(森直人)本当ですね。いや、すごい。そう。そういうことか。

(大崎章)そういうことなんですよ。

(森直人)なんかほんわかしていますよね。

(大崎章)ほんわかしているのは、ごめんなさい、それは、印象だけです。

(森直人)最終的な印象はそこなんですけど中が全然違うってことですよね。これできるっていうのは。

(大崎章)そうです。すごいですよ彼女は。内面と内に持って秘めた。

(森直人)秘めたるパワーが。なのに、印象としてはソフトっていうのがやっぱり今回の役もそうですけども。

(大崎章)なんとなく天使というか。

(森直人)天使ですよね。ふんわりしているっていう。

(大崎章)それは最初から絶対そういう風には出来るとは思っていました。

(森直人)すごいじゃないですか。

(大崎章)そこだけがちょっとたまげました。

(森直人)要所、要所で監督は「そこだけは」みたいな(笑)この構図が面白いですけどね。で、グルーっと回って。さてさて。大崎章ストーリーをお聞きしたいんですけど。よろしいですか。

(大崎章)いいですよ。

(森直人)1961年群馬県生まれから、龍村仁監督に師事の間がスゲー空いてるじゃないですか、まず。

(大崎章)龍村仁に師事したのは二十歳の時ですよ。

(森直人)だからすごい空いてるじゃないですか。生まれてからその二十歳までが謎なんですよ。

(大崎章)ちょっと待ってください。それはでも、あれですよ。僕は中学の時野球部入ってて、なんかうつ病になっちゃったんですよ(笑)

(森直人)あ、そうなんですか?

(大崎章)ええ、あの、躁うつ病みたいになっちゃって。中学生で。それで辞めて、美術部入ったんですよ。

(森直人)いきなり?

(大崎章)いきなり。絵を描くことは好きだったんですけど。それと高校の時に応援団に入ったんですよ。

(森直人)結構こう揺れ動いていますね。体育会系と文化系を。

(大崎章)なぜかというと中学の時になんか精神的にそういう状態になったので、「これヤバイな」と思って。なんか後で調べたらそういう人いるらしいんですよね。

(森直人)そういう人というと?

(大崎章)いや、だから子供の時に躁うつ病みたいになったり、あと多分ADHDとかそういう系なんですよ。それはなんとなく色々後で...この突拍子もない行動とかが。

(森直人)ちょっと多動症的な所があって。

(大崎章)多動症とか。それはすべて繋がるんですけど。高校の時に応援団に入って3年間応援団、応援部ですね。応援団長だったんですよ。

(森直人)すごいじゃない。監督。

(大崎章)それで、まぁ声デカいんですけど、人前でその野球の応援とかあと文化祭とかでこれが気持ち良かったんです。今から思うとそれが映画監督のきっかけですね。

(森直人)あ、応援団長が。

(大崎章)そう、応援団長が。すごい解放されたし。

(森直人)これまた、面白いな。

(大崎章)本当にそれは思ってます。

(森直人)でもその内面的にはやっぱりこの繊細な部分であったり、絵を描いたりする部分もあっての応援団長というのが、まずはこう大崎章の成分であるって形。

(大崎章)成分ですね。それ変わってないです、今でも。それで、今は無き日本ジャーナリスト専門学校というのがあって。

(森直人)ジャナ専。

(大崎章)今なんかあの家屋でやってますよね、山奥ともまた違う、あそこに行ってたんですよ、俺。

(森直人)あ、ジャナ専出身。

(大崎章)ジャナ専出身です。初期の。

(森直人)じゃあそれは群馬から出てきて。

(大崎章)ジャナ専なんですよ。

(森直人)ジャナ専か。

(大崎章)偏差値低くて大学入れなくて。でもなんか新聞広告に日本ジャーナリスト専門学校。なんかこれ惹かれるな、みたいな。

(森直人)あぁ、ちょっとじゃあその...

(大崎章)その時は映画とかに入る気はなかった。

(森直人)ってことではないのか。

(大崎章)ところが、ジャナ専になんと、たまたま龍村仁さんが授業に来ていたんですよ。

(森直人)そういうことか。ようやくわかりました。

(大崎章)ようやく、これがわかったでしょ。

(森直人)あの龍村仁監督っていうのは...

(大崎章)そう。今は皆さん知らないかもしれないけど。すごい人なんですよ。

(森直人)すごいです。元NHKの。

(大崎章)NHKの『キャロル』。

(森直人)もう『キャロル』の説明も必要かもしれないですけど(笑)

(大崎章)やばいちょっと、本当に(笑)

(森直人)僕もいい年なんで(笑)矢沢永吉さんとか、ジョニー大倉さん、伝説のバンド、70年代がありまして。あれATGで撮られたんですよね?

(大崎章)そう。ATGで撮って。

(森直人)90年代から『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』シリーズっていう。

(大崎章)そうです。よく御存じ!さすがですねぇ!嬉しくなっちゃう。

(森直人)それで師事されたっていうのは、ジャナ専で学んだ。

(大崎章)いや、それで僕は映画とかそんなに...シネフィルじゃなかったんですけど、その龍村仁さんのジャナ専の授業があって、週にいっぺんぐらいしかなかった。で、「なんか君ら映像撮れよ」みたいな授業があったんですよ。最初の授業の時に、龍村さんが撮ったアメリカのフットボールチームのドキュメンタリーがあったんですよ。その番組を見せて、で、龍村さんがこんな子供達に、「ここの編集はこんな感じでこうやって切って、こう、すごい編集を加えて。」それを聞いた時に、目からうろこが出たんですよ。今まで見ていたテレビ番組がこんな綿密に計算された編集でできているのかって。もうね、なんかね、すごいショックと言うか、嬉しいショックを受けて。それで2年間ジャナ専が終わった後、時期としては弟子入り。龍村さんの。

(森直人)珍しい。弟子入り。

(大崎章)珍しいですよ。弟子入りです。

(森直人)何でもいいから使ってくれ、みたいな。

(大崎章)そうです、そうです。AD。当時その時龍村さんの事務所、本当に人が丁度たまたまいないからそこで弟子入りできたんですよ。

(森直人)なんかそういう、なんか間がいい。

(大崎章)間がいいんです。

(森直人)これでも、あれですもんね。それこそキャロルでNHKと揉めて...みたいなこと伝説でありますもんね。だからそれ以降フリーで。

(大崎章)フリーで。当時はオン・ザ・ロードっていう事務所だったんです。

(森直人)じゃあそこに?

(大崎章)弟子入りです。何もわかんない。本当に映画も知らないし、みたいなので弟子入りしてとにかく現場を走り回って。ドキュメンタリー。

(森直人)じゃあ映画を、ドキュメンタリーですもんね。映画を観ると言うよりは最初にいきなり現場に入っちゃってっていう感じか。

(大崎章)そうなんです。

(森直人)面白い。じゃあその流れの中でじゃあもう映画を?

(大崎章)えっとね、その流れの中で今度は4年ぐらいやっていて、その後に一回辞めて、今度はなんか中野区で飲み屋で助監督やっている人と知り合ったんですよ。それで、ちょっとなんか全然金もなくて、毎日夜飲んでいたんですけど、その助監督の人と知り合ってなんか話していたうちに「いや俺ADやってたから助監督出来ると思いますよ」って言って、東映の助監督をやり出したんですよ。そしたらそれが、厳しくて厳しくて。

(森直人)東映の助監督やられてたの。

(大崎章)はい。東映のテレビプロの。

(森直人)そういうことはフィルモグラフィー見たら書いてないですもんね。

(大崎章)あぁ、その辺は書いてないですけど、一番修行したのは東映テレビプロの『はぐれ刑事』とかなんですよ。

(森直人)そうなんですか!さっきの話にちょっと、繋がるじゃないですか。刑事ドラマうんぬん(笑)

(大崎章)そうなんです。さっきは非難してたけど。

(森直人)本当ですよ、これびっくりしました、今。

(大崎章)非難していますが、でも本当当時の東映テレビプロのスタッフがすごくて。映画のスタッフだったんですよね。

(森直人)そうですよね。だってまだ80年代ですもんね。

(大崎章)そうです。1980年代中盤ぐらいで、そこに入って、もう何もわからなくて。本当苦労しましたよ。それから助監督を普通にやり出して。街場の映画とかの助監督もやり出して、ですね。

(森直人)ちょうどさっき言ったフィルモグラフィーで言うと本当90年代からはすごい監督さんの映画の助監督に使われるって形になる。

(大崎章)あの、『はぐれ刑事』でひとつ...藤田まことさん、今は亡き...にサード助監督なのにめちゃくちゃ気に入られたんですよ、俺。これも大きな。

(森直人)人徳。

(大崎章)とにかく不器用でも頑張っていたので、なんかめちゃくちゃ気に入られて。可愛がられましたよ。本当にそれは。

(森直人)それで結構色んな所に連れて行ってもらったりしたんですか?

(大崎章)そうなんですよ。なんかね、変な、なんで俺がサード助監督なのになんか車に乗せられたことあるんですよ。相当気に入られたみたいで。

(森直人)すごいですね。

(大崎章)すごかった。今思うとすごいんですよ。

(森直人)20代の青年で。

(大崎章)それが、実はカチンコまだ3本目ぐらいの時に、『はぐれ刑事』で初めてカチンコやった時に相当頑張ってたら、なんかね、藤田さんが皆の前で「そりゃ大変だよ、まだできないんだからさ」ってわざと言ってくれたりして。そのなんかね、すごいんですよ。その感じがね。

(森直人)優しいなぁ。

(大崎章)優しいでしょ。「できねぇ、まだできないよね、そりゃ大変だよ」ってなんかわざと大きい声で「コイツ頑張ってるよ」みたいな。これね、なかなかないんですよ、今。

(森直人)いい話ですね。

(大崎章)いい話でしょ。そういうのね。これは涙出てきて。

(森直人)涙出ますよ、それは。

(大崎章)だから今でも藤田さん!みたいな感じですよ、本当に。なんか最初にすごい頑張っていれば絶対誰か見てくれてるって教えてくれている感じは。で、その後に一番影響あって面白かったのは、『無能の人』です。竹中さんの『無能の人』に、なんかセカンドの人がイン直前に倒れて。それでまぁその人とも今でも知り合いですけど、バトンタッチ的に入ったらこれが面白くて。

(森直人)竹中さんの監督デビュー作ですもんね。

(大崎章)そうです。こんなに面白いものがあったのかと思ったんです。映画作りというのはこんなにオリジナリティがあって。

(森直人)そっか、いわゆるその作家映画みたいな現場に入ったのって『無能の人』が最初っていうようなことになりますか。

(大崎章)そうですね。『無能の人』が最初ですね。ただ何度も言いますけど、『はぐれ刑事』も良かったんですよ。『はぐれ刑事』も台本が素晴らしいんですよ。今でも思います。

(森直人)職人の世界。

(大崎章)職人の世界。でも、『無能の人』に入った時にスッゲー面白くて。それで助監督も面白いなと思ったんですよね。

(森直人)あぁ、ここでまた開眼が。

(大崎章)開眼。すごく開眼しました。

(森直人)でも、そっか。あれ91年とか、90年とか。

(大崎章)それで、その後に時を同じくして位で、たけしさんのあれに入るんですよ。『あの夏、いちばん静かな海。』。

(森直人)あの、僕もうね、本当生涯ナンバーワンのひとつぐらいの映画なんですけど。

(大崎章)『あの夏、いちばん静かな海。』ですか。ありがとうございます。それもたまたま、助監督仲間の人から電話があって「実は北野組でカチンコ募集してるけど、来る?」みたいな。絶対行きますって、とにかく僕はもうだって俺、たけし軍団に入りたかったぐらいの。

(森直人)においはするなぁ。でも世代的にも完全にそうですよね。

(大崎章)その時僕はセカンドだったので、カチンコやらないんですよ、普通。

(森直人)そっか、そっか。あれセカンドなんですね。

(大崎章)いや、カチンコは一番下です。サード、フォースがやるので、セカンドになった奴は「もうカチンコ嫌です」とかっていうシステムが昔あって。俺セカンドだったけど、たけしさんのいる現場だったらなんでもいいからやるって言って。

(森直人)カチンコやってたんですか。

(大崎章)カチンコやりました。

(森直人)すごいですね。

(大崎章)で、そこで調子に乗ってきましたけど面白い逸話があって。『あの夏、いちばん静かな海。』のクランクインの初日の一発目で、「ヨーイ、スタート」「あっ、イテッ」って挟んじゃった(笑)そしたらジミーさんが「両手で叩けよ!」って。そのファーストカット、もうたけしさんがそれ一週間ぐらいゲラゲラ笑って。それで俺たけしさんに覚えられたんですけど。

(森直人)すごい。なんかたけしギャグっぽい、それ。

(大崎章)あの、ほら、たけしさんがよくやるコントあるじゃないですか。映画がコントそのままになった。

(森直人)そう。最初に「ちょっと行くよー」ってなった時に「コッ」ってなるような、あの。

(大崎章)それがですね、本当その話はたけしさん今でも。それも『北野ファンクラブ』で言ってて、その話も。で、その『北野ファンクラブ』を見てたのが、高校の時見てたのが足立ですからね。

(森直人)なるほどなぁ。足立さんが僕の世代なので、一回りぐらい下なんですよね。なんかすごいよくわかってきたなぁ。でも竹中さんとか北野武さん、言ったらその、いつの間にか東映から松竹に流れてきていて。あの頃本当ちょっと異業種って言い方しましたけども。

(大崎章)異業種監督に結構付いているんですよね。

(森直人)そうですよね。庵野さんも含めて。庵野秀明さん。

(大崎章)そうそう。で、なんか一時期特殊助監督って呼ばれて、異業種ばかり。何でかって言うと異業種の監督は、技術はないけど面白いものを作る精神があるっていうのが好きで。そういう所に行きたくて。唯一自分で出来るのは仕事を選ぶことだって思っていて。そういう話があったらアンテナ張っていて、「あ、やりますよ」みたいなのが続いたんです。

(森直人)いや、素晴らしいですね。やっぱりフリーランスだったから仕事は選べる、面白い所に行こうっていうのがあった。

(大崎章)えっと、実は断った仕事もあります。

(森直人)そういうことですね。面白くなさそうだなって思うと行かない?

(大崎章)えっとね、面白く...まぁ最終的にその一言になるんですけど。色々こう、なんかそうなんですよ。

(森直人)これでも重要ですよね。やっぱり自分の時間だから。

(大崎章)重要だと思います。それで、回り回って庵野さんとも知り合ったし。『式日』。

(森直人)『式日』も僕大好きで、しかも全部その商業映画なのに個人映画でやることをやられますもんね、その皆さん、その方々も。でも言ったらその、諏訪さんも変わった監督な訳ですよね。

(大崎章)諏訪さんの『2/デュオ』の時一番やっぱりびっくりしましたよね、本当に。

(森直人)本当にでもラジカルな映画で。

(大崎章)いや諏訪さんもあれですよ、ずっとシナリオ書いてたんですけど全然面白くなくて。今は亡きたむらまさきさんが、諏訪さんが台本持って行くと「何も変わってませんね」って言うんですよ。「面白くなっていません」って言ってたから。最後の最後に、もう仙頭さんが「どうぞ」って。「これもうインすらええんちゃう?」みたいなことを言って。

(森直人)でもなんかちょっと似ている。

(大崎章)同じだったんですよ、結局。

(森直人)そうなんですね。そこでじゃあちょっと記憶が仙頭から越川へ、みたいな。

(大崎章)それに繋がっている、実は。

(森直人)あ、でも面白いですね。そっか、だから諏訪さんもやっぱりそこでシナリオで構築するってことを一回バッとしてた時にガッと開けるものが。

(大崎章)彼が言うには「自分にはシナリオ書く能力がまるでない」って。今でも言っていますけどね。

(森直人)あぁでも面白いですね。でもそれが転機になって今や、って感じですもんね、諏訪さんも。

(大崎章)そうですね。だから諏訪さんはやっぱり今は亡きたむらカメラマンの力が大きかった。

(森直人)『2/デュオ』そうですよね。たむらまさきさんの、やっぱり映画ってなんか出会いって大きいんだなって思いますよね。

(大崎章)出会いが全てですよ、本当に。

(森直人)助監督業はじゃあ滅茶苦茶忙しかったじゃないですか。

(大崎章)当時は滅茶苦茶忙しかったです。

(森直人)だってフリーで仕事が選べるフリーランスって結構な人ですよ。言ったら。

(大崎章)あ、そうですか。

(森直人)そうだと思います、やっぱり。

(大崎章)だからそうですね。助監督やっている頃、年に10本ぐらいやった時もありますし、本当に。

(森直人)じゃあもう全然、食っていけますもんね。

(大崎章)食っていけますが、だから、でもこれ監督やらなきゃいけないなってなった時からもう助監督やらないって決めちゃったので。

(森直人)それは、どうなんでしょう。なんか言ったら大崎青年はメッチャ流れでそこまで行っているじゃないですか。映画監督をやらなきゃっていうような意識って、やっぱそこでも芽生えてくるものなんですか。

(大崎章)えっとね、実はね、すごい遅かったんですよ。だからすごく変な話、MOOSIC LABの監督達って監督やりたくてしょうがないじゃないですか。

(森直人)そう。若い。

(大崎章)全然そういうのを思わなくて、むしろ助監督がすごく誇りを持っていた自負があったので、それは全然違って面白いなと思って。こんなのもいるんだよって彼らに言いたいけど。

(森直人)でも本当にその色んなパターンがあって、ダメな助監督から監督になる人もいれば、三池崇史さんのように伝説の助監督から監督になる人もいる。

(大崎章)僕は両方です。ダメな部分もあったと思います。

(森直人)あ、そうですか。

(大崎章)すごい数字とか細かいこと大嫌いなので、本当に。実は香盤表書くのも大嫌い。

(森直人)そういう地道なことやるのがちょっと苦手で。

(大崎章)地道な。ただ、なんか現場を...例えばまぁよく言われるけど、リラックスさせるとか。

(森直人)そうそう。ムードメーカーですよね。

(大崎章)ムードメーカーというのは昔から言われていて、ずっとそれです。

(森直人)なんかお話聞いていても思ったし、お会いして話しても思いました。明るい気分になれますもん。

(大崎章)嬉しいですね。だからそういう絶対監督やった方がいいなと思ったのはなんか、これ他の監督がやるよりも俺が考えた方が面白いんじゃないかっていうのを思ったのは2000年ぐらいですね。

(森直人)丁度じゃあ。

(大崎章)『私立探偵 濱マイク』やっている頃ですかね。『私立探偵 濱マイク』はキャスティングやっていたので。

(森直人)キャスティングもされてたんですか。

(大崎章)はい。キャスティングも結構やっていました。キャスティングっていうのもやっぱり面白い仕事で。ユニークなキャスティング案を出して、そうなんですよ。

(森直人)でもすごいキャスティングでしたよね。

(大崎章)『私立探偵 濱マイク』の時は手伝いだったので、自分が企画で出したのは少ないですけど、まぁ行政的な仕事をやっていましたね。

(森直人)あれって本当名だたる監督さんが参加された、結構本当伝説の。

(大崎章)伝説のテレビ番組ですよ。

(森直人)だと思うんですけども、じゃあそこで色んな監督さんとお知り合いになられたと?

(大崎章)そういうのもあります。そうなんですよ。

(森直人)助監督として付いていたりしたのもあった訳ですか、現場で。

(大崎章)あの時は利重剛さんには付きましたけど。あとは犬童さんにも一本付いているんですよ、『金髪の草原』。色んなの付いてます。

(森直人)そっか、そっか。『私立探偵 濱マイク』でも現場にも参加され、みたいな感じで。『キャッチボール屋』が2006年?

(大崎章)『キャッチボール屋』が。

(森直人)え、40...?

(大崎章)44です。だから遅いですよね。

(森直人)遅いですよね。

(大崎章)考えてみたら。実は『私立探偵 濱マイク』の時に知り合っていたというか前から知っていたある助監督さん、小野寺さんという人に「俺キャッチボールの企画、映画にしたいんだよね」って言った時に、紹介してくれたのが足立君だったんですよ。

(森直人)そこでようやく。

(大崎章)その小野寺さんって人が紹介してくれた。それで、足立君と知り合って。銀座の中華料理屋で初めて会ったんですけど3時間ぐらいずっと喋ってた(笑)

(森直人)『キャッチボール屋』というのはまぁ、コミュニケーションレンタルと言いますか、10円でキャッチボール、10分100円か。「10分100円でキャッチボールしますよ」という、大森南朋さん主演の映画なんですけども。

(大崎章)これもなかなか早くないですか、あれ。結構テーマ早くないですか、あれ。

(森直人)早いですよね。今なんかありそうな。

(大崎章)今まさにありそうな感じじゃないですか。

(森直人)レンタルなんちゃら。

(大崎章)レンタルなんちゃらあるし。

(森直人)それ思います。なんで思いついたんですか?

(大崎章)いや、あれはですね。僕が本当にキャッチボールが好きで。

(森直人)野球少年だったから。

(大崎章)野球少年、野球部にちょこっといたことがある、草野球とかもやってたし。

(森直人)足立さんも野球少年。

(大崎章)そう、野球少年。そこで話が合った所もあるし。なんかキャッチボールだけで映画撮りたいって、そこだけが。で、もちろんキャッチボールやるってことは、相手がいて。相手の幻を見たりするっていうのが短編映画として考えたりするんですけど。もちろんキャッチボール屋っていうことで、そこでお金が発生して、そこで何か気持ちを与えるみたいなことは公園だけで出来るし。だからこれ絶対行けると思うんだよねって足立にお話しして。

(森直人)あ、そこまではじゃあ原案と言いますか初期設定は完全に。

(大崎章)ありましたね。

(森直人)面白いですね。

(大崎章)本当に阿佐ヶ谷、当時は阿佐ヶ谷に住んでたので、阿佐ヶ谷の善福寺川公園で本当にいつもキャッチボールしていたんですよ。いいおっさんが。

(森直人)じゃあ本当にそこから湧いてきた第一作。

(大崎章)そうなんですよ。

(森直人)で、足立さんに書いていただき...っていう。その流れで。これはじゃあスルっと映画になっていったんですか。

(大崎章)いや、それがなかなかならなくて。

(森直人)ならなかったですか。じゃあ本当に『私立探偵 濱マイク』とかが終わって、実現するまでにちょっと空いたなっていう感じの期間があるってことですか。

(大崎章)そうですね、はい。

(森直人)その間じゃあ、どうやって食べていたりしたんですか。

(大崎章)よくわかんない(笑)

(森直人)覚えてないけど、みたいな。

(大崎章)いや、アルバイトしてなかったと思うんですよ、ほぼ。

(森直人)あ、でもじゃあなんとなく蓄えとかあるみたいな。

(大崎章)蓄えがあったつもりはないけど、なんか、ね。

(森直人)ふらふらして。

(大崎章)ふらふらしてて。

(森直人)ふらふらして、なんとなく。

(大崎章)だから昔お世話になったバーに月5万円、半年とか。そういうのありました。

(森直人)なんかやっぱりそこはこのお人柄でスルスルってこう。

(大崎章)ずっとツケを半年払わなくて。で、ほぼ毎日行ってメシだけ食って帰ってくっていう。

(森直人)すごいですね。人と人の間に助けられて、生き延びて。で、『キャッチボール屋』に辿りつく。そうそう、庵野秀明さんが出て来るんですよね。

(大崎章)そう。それはだから、僕が『式日』の助監督をやっていた関係なんですよ。

(森直人)そう。そうなんですよね。

(大崎章)今見るとびっくりしますよね。

(森直人)びっくりします。これもすごいなと思って。南朋さんにキャッチボール屋を預ける謎の紳士。

(大崎章)そう、謎の紳士。全くキャッチボールできないですからね、あの人。それがまたおかしい。

(森直人)そう。確かに。イメージない。

(大崎章)聞いたらあの時初めてキャッチボールやった。投げ方教えたの。こうやって日本で持って、こうやって投げれば行きますって。

(森直人)そうか。庵野秀明、キャッチボールない。いやでもすごいよな。この人脈と言いますかね。なんかね、その『キャッチボール屋』のDVD特典も見たんですよ。それこそSAKEROCKの浜謙さんとか、田中馨さんと、あと西川美和監督。

(大崎章)そう。西川監督とは実は『M/OTHER』で一緒だったんです。『M/OTHER』の時に僕がチーフ助監督で、谷口っていう監督がいるんですけど、谷口がセカンドで。なんと西川はサードですからね、当時。

(森直人)これね、これが恐ろしい話で。『M/OTHER』のサード助監督に西川美和がいた。そしてその繋がりで。

(大崎章)そう。その繋がりでずっと西川とは、西川は僕のことは「ずっと先輩です」って言ってくれているという。一生先輩ですって(笑)

(森直人)本当だからこのお人柄大きいですね。色んな方に愛されているじゃないですか。

(大崎章)それはまぁなんかね。よく言われるんですけど。失礼のないようにしたい、そういう方にね。

(森直人)でもだからこの『キャッチボール屋』も面白い映画で、しかも本当すごく評価もあったのに、そこから『お盆の弟』までまだ空きますよね。

(大崎章)一回その後にある大きな会社で映画の原作の企画がいい所まで行ったんですけど頓挫しちゃったんですよね。そこでまた、なんかこう、アチャーってなっちゃって。

(森直人)助監督の時は本当に途切れず仕事があったのに、監督になったらこんなに映画を成立させるのって難しいのかと。

(大崎章)難しいかっていうのを身に染みて思ったし。それでやっぱりこう、躁うつ病的なのになりますよね。

(森直人)あ、中学の時の。

(大崎章)中学の時のが再発しちゃって。

(森直人)ちょっとそういう所が実はあるという。じゃあ、ちょっとその期間っていうのはもうメンタル的にもきつい。

(大崎章)メンタル的にもきつかったんですが、何してたのかなって言うと、まぁバイトとかしていたと思うし、多少なんかそういうワークショップ的なことはしていたと思うんですけど。

(森直人)そうですよね。評価はあった訳で、人脈もありますから。でもまぁ生き延びるという。

(大崎章)生き延びるというか。それで、大学で教えることになったんですよ。2010年から。

(森直人)どこで教えられているんですか?

(大崎章)桜美林大学。

(森直人)桜美林で。桜美林も映画盛んですもんね。

(大崎章)そうなんです。映画専修なくなっちゃったんですけど。

(森直人)そうなんだ。でもありましたもんね。

(大崎章)で、そこで、その若い学生と出会えたのが大きくて。すごく大きくて。その辺が一番だから、なんだろう...さっき人脈とかおっしゃってくれますけど、僕にとって友達が、すべて影響がいい。その、僕にとって桜美林で教えたことによって、自分も考えるじゃないですか。映画を教えるっていうことはどういうことかって。それがすごく良くて。

(森直人)桜美林で映画やっていらっしゃる学生さんって、やっぱり女子が多い?

(大崎章)女子が多いです。

(森直人)ですよね。何を嬉しそうな顔してる(笑)

(大崎章)いや別に嬉しくないんだけど(笑)

(森直人)でもやっぱりちょっと、繋がるのかな。

(大崎章)繋がります。もともとその、『HOME AND HOME』っていう ザ・ラヂオカセッツってバンドのVPを撮ったんですけど。「それを撮れ」って言ってくれたのが桜美林の学生なんですよ。それを撮って、そのお披露目ライブで小雨ちゃんが見て。

(森直人)その流れなんだ。じゃあ大きいですね。

(大崎章)その流で「これすごくいいので、私のミュージックビデオ撮ってくれ」って言われた、その全部流れが。

(森直人)重要じゃないですか。

(大崎章)重要なんですよ。だから、その桜美林が重要だったっていう。

(森直人)なるほど、なるほど。じゃあ、MOOSIC LABの前にそういった伏線がちゃんとあった。

(大崎章)伏線があって、それで若い人と交流がすごい深まって。

(森直人)腑に落ちました。なるほどなぁ。でもやっぱり何かこう、でも本当、だから今まで驚くべきことに、観た映画の話とか全然していないんですよ(笑)この番組で珍しいんですけど。

(大崎章)やばくない?珍しいっていうかないでしょ、ほとんど。もうちょっとやっぱり「あの映画どうだったとか」って話、絶対ありますよね。

(森直人)それだけの話に終始する場合もあるのにこれがないって面白い。

(大崎章)ちょこっと言っただけで。それがちょっと関連するだけで。

(森直人)いやでもね、これがでも面白いなと思います。やっぱりそういう人の流れの中で、大崎監督が色々影響を受けた。

(大崎章)やっぱり、現場主義なんです、結局。

(森直人)ってことですよね。

(大崎章)はい。

(森直人)だからこう本当に動きながら...不遜な言い方すると、成長してこられたって言うような。未だにどんどん変容される。

(大崎章)今は変容してますね、完全に。

(森直人)いやでも、すごいよなぁ。でもその人と人の縁で言ったら、前に武正晴監督と足立紳さんに出て頂いた時に、お二人も丁度似た時期にすごく辛い時期があって...

(大崎章)そうです。知ってますよ。近くにいたので。

(森直人)そうでしょう。丁度ね、大崎監督がなぜか落語。

(大崎章)あれは僕が主催した訳ではないんですけど。

(森直人)違うんだ。

(大崎章)僕が主催したような感じになるんです。

(森直人)っておっしゃられていましたけどね。

(大崎章)二人はそう認識しているんですけど。飲み屋で、飲み屋が主催したんですけど。僕はその飲み屋に、阿佐ヶ谷の飲み屋さんで、客が少ないっていうからとにかく電話して、「絶対面白いから来てくれ」って電話したのが武と足立だったんです。そこの落語会で武と足立が初めて出会うっていう。

(森直人)そうそうそう(笑)で、『百円の恋』とかね、繋がって行くわけですから。

(大崎章)そう。だから本当『百円の恋』に関して、武に「俺が足立を紹介したんだよ」ってずっと言い続けますけど。

(森直人)そうですもんね。

(大崎章)でも逆に言うと僕は嬉しいですよね。

(森直人)いや、そう。これ面白くて。『百円の恋』の宣伝をやっていたのが直井さんなんですよね。スポッテッドプロダクション。

(大崎章)そう。そこの繋がりで僕は直井さんとこれの仕事をすることになるんです、のちのち。

(森直人)すごいよなぁ。『お盆の弟』が『百円の恋』に。足立さんがすごく注目度が上がった時点で。

(大崎章)上がった時に、そう。一緒にやっていたので。で、直井さんが「『お盆の弟』がすごくいい映画だ」って俺に言ってくれたので。

(森直人)いや、実際傑作ですよね。

(大崎章)ありがとうございます。

(森直人)本当にすごい映画で、本当もし観てない方がいらっしゃったら『お盆の弟』は是非観て欲しい。

(大崎章)是非観て欲しいです。本当に。

(森直人)渋川清彦さんが、やはり群馬出身で。まぁ地元群馬の実家に帰ってきたダメな映画監督という、ご自身を投影されたとおっしゃいました。お兄ちゃんが『キャッチボール屋』にも出ていらっしゃった光石研さん。奥さんが渡辺真起子さんで。なんかその、渋川さん演じる監督がなんか大崎さんと足立さんが混ざった様な。

(大崎章)そうです、そうです。

(森直人)結果的に主人公像になっている、という。

(大崎章)はい。

(森直人)脚本家の親友にして悪友役がいるんですけど。それが岡田浩暉さん。なんとね、あの「To Be Continued」の岡田さん。

(大崎章)そう。「To Be Continued」の岡田さんが。

(森直人)これがね、「誰!?」って。

(大崎章)わからなかったでしょう。

(森直人)僕のイメージだと、それこそバブルのちょっと後の中山美穂さんのドラマの主題歌とか出演とかされた、あのイケメンのイメージ。「誰!?」っていうような、すごい冴えない、しかもちょっとウザい役で出ていらっしゃるっていう。すごいですね。この流れは?

(大崎章)この流れはですね。まず最初に2013年の冬かなんか、なんかその頃やっぱり鬱屈していて朝まで起きていたりすることがあるんですよね、なんかやっぱりこう。

(森直人)鬱々として。

(大崎章)鬱々として寝られないみたいな。朝の6時ぐらい、6時ぐらいにいきなりメールが来たのかな。足立から「大崎さん『お盆の弟』のプロットどうなっていますか」って。

(森直人)あ、前に動いていた?

(大崎章)何度も動いてたんですよ。何度も動いても、なかなかうまく行かないので。「あれ、大崎さんが撮らないんだったら俺が撮ります」っていう。それが朝の5時ぐらい。怖くないですか。

(森直人)本気だなって。

(大崎章)本気だなって。あとで聞いたら、その時、足立はスーパーでバイトしていて、なんかビールの重いやつを何度も運んでいて、「もう嫌だ」と思って、なんか半分こうキレた状態で俺にメールしてきたらしくて。

(森直人)本気ってそっちの本気かよ、みたいなね。

(大崎章)で、「やべー」と思ってすぐ電話したんですよ。

(森直人)それこそ、『百円の恋』の舞台になった百円ショップですよね。

(大崎章)そう。百円ショップですよ、たぶん。

(森直人)「もう限界だー」みたいな。

(大崎章)それで俺が電話した、すぐ。「足立待って」って。「この話はさすがに俺の話だから、俺もうとにかく死んでも撮るから」って。「自主でも何でも撮るから」って。「ちょっと待ってくれ」って。

(森直人)どん底にいる二人が(笑)いやぁ本当この二人に未来を教えてあげたら頑張らないと(笑)よかったな。未来教えてあげたいな。

(大崎章)それでなんか、群馬のプロデューサーとも相談したら、その方も少しお金出してくれるってなって。まぁ足立の電話ですよ、とにかく。

(森直人)本当そこをガンっとうって、「よしまぁ行くしかない」って。

(大崎章)それで俺も「自主で」って。その時に大学で働いていたので少し蓄えがあったので。

(森直人)その時って桜美林もまだ?

(大崎章)行ってますよ。

(森直人)でも、行きながらこんな感じになっていた?

(大崎章)行きながら、まだできるような状態ではなかったんですよね。だけどそこで自費で何百万か自分で出して、それやろうってなった。で、なおかつこれ、最初は横浜の話だったんですよ、自分横浜に住んでいるので。兄と同居していて、兄が本当に癌で・本当の話、8割本当の話。俺と足立家のミックス。

(森直人)ミックスでほぼ本当の話。

(大崎章)ほぼ本当の話で。それで、そのさっき言った群馬のプロデューサーに相談したところ、「これ群馬に全て置き換えてくれたら少し手伝うよ」って。

(森直人)全部よかったじゃない。いい方に。

(大崎章)全部いい方に進んだんですよ。

(森直人)「キタキタキタ!」みたいな。

(大崎章)それで、渋川さんと岡田さん、群馬のキャスティング。そういうことなんです。

(森直人)全部いい方にどんどん来たっていう。

(大崎章)そういう流れですね。話はすべて足立家と、俺、元カノとの話です。

(森直人)よく聞くのは渡辺真起子さん演じた奥さんが足立さんの奥さんっぽい、みたいな。

(大崎章)そうです。

(森直人)それが大崎さんの元カノと混ざっている感じ?

(大崎章)混ざってるのは...「看病に来なさいって言って、看病に行ったまま帰って来なくていい」っていうのはまるで僕の話。

(森直人)もう似過ぎててどっちがどっちかわかんない(笑)同じじゃん、みたいな。

(大崎章)これあんまりでかい声では言わないけど今でもその兄と同居してるんですよ、2000年以来。

(森直人)じゃあまだ闘病されてる?

(大崎章)いや、闘病はもう治ったんですけど。「そのまんま帰って来なくていい」って。杉並から引っ越した時に。でもその元カノとは今でも親戚付き合いのようにしていますけどね。

(森直人)それもお人柄ですよね。

(大崎章)そうです。年に2回会ったりして。

(森直人)仲はいいよ、みたいな。

(大崎章)仲はいい。キムチ送ったりして。面白いですか?(笑)

(森直人)面白いですね(笑)かなりやられますね、僕(笑)

(大崎章)本当ですか。こんなに笑ってくれるとは。

(森直人)好きなんでしょうね、僕そういう人とかそういう話が。

(大崎章)本当あの映画にそのエッセンス結構入ってる。

(森直人)入ってるよなぁ。なんかでも、そう、だから武さんと足立さんって名コンビがいるんですけども、このお二人多分ちょっと感じが違いますよね。

(大崎章)感じが違う。俺に言わせると、俺と足立のダメコンビ。

(森直人)なんか似てるなぁっていう(笑)大崎足立コンビっていうのもありますよね。で、やっぱりその『百円の恋』と『お盆の弟』を見比べると。

(大崎章)全然違いますよね。

(森直人)そう、ベクトルの。根が同じでベクトルが違うっていうのがよく見えるんですよね。

(大崎章)そうですね。武はああいう男なので。

(森直人)割とやっぱりその、やっぱり作風もハードボイルドな所もありますし。見た目もね、いつ見てもスタイリッシュな感じでっていう。

(大崎章)そうそう(笑)

(森直人)『全裸監督』も。でも皆さんご活躍でね。すごいその数年前の。

(大崎章)そうなんです、だからあの時のね、武もそうでしたし、もちろん足立も僕も本当に仕事なくて。

(森直人)でもそこから皆こうガーッと。

(大崎章)いや俺はまだ全然行ってないですよ。

(森直人)いや、まだこれから。

(大崎章)これからね。

(森直人)これからあるという。公開もあります。いや、でもね、本当この通りどこまで続くかなっていうか(笑)

(大崎章)なんとなく僕の、あれですかね、人生少しぐらいは話せたんですが。面白い?(笑)

(森直人)面白い。まだ続きそうだけど。大崎入門としてはかなりいい内容になったんじゃないかなと思う。でも本当今までの大崎監督のお話の中に色んな名前が出て来た。いいですね、この人生は。

(大崎章)いや、ありがとうございます。自分で何て言っていいか分かんないですけど。

(森直人)振り返ってみて不思議な感じとかってありますか?

(大崎章)不思議というか、例えばたけしさんですとか、黒木和雄さんですとか、一緒にいる時はわかんなかったこと、後でね、すごい瞬間に同時にいたなとかっていうのはすごく思うし。あと今は今で、この流れに来て、こういう若い人と作ってるじゃないですか。だからさっきおっしゃってくれたように、どんどん変容していくって感じがもしかしたら楽しいのかな。

(森直人)本当にずっとその新陳代謝が大崎さんの中であるっていうのは。

(大崎章)それはでも自分でも最近スゲー感じていて。

(森直人)皆さんやっぱり。でも...こうお話してても、僕10歳ぐらい年上の方だと緊張するのが当たり前なんですけど、すごいタメグチな感じで(笑)

(大崎章)いや俺に対して緊張しないですよ。大学生、女子大生は俺と15分喋ったらタメグチになる。

(森直人)わかるー(笑)

(大崎章)わかる?(笑)

(森直人)わかる、それ。

(大崎章)本当にそういう感じがまぁ、僕なので。

(森直人)だから多分これからさらに行かれるんじゃないですか。出川哲郎さんですよ、出川さん。

(大崎章)出川哲郎で。

(森直人)どんどん行く、やっぱり。

(大崎章)たけし軍団再入門っていう。それは向こうが受け入れないでしょうけど。

(森直人)いやいや。本当ベテランの新進気鋭監督って気がします。

(大崎章)いや、ありがとうございます。そう言ってもらうと嬉しいですよね。MOOSIC LABの宣伝する時って必ず新進気鋭、なんて言うんですか、新進気鋭というか若い登竜門と言われるじゃないですか。そうするとなんで俺がいるのかって話になるので。

(森直人)いや、若いですよ。実年齢じゃないです。

(大崎章)そうですね。

(森直人)本当面白い映画なので皆さんご覧いただきたいなと思います。という訳でもう、この姿勢からも分かるようにずいぶん時間が。

(大崎章)なんかすごい喋った、俺。どのぐらい喋ったんだろう。

(森直人)やっぱりまぁ長くなりましたよね。でもまぁ、すごい一通り満足致しました。すごい楽しかったです。

(大崎章)逆によく、さすがによく聞いてくださって、嬉しいです。

(森直人)とんでもございません。はい。番組を楽しんで頂けた方は#活弁シネマ倶楽部、#活弁で投稿をお願い致します。活弁シネマ倶楽部のTwitterアカウントもありますので、是非フォローください。いや、それでは今回はここまでです。本当に楽しかったです。大崎章監督でした。どうもありがとうございました。

(大崎章)ありがとうございました。どうも。

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