春の短編。
「と、こういう話なんだ。
君はこの話が何を言おうとしているかわかるかい?」
男は、向かいの席に座っている女に訊ねた。
「いや、はっきりとは」
「では個人的な感想でいい。
君が思ったことを聞かせてくれないか」
「そうね
私が思ったことは、、、
というか私は基本的に教訓めいた"おはなし"みたいなものは嫌いなの。こちらがまだ答えてもいないのに正解を述べられているような気持ちになるんだもの。あんなものは偽物と欺瞞の寄せ集めだと思うわ。」
男は口を横に結んだ。
「物語の感想は?」
「そうね
納得はした。」
「納得はした。」
「そう。私でも残りの寂しさを瓶に詰め直すことはないだろうという気がする。
全てを集めて、しまい込んで
それでもなぜかあぶれたその欠片は
もう自分の一部なんじゃないかしら
私ならそう思うけど。」
男は手元にあるコーヒーカップを持ち直して、もう冷めてしまった黒い液体をゆらしながら、窓の外に目をやる。
店内のBGMがBill EvansのWaltz For Debbyに切り替わる。
窓外の春の陽光が気持ちよさそうだった。
お読みいただきありがとうございます!