見出し画像

これ観ました! 芝居見物レポート 四月@歌舞伎座

新・陰陽師(おんみょうじ) 滝夜叉姫

鳳凰祭四月大歌舞伎 昼の部

新作 😊スペクタクル・古典風・異世界・眼福
観劇日 2023年4月16日
 
 歌舞伎座新開場十周年記念と銘打っての本公演、昼の部は『新・陰陽師 滝夜叉姫』。乗りに乗っている花形の美しく若々しく華やかなエネルギーのほとばしりを、猿之助の脚本・演出と怪演がみごとに際立たせた通し狂言。ライブの醍醐味をたっぷりと味わえました。

 新作なのに古典という驚きの演出で、人気のケレンを惜しみなく取り入れた構成。さらに義太夫あり、若手舞踊上手の所作ごとあり、着ぐるみあり、アクロバット的な立ち回りありと多彩な古典のエンタメ要素がちりばられており、しかもストーリーはわかりやすくテンポよし。

 芝居巧者が脇を固めるなか、御年92歳でまもなく93歳になろうという寿猿も愛情の感じられる演出で登場、幸せな気分にさせてくれるひと場面も。また、最近立役も多い右近(尾上)の悪役が凄みがあって光っていたし、姫役壱太郎との花道での絡みは錦絵のごとく華麗。『歌舞伎家話 第二十四回』で隼人と染五郎が工夫を話していたけれど、この二人のケミストリーも新鮮でした。

 夢枕 獏作『陰陽師 滝夜叉姫』を題材とした演目は、10年前にも『新作陰陽師 滝夜叉姫』として上演されています。幸四郎(当時染五郎)、勘九郎、團十郎(当時海老蔵)、松緑、菊之助、七之助、愛之助と、キラ星のごとくの花形が打ちそろい斬新な内容とともに話題となりました。今回も同じ原作ですが、まったく別の筋立てでしかもとてつもなく面白く、おどろおどろしく、おかしみもあり、盛りだくさん。

 もちろん猿之助の宙乗りもあって、ああ歌舞伎っていいよねと客席に熱い空気が漂うなかで幕。古典の味付けだけれど、古典が好きではない人にもおすすめです。(2023年5月15日更新) 

😊=推しポイント(以下同)


与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)

鳳凰祭四月大歌舞伎 夜の部(以下同)

世話もの 😊仁左玉コンビ・名ぜりふ・江戸風俗・眼福
観劇日 2023年4月16日(以下同)

 仁左衛門&玉三郎の名コンビで贈る人気の世話もの。美しいだけでなく、コンビとしての歴史が長いため、仁左・玉ともに女っぷりと男っぷりが上がり濃厚な芝居を堪能できるのも魅力です。この演目の二人での初演は昭和57年。今回で6回目です。演目の詳細はこちらの記事をご参照ください。

 仁左衛門の今回の工夫のうち注目すべきは、二人の出会いを描く序幕「木更津海岸見染の場」の後に、通常あまり上演されない二幕目「赤間別荘の場」を入れたこと。同場が入ると、序幕の浜辺でのドラマティックな出会いと三幕目「源氏店の場」での再会の間に、何が起こり、なぜ与三郎が傷だらけになったのかがわかり、話がつながります。
 序幕でお富を見て思わず羽織りを落とす優男の与三郎は、二幕目でお富との逢い引きの現場を源左衛門に見つかりいたぶられ、美しい顔も若々しい体も傷つけられ簀巻きにされて海に放り込まれてしまいます。お富も後を追って海に飛び込むのですが、多左衛門に救われ、そのまま世話を受けていることが、三幕目で明らかになります。

 二幕目が入ることで、恋に強気なお富の姿も鮮明になります。逢い引き中はお富のほうが積極的で、および腰の仁左衛門に壁ドンをして迫るほどの勢い。その妖艶な色気と強さに与三郎が押し切られ二人は結ばれます。仁左・玉のあうんの呼吸があってこその、濃厚な濡れ場です。

 ストーリーとは別に、三幕目で江戸時代の女性が化粧をする様子が細かく描かれる場面も見どころ。
 冒頭で湯屋(銭湯)から家の前まで戻ってきたお富は、小さな赤い袋を口にくわえています。これは当時の石鹸の「ぬか」を入れた袋。その様子がかわいくもあり、なまめかしくもあり、こうしたちょっとしたところにもお富の魅力が表現されています。
 お富は、偶然軒先で雨宿りをしていた番頭を座敷に上げますが、火鉢を挟んではいるものの、番頭から見える場所で鏡台に向かい、湯上がりの化粧を始めます。まずは髪。後ろの首元で軽くまとめたまま軽く梳いて形を整え櫛を挿します。次は化粧。引き出しから取り出した白粉や紅を手際よく顔に塗っていきます。世話ものならではの、リアルな江戸の日常を垣間見られるだけでなく、仕草一つひとつに漂う色気が物語に深みを与えています。

 仁左・玉の美男美女コンビとその工夫だけでなく、少し異なる角度からも楽しめる演目です。(2023年5月15日)

(参考文献:公演筋書)

連獅子

舞踊劇 😊壮麗・親子共演の究極のシンクロ・舞踊巧者・人気演目

鑑賞直後の筆者ツイッターには「素晴らしかった。親子だからという一言では語れない息の合い方で、成長著しい左近さんの今しか見られない清新な仔獅子を舞踊巧者の松緑さんが力強くリード」とあり。

実は毛ぶりは揃わなくてもよいのだという話をどこかで読んだ気もしますが、ここまで揃うものなのか、と思うほど親獅子と仔獅子が完璧にシンクロした毛ぶりは語り尽くせないほど美しく圧巻。左近が勤める、試練を乗り越え自信をつけてふたたび親とまみえた仔獅子が、壮齢の松緑演じる親獅子の力強い毛ぶりに負けじと挑み、みごとに肩を並べる。そんな仔獅子の成長ぶりを表現した堂々たる毛ぶりでした。松緑はもちろんのこと、左近の舞踊も凜としてキレがよく芸達者。(2023年7月4日)

(参考文献:公演筋書)

©Katsuma Kineya

トップページに戻る

 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?