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2/11バンコク 蓮の花の咲いた夜

「おいみんな、これ見てみろよ。」
我々5人がホステルの玄関先にほど近い喫煙場所で夕食を取っているとスタッフのひとりが声をかけてきた。
彼の指さす先には孤独に、しかし誇り高く凛として蓮の花が大きく咲いていた。
「明日にはダメになってるな、かわいそうに。」

2/9
せっかくバンコクにいるのだから何かしなければ。
そんな意味のない焦りが一日中気持ちを急かしていた。

そこで特段興味もないし買い物をするつもりもないのにただネットでオススメられているからという理由で週末だけ開かれる大きなマーケットへと足を運んだ。
バイクの後ろに乗って風を切るのが気持ちよくてまたバイタクを使う。
彼らは大体最初に150バーツと提示してくる。そしてそれを100まで下げてくれる。そんな人間達だ。

マーケットへ着くと沢山の客がひしめきあっていた。多くは外国人であった。
もちろん楽しくない。興味がないから。
ただばら撒く為のお土産を買う場所としてはいいのだろうなと感じた。
腐った日本のお土産文化は今すぐなくなるべきだ。

30分ほど気怠く歩きまわりまたバイタクで宿へ帰る。

晩飯を食べに行くため準備していたところ同室のドイツ人トルコ人がちょうど飯に行くらしく誘ってくれた。
彼らとは喫煙所で初め出会ったタバコ仲間だ。
近くの食堂で飯を済ませ会計時に何故か少し我々の手元にお金が残ってしまった。
誰かが多く出したのか?店員が計算間違いをしたのか?
協議の上、このお金でタバコを買って分配することになったのだった。

2/10
今日も昨日と同じく無駄な焦燥感に駆られこれまた興味のない寺院へと向かった。
ワット・プラケオ。タイでは最も格式高いらしい。
入場料で500バーツ(1750円)を支払い、中を見て回った。そこは四方から中国語が飛び交うもはやチャイナタウンと化していた。中国人に人気の海外旅行先で一番がタイという話を聞いたことがある。
この時にやっと自分が興味ない事をわざわざする必要がないことに気付く。
失敗は成功の母である。

中国語を聞いたからであろうか、帰りに無性にチャーハンが食べたくなったものの八番らーめんという店を発見したためラーメンを食べた。
なんとなく味が薄かったような気がするが概ね日本のそれと変わらず、ホームシックにかかるまでの時間を延長させることが出来たと思う。

宿に帰りロビーで読書をしていたらスタッフが話しかけてきた。
「今日市場で鶏肉を買って映画でも見ながら食べようと思うんだけど、一緒にどう?」
「もちろん」

彼とそのパートナー(彼女もまたスタッフだ)、フランス人の女の子、俺の4人で市場へ買い出しに出た。
訪れた市場はまさに地元民御用達といった雰囲気で、そこで食材を買うということはなかなかできる経験ではなく楽しかった。
道中、フランス人の彼女と話をしていた。彼女は21歳、名前はジュリエット(その名前にふさわしく美人だった)。学校が終わってバリスタになる前の休暇としてアジアを回っているということだった。
市場でピンク色の卵を見かけたがあれはなんだったのだろうか?我々は訝しげにそれを見つめていたが買うのはよした。

買い出しが終わり2kgの鶏肉、たくさんの野菜を手に持って宿へと戻りスタッフが調理を始めた。
我々はただ待つのみだ。

いささか遅すぎるタイミングで調理が終わった(階段の電気が切れたり台所にビールが置いてあったのが主な理由だ)。
その時ちょうど我々は全員(買い出しメンバーとドイツ人の彼)喫煙所に集まっていたのでじゃあここで食べようとなりチキンと食パンを用意し食べ始めた。
やはり一人で取る食事よりも美味しいものだ。

そこでホステル入口横の鉢の蓮が花を咲かせているのをスタッフの一人が気が付いた。
写真は翌日に撮ったもの。昨晩輝かしい命のきらめきが彼女にあったことを感じる事が出来る。そして彼女はどこか満足し、いわけない笑顔をしているようにも見える。
ビールを飲んで映画を見始めたときには眠気がいたずらに俺を覆い始めていた。

「もう寝るよ。酔っぱらってしまった。」
「おいおいアジア人だなあ。」
「そうだよ。見ればわかるだろ。おやすみ。」
「おやすみ。」

2/11

朝4時頃に部屋のドアが開く。ドイツ人ニックとジュリエットが部屋へと戻ってきた。
彼らは酔っぱらっていると見え、幾らか大きめの声でなにやら話していた。
それで目を覚ましてしまった俺はタバコを吸いに外に出る。

ロビーで寝ていたスタッフが俺の姿を確認する。
「おはよう。」
いや、まだ4時だよ。

タバコを吸って戻って部屋へ向かうときには
「おやすみ。」
そうだな、おやすみ。

部屋では何やら音がする。
少しいやらしい音のような気もする。
神経がそっちに集中してしまってなかなか寝付けなかった。

気付いた時には昼前であったが、もう自分の興味の向くものがここには無い。どこかへ無理に出かける事も徒労に終わるとわかった。ゆっくりするのもいいじゃないか。焦燥感も吹っ飛んでいて非常にスッキリとした気分だ。
そうしてパン屋で何個かパンを購入し軽食を取ってまた読書をし、ニックと飯を食ってブログを書いて緩い流れで今日も終わる。

人並に旅をせねばと焦るより
自由でいろと蓮華は告げた

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