思い出の駅

ちょっとした思い出話を。

大学生の頃、西武池袋線の桜台という駅の近くに住んでいた。
いわゆる住宅街で、付近には大学が3つあるので学生の一人暮らしも多い。隣の駅の江古田は学生街で駅前には飲み屋や飲食店がごちゃっと集積している。この江古田駅と桜台駅の間に大学があり、どちらの駅もよく利用した。

学生の頃、僕の家は絵に描いたようなたまり場で、家主の僕が不在でも平気で友人が上がり込み、いつも誰かがいた。部屋の中には、漫画やゲームがひしめいていた。

仲の良い友人の一人は、神奈川の実家から大学に通っており、彼はこれでもかというくらいよく終電を逃して、うちに泊まっていった。内心は快く思いながらも「またかよ、わざとだろ」などとふざける。

もはや彼の言う「終電で帰る」は決して中身の伴わない宣誓か、何度唱えても決して現実化しない呪文だった。

さて4年間というモラトリアムの終結。そんな我々にも終わりの日は来た。卒業式。なぜか僕たちは卒業式にライブをした。慣れないギターを練習して全力で「終わらない歌」を唄っていた。終わらない歌、終わらない歌。卒業式当日に「送別会は良いからライブをさせてくれ」と言って「終わらない歌」を咆哮するくらいにはセンチメンタルな気持ちになっていた。というか、寂しかった。毎日のようにだらだらして、よくわからない遊びをして、女の子とデートに出かけた報告をしあったり、一品190円の居酒屋で開店から閉店までくだらないことを話したり、酔いすぎた友達がうちのトイレを占拠したり、フラれた友人の失恋パーティをしたり。
そんな時間が終わることをどうやって受け入れて良いかわからなかった。
控えめに言っても最高に楽しかったし、どう考えてもみんなのことが好きだった。


あの日、彼は帰ってこなかった。

神奈川から通っていたあいつはその日も案の定「終電で帰る」という効力のない呪文を唱えていて、やはり案の定、誰もが信じていなかった。でも、あの日、卒業式の日、彼は終電に乗って、帰った。

「間に合わなかったわ」とお馴染みのセリフと共にカムバック、朝までだらだらと過ごし、時間に引き離されるのを待つ代わりに、彼はあの日、終電に乗った。在学中一度たりとも守ったことのないその言明を彼はよりによって卒業式の日にだけ守ったのだ。

あの日、僕らは、終わらない歌を歌いながら、どうにか必死で終わりを作ったんだと思う。きっと。


と、思い出話はここまで。
さて、この話、本当にあったんだっけな。

#毎日note






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