勝俣ジュニア

旅は終わりただの男へ

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曖昧なガールフレンドがいた話

魔法にかけられたような7ヶ月が呆気なく通り過ぎて行く。 とても長く短い、そして険しかった道程を歩き切って気付くのはそれが恋だったということ。 閉鎖的な高齢者と馬鹿な大学生しかいないあの町から出て名古屋へとやってきた。 思いのほか寒さが厳しかった冬に僕らは出会い、その溢れる爛漫な笑顔から見える矯正器具は繊細に輝く。 透明な笑い声は僕の体を突き抜けて、珍しく降った雪のなかへと消えてしまった。 初めて二人で行った居酒屋。その日から彼女の分のお水を頼む時は氷無し。今でもそのようにお

    • 彼女のくしゃみすら聞かないまま

         「ジャニス・ジョプリンって知ってる?」知らない。「ジミ・ヘンドリクスは?」知らない。「カート・コバーン、ジム・モリソンはどう?」知らない。 ロックスターはさ、27歳で死ぬんだよ。だから俺の余命もあと半年無いんだ。 「でもロックスターじゃないでしょ。」 ごもっともだった。  27歳にもなって好きだとか恋だとか言うのはダサすぎて、そうなるくらいなら本当にこの歳で死にたいと思っていた。それでも彼女の、12月に降る初雪のような儚く透き通った声を聞くと、身体の全ての感覚器が熱

      • バーの店員とホテルに行って勃たなかった話

         五感のうちで一番記憶を呼び覚ます能力が高いのは嗅覚だという。 僕が生活をするたびに指に染み付いた君の味気ない密の香りが鼻に入る。いつもは半分だけ吸う煙草を今回も根元まで吸い尽くした。食事をとる時、歯を磨く時、全ての場面で一昨日に見た暗い部屋のベッドのなか隣で息を吐く君の横顔を思い出す。  君はいつも母親がつくるという耳飾りをしていた。初めて会ったときも。最後に会ったときも。それは大仰すぎず控えめすぎず、大きい目とすっきりとした鼻、少しだけ前に出た歯をしまう薄い唇をもつ君に

        • 3/24インド ゴウハティ 粉の残る町を去って

          これだけ揺れればインド人だって吐くだろう。後部に座っていた現地民は運転中の窓から嘔吐した。 目的地まであと少しに迫ったころ、エンジンの調子が悪くなって雨が降り出すなかバンは動かなくなる。 「トラブルだらけだよ。」ただ一人英語の話せる運転手は、遠くに聞こえる蝉の鳴き声のようなしゃがれた声で苦笑いしながら呟いた。 3/13 本来なら今日も泊まって明日出発の予定だったが、もう充分パゴダも見て回ったし他にすることもないので午前中のうちにまたバスに乗ってマンダレーへ戻った。 マンダ

        曖昧なガールフレンドがいた話

          3/12ミャンマー バガン 20年後の彼女は

          誰もいないし、バレやしないよ。 柵を乗り越えパゴダに登って上から見た景色は、多少の罪悪感も相まってかとても美しく見えた。 3/11 宿に迎えに来たピックアップトラックの荷台に乗って、マンダレーの街を走る。 バスターミナルで綺麗とは言えないバスに乗り換え5時間ほどかけてバガンへと到着した。マンダレーへ来た時のバスは16時間だったがVIPバスで足元も広いしシートも柔らかかったが今回は違う。足元は狭いしリクライニングのレバーが壊れていて厳しい姿勢での5時間だった。 まだ我慢出

          3/12ミャンマー バガン 20年後の彼女は

          3/10ミャンマー マンダレー 電波の無いバスターミナル

          運転手は攻める。 およそ80km/hは出ているだろう速度で悪路をものともせず飛ばしに飛ばして暗闇を駆けるバスに外国人は俺だけだった。 3/8 メーソートの宿にタクシーが到着する。 おばさん運転手が国境まで少しハラハラするアトラクションのように連れて行ってくれ、イミグレーションへと辿り着いた。 担当はこれまたおばさんの管理官でとても穏やかな笑顔で終始対応してくれた。しかし聞くことはしっかりと聞いてきた印象で、仮に何かおかしな点がある際はガラリと表情を変えて詰問してくるのだ

          3/10ミャンマー マンダレー 電波の無いバスターミナル

          3/7タイ チェンマイ その一瞬を撮れ

          チェンマイの旧市街を歩き、ふと振り返ると郷愁の想いに駆られた。 日本らしい街並みと遠くに見える山。暑さ真っ盛りの午後3時。 カメラを持っていなかったので、雀色時にその場所へと戻ってきて写真を撮ろうと振り返った場所に立った時、感じたのは失望だった。 酷暑の中でも厳かだったあの山は今、懐かしい街並みと共に暗闇に包み込まれようとしている。 あれだけ心を打った風景であったのに写真を撮る気にもなれなかった。 美しいと思ったその瞬間が一番輝いて見える。 3/3 明日、クアラルンプー

          3/7タイ チェンマイ その一瞬を撮れ

          3/2マレーシア マラッカ 夕方のスコール

          写真でのメニューが無くてもおおよそこんなものだろうと見当がつくようになってきているので、カレー屋へと避難して雨が止むのを待つ。 牛肉が入ったカレーがあった。店員の彼らは食べないまでも多国籍国家ならではのメニューなのだろう。 柔らかい牛肉を頬張りいつものようにコーラも飲み終え煙をくゆらして空を眺める。東の空は既に所々青くなってきていた。 2/28 宿の洗濯機が1回150円ということで手洗いの難しいシャツとジーパン、日本から着てきたヒートテックも洗濯した。 ドミトリーのエアコ

          3/2マレーシア マラッカ 夕方のスコール

          2/27マレーシア マラッカ 自らに根付いている日本人

          ジョホールバルの月曜の夜、道を封鎖して中国人達がパレードを行っていた。シャボン玉やクラッカーに迎えられて豪奢な山車や龍の作り物、大きな人形達が闊歩していた。 中国人や西洋人は騒ぐのが得意なように思える。 俺はというとどちらかと言えばやはり、雪がしんしんと降るなかでまだ足跡のひとつも付いていない道をうつむいて歩いたり、鹿威しが水を吐き出し音を立てる様を縁側から覗いていたいほうだ。 昨今は文化や生活等の西洋化が著しいが、まだこういう日本人の方が多いのではないだろうか。 2/23

          2/27マレーシア マラッカ 自らに根付いている日本人

          2/22マレーシア ジョホールバル 住宅街の夜

          シンガポールに近いジョホールバルでの宿は住宅街に建つゲストハウス。 「4泊ね。シンガポールにも行くの?」 「どうだろう、わからない。」 「だってここは小さい町で何もないよ。」 「友達に会うんだ。」 「そういうことね。わかった。」 2/19 宿の一階はカレー屋になっていて、提携しているのか朝食はそこで無料で食べれるようになっていた。 トーストかロティ(ナンのようなもの)を選べるので今日はトーストにしてみる。サンドされたトーストの中にはたっぷりのシュガーマーガリンのようなもの

          2/22マレーシア ジョホールバル 住宅街の夜

          海外風俗 クアラルンプールのスペシャルマッサージを受けた話

          2019 2/19 マッサージどうなんだろうな~ もしいかがわしいこと何もなくても普通にマッサージ受けたいな~ 泊まってるゲストハウスから歩いて5分もすればマッサージ屋が立ち並ぶ通りになる。 アロー通りに程近い、Changkat Bukit Bintangという通りだ。 昨日チラと目にした客引きの女性は俺の好みだった。 その女性が今日も同じ場所にいたのでまず値段を見る。 足のみのコース 30分 30リンギット(814円ほど) これでいいよというが彼女は絶対に譲らず、

          海外風俗 クアラルンプールのスペシャルマッサージを受けた話

          2/18マレーシア クアラルンプール 極寒の亜熱帯

          「もう寝るの?」 「いや、まだ寝ないよ。けど俺はパーティーピープルじゃないから。」 「西洋人はみんなそうだよね、面白い。」 「みんなじゃないわよ。私がここにいるから。」 「年齢によるわよね。」 2/15 昨夜、ペナン島の宿で少し話したサウジアラビア人のムハンマドがちょうど国立公園に行くつもりだと言うので一緒に行くことにした。 公園へ向かうバスのなかでは宗教観の違いを垣間見た。 人は食べ物の消化や、まばたきを自分でしようと思ってやってるんじゃない。これはどう考えても自然に

          2/18マレーシア クアラルンプール 極寒の亜熱帯

          2/14マレーシア ペナン島 うるさいほどの静寂

          きっとあの宿が、バンコクで最高の場所だと思う。 施設はお世辞にも良いとは言い難いが、スタッフ達の人間性は素晴らしかった。昔からお互いに知った仲のように毎日過ごした。 周りのゲスト達も皆一様にいい人間達だった。 2/12 昨晩夜遅く、スタッフのサムがカレーを作ってくれた。 彼はタイとインドのハーフのようでインド料理店で働いた経歴も持っているらしい。その腕前は確かで、本場仕込みのスパイシーなカレーを提供してくれた。 そして朝7時頃、女の喘ぎ声と共に起床。 違う部屋から我々の所

          2/14マレーシア ペナン島 うるさいほどの静寂

          2/11バンコク 蓮の花の咲いた夜

          「おいみんな、これ見てみろよ。」 我々5人がホステルの玄関先にほど近い喫煙場所で夕食を取っているとスタッフのひとりが声をかけてきた。 彼の指さす先には孤独に、しかし誇り高く凛として蓮の花が大きく咲いていた。 「明日にはダメになってるな、かわいそうに。」 2/9 せっかくバンコクにいるのだから何かしなければ。 そんな意味のない焦りが一日中気持ちを急かしていた。 そこで特段興味もないし買い物をするつもりもないのにただネットでオススメられているからという理由で週末だけ開かれる大

          2/11バンコク 蓮の花の咲いた夜

          2/8 まとわりつく熱気は不快で。バンコク

          初めは聞き取れず、話もうまく出来なかった英語は4日も経つと慣れてきた。 周りのヨーロッパ人の堪能さには驚かされる。しかし俺に足りないのは英語力というより自信だと思う。 2/6 空港で捨ててしまったアウターのポケットには割と新しいイヤホンが入ったままだった。 日本から持ってきたG-shockも電池切れか表示されない。 電脳街で知られるMBKセンターというモールへ赴く。 約3.5kmの道のりをせっかくなのでバイクタクシーを使ってみる。 一人目は路地で休んでいた運転手。 地図の

          2/8 まとわりつく熱気は不快で。バンコク

          バンコク 2/5

          預け荷物がなかなか流れて来ない。他の乗客は半分ほど残っている。 それにしたって遅すぎやしないかと不安になる。 他の中国人や日本人の顔にも俺と同じような焦りが見える。 しかしタイ人らしき人達はなんともなさそうな表情を浮かべていた。 2019年2月4日 その後、荷物は何の悪気もなさそうな顔をして流れてきた。 そんな顔をされたら何も言えない。こちらもタイのスローな流れに慣れなければいけないようだ。 両替を済まし、カオサン通り行のバスへと乗り込む。 同時に乗った日本人が声をかけて

          バンコク 2/5