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無職男と時給870円女子の起業物語【第9話:1億円を燃やして得た教訓】

あらすじ:2014年六本木に夫婦で脱毛サロンIbiza Waxを開業。四苦八苦しつつもお店と通販事業が軌道に乗り、調子に乗っていると不穏な出来事が連続で起きてきた。


Ibiza Wax創業期から盛り上げてくれてたTちゃんが違う仕事をしたいと申し訳なさそうに退職していった。
麻美は「ウチの会社が働き甲斐のある職場だったら、、力不足でごめんね」と人目もはばからず泣いた。

その数ヶ月後、当店とそっくりな店作り、顔写真付き口コミを掲載しまくる当社御用達の手法で集客をするワックス脱毛店が近所にオープンした。
オーナーを見ると元気そうなTちゃんだった。噂によると彼氏と起業したらしい。

ん?デジャブか?既視感がある。
あーーーあれか、カツオと麻美って奴が起業する際に同じようなことしてたな!!

世界はちゃんと回ってる。
言って欲しかったな〜。心から応援したのに。涙を流した分、麻美はかなり悲しがっていた(自分のことを棚に置いて)。

起業時は単純な思考回路だった麻美も、様々なエグい経験をし物事や人を色んな角度から見るようになった。会社を運営するって人をこうも成長させるのかと驚いた。

税理士が「相当な利益が出そうなのでファーストでもビジネスクラスでも好きなの乗って出張にでも行ったらどうですか?」と提案してくれたので、気分転換も兼ねてアメリカ東海岸で開催される展示会を見に行くことにした。

人生初のビジネスクラスはほぼ立って子守という罰ゲームでした。

NY行きの飛行機に乗り込み妻とシャンパンで乾杯。会員制クラブの紹介でNYアスレチッククラブの宿泊施設に滞在した。場所はセントラルパークの真ん前。それまで味わったことのない気品ある雰囲気。僕らも紳士淑女になった気分だった。

景色が最高

人種や宗教などで差別が禁止されているアメリカなのに、お金持ち差別はあることを知った。なんだよ、早く言ってよ!金さえあればアメリカって天井無しに最高なんだね。分かり易いおもてなし。苦しゅうない。ウェイターも紳士の僕に仕えて嬉しそうだ。

部屋に戻りフカフカのソファーでくつろいでいると広告代理店のK君が大事な話があると国際電話をかけてきた。

「海外出張中すみません。緊急でして。実はカツオさんの商品を独占販売してもらっているアフィリエイト会社に僕の後輩がいるじゃないですか?」

「はいはい、僕もよくご飯連れて行ってるXX君達でしょ?」

「彼らがイビサクリームがあまりにも順調に売れてるので色々と知りたいと聞いてきまして、、、お世話にもなってるし何の疑いもなく教えていたんです」と申し訳なさそうにK君は言う。

「あー、だから僕に色々と質問してきたのですね。それで?」

XX君達とは何度も食事会を重ね懇意にしていたので僕に直接聞けばいいのに。なんだか嫌な予感が走る。

「彼らが新規事業を立ち上げまして、、、それが化粧品通販なのです。」

「ほぉほぉ。確かに彼らは売れる出稿サイトの情報全部持ってるから自社で化粧品作って、そこに出稿すれば利益総取りか!羨ましいねぇ。それで、ど、どんな化粧品売るの?」

頼む!!違っててくれ!!と願いつつ恐る恐る聞くと

「それが、、、御社のイビサクリームと全く同じなんです。。」

「まじか、、、」

「本当にすみません!!今、サイト送ります。。」

*画像貼りたいのですが自主規制します。

見ると当社のVIOケア化粧品のイビサクリームと容器が変わってるだけでほぼ一緒。サイトの作り、謳い文句も丸パクリ。

いきなり後頭部をレンガでぶん殴られたかと思うほどの衝撃。
彼らには独占販売を条件に、当社の全リソースを渡し一点突破で月2000件以上の新規客を獲得していた。
僕らの手の内を全て知っているし、どこでいくらの広告代金を支払い、どの広告のクリック率が良いか全てを把握してるのだ。
さらにK君を通して当社の発注先工場、システム、制作会社、ノウハウ全部が流れた。

「世の中には色んな通販化粧品があるのに、なぜわざわざ市場が小さいデリケートゾーンの黒ずみクリームをパクるんだろ、、、理解できない。。。」

「申し訳ありません!!責任の一端は僕にあります。立て直すために出来ることは何でもします!!」

彼の土下座レベルの謝罪が電話越しから伝わってきた。
もちろん彼の責任ではない。僕も本心を話す。

「今のうちがあるのはK君のお陰。君も彼らに恩返しをしたくて色々と教えてたと思うし。それに僕にとってK君に裏切られることが一番最悪だと思うから、今回の件が奴らだったことが唯一の救いです」

紳士の余裕である。これくらいで腹を立てるワケがない。

引き続きよろしくお願いします、と通話を切り電話を思い切りソファーに投げつけた。フカフカなのを知っていたので。

「くそ野郎が!!!人様の米びつに手を突っ込みやがって!!!ぜってぇ許さねぇ。許されて良いはずがねぇ!!」

紳士なんてヤメだヤメ!

最悪のNY滞在。
やっと軌道に乗った会社。手に入れた最高の日々。それがまさかの裏切りでガラガラと音を立てて崩れていくのが目に見えた。
しかも麻美のお腹には第二子が宿っているのに。。。

「どうしよう、どうしよう」が口癖になって寝れない日々が続く。なにせ彼らは全データを持っている。事実彼らは、当社商品の掲載サイト全てに連絡し丸パクリ商品へと差し替えを行っていた。

明らかに日々落ちていく数字。ECカートが壊れたかと思うほどだ。打つ手も見つからない。

この過去最大級の壁をなんとかしなくては。まずは彼らの会社を知ることからと思い会社謄本を取り寄せると親会社が上場していることが分かった。あれ?この壁に扉ついてね?ここで初めて突破の兆しが見えた。

僕は自社の口座残高をチェックすると期末が近いこともあり1億円以上の金が転がっていた。

当時は通帳を税理士にメールしていたので履歴あった!

オッケーオッケー。舐めんじゃねぇよ。
カツオの優しさと商道徳の緩さに付け込んだかもしれないが、彼らは日本が資本主義ってことを忘れていたようだな。僕はテーブルに肘をつき両手を組んだ。
親会社の株を買いまくり、物言う株主になってやる。
カツオファンドの誕生だった。

株主総会で、小汚い真似をする子会社の失態を大声で罵る。経営陣が一列に並んで大株主の僕に土下座。これで一件落着。完全にイメージが描けた。

さっそく実行に移すために楽天証券にログイン。親会社の時価総額をチェックすると100億超え。

3分でカツオファンド解散となった。

ちくしょう!!金も頭も知識も何もかもが足りねぇ!!

なすすべもなく恩人経営者に会って相談した。すると彼は、

「ほら見たことか!!当たり前だろ!!お前らがSNSで派手な生活を見せびらせしてるからだろ!!こういことだよ!!元スタッフが独立して近所で店やったのも、取引先に丸パクリされたのも全部お前らが調子こいてるからだぞ!カツオみたいなバカそうな奴らでもサクッと儲かるんだ、自分もやろぉって思うのが人間だろ!」

と捲し立ててきた。
失礼な!まるで悪いのは奴らではなく、僕らのような言い方だ!
僕は声を張り上げて言い返す。

「いやいや、そんな単純なことじゃないでしょ?!商道徳ってもんがあるでしょ!!奴らのやってること泥棒と同じですよ?」

「いやいや、お前らも実際に起業する時も同じようなことやったろ!!やるんだよ!普通に!」

「僕らはちょっと違うでしょ!!」

「ハタから見たら同じや!もうやめろ!お前も麻美も買ったもん一旦全部手放せ!謙虚に生きろ!暫くSNSも禁止!」

いやいや、そんな大袈裟な!!僕らの面談は平行線のまま終わった。

持ってるもん全部手放せって。。。

ん!?!ああぁぁ!!それ良いかも!!!!

閃いた僕は麻美に相談し合意を得ると、すぐ広告代理店のK君に連絡をした。

「今さ、うち1億円ぐらいお金あるのよ、それを広告費に全部ぶっこむキャンペーンやるわ。各サイトへの広告単価をがっつりアップしちゃってください!」

「えええ?!何でですか?!」驚くK君。

「いやだってさ、敵は丸パクリで愛情もない商品を売ってんだよ?!俺が親会社の社長だったら市場も小さいデリケートゾーンの美白クリームを売る新規事業のために1億円も広告費使うってなったらアホらしい!ってなるわ」

僕らにとっても大博打だ。敵には全てバレている。知られていないのは口座残高だけ。それを広告費に張るのだ。
どうせ、こっちの尻には火がついてる。僕らが子連れで焼け死ぬなら今ある札束を燃料にして会社を突っ走らせて奴らを振り切るしかねぇ。

そして数ヶ月。この作戦が烈火の如く噴いた。アフィリエイト広告の取り扱いがオセロのようにパタパタと僕らの商品に変わっていった。

広告費が暴騰し利益はぶっ飛んだがなんとか善戦しつつあった。

丸パクリの会社近くにわざと大きな看板も出した。

この際、通販は最悪儲からなくても良い。ただこのまま舐められて負け犬になるのだけはゴメンだった。奴らにも大きな損を与えて討ち死にするか、生き残るかの二択。

僕らにはサロンもあり、そちらもライバルの攻撃を受けつつも成長を続け銀座店を出店し合計4店舗、さらにフランチャイズをしたいとの話もいくつか来ていた。捨てる神ありゃ拾う神ありとはこのことだ。

窒息しそうな日々。それでも微かな希望の息継ぎが僕らの足を少しずつ前に進めてくれた。

そんな矢先、足が泥沼に入ってることを知る。

裁判所から一通の分厚い封筒が僕宛で届いたのだ。開けて見ると、まさかの前妻からだった。

=慰謝料 養育費 増額調停=

根拠の書類として、僕と麻美のSNS全てが印刷され、身につけているもの、訪れたレストランそれぞれの想定金額、更にそこから割り出される所得、生活費が記載されていた。

こ、こええええぇーーーー!!こういうこと!?!?

僕は恩人経営者に電話して

「すんません!貴方の言ってた意味、やっとわかりました!」

謝罪を入れた。

*調停は一年ほどかかりました。調子こいた罰金は想像以上に高かったです。

次回そろそろ、最終章!


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ホームレスになったヒモ男、世界一周したら小金持ちになった話。

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無職男と時給870円女子の起業物語
【第1話:火傷しない商売のルール】
【第2話:スパイ大作戦と砦の確認】
【第3話:半径1mの資金調達】
【第4話:六本木No.1戦略】
【第5話:洗面器に顔を突っ込む】
【第6話:飛び道具の開発方法】
【第7話:無鉄砲な当てずっぽう】
【第8話:順調は不調の始まり】
【第9話:1億円を燃やして得た教訓】
【最終話:最高のマーケティング、そして売却へ】

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