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新たなクールジャパン戦略の前に

今回の記事はクールジャパンについてなので、
今までの記事ほど生成AIの話は出てきません。

2024年2月10日まで行われている、
クールジャパンのパブリックコメントは500文字までなので、
こんなに長いnoteでは使い物になりませんが、
今後のクールジャパンについて考える思考材料として、
もしお役に立ちましたら幸いです。

以前Twitter(X)に書いた内容とほぼ同じではありますが、
流れていってしまうので改めて書き留めたものとなります。


結論としては、
「経済」に焦点置きすぎて、「文化」である事忘れてない?
という内容になっております。

それではまず、もう知らない方も多いと思われる、
かつて話題になった「とある施設」のことを、
思考材料として書き記す所から始めてみます。

国立メディア芸術総合センター(仮)とは?

クールジャパンと言っても、発信拠点はどこなんだろう?
発信拠点が無いなら作る必要は無いのだろうか?
そう思われる方もいるかもしれません。
実は過去に、それを作る計画は存在していました。

跡地

上記リンク先の委員名簿を見てみると分かるのですが、
ちゃんと創作関係者が集まって、
メディア芸術の未来について考えていたようです。

生成AIと創作の未来を考える場などに、
問題提起を行う創作関係者が呼ばれない現在の状況を思えば、
至極真っ当な進め方がされていたように思われます。

この施設が求められた「時代背景」としては、
韓国ドラマがブームになり、中国の映画が世界で注目を浴び、
どうやら他国は、そのような産業を国として後押ししているぞ、
という状況の只中であり、
日本のコンテンツの、世界での存在感低下が危惧されていました。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/media_art/pdf/kihonkeikaku_h21_07.pdf

映画、漫画、アニメ、ゲーム…
日本のコンテンツは世界でも人気なのに、
日本に来ても、明確にそれを鑑賞したり楽しめる場所は少ない。
海外で人気があっても海外への発信拠点が無いために、
海賊版や無断転載サイトなどでの拡がりが助長されてしまい、
実際のコンテンツ消費量とリターンが釣り合わない…

ならば日本の「メディア芸術」の発信拠点を作ろう。
「ハコ」は政府が作り、運営は民間に任せ、
そして日本のコンテンツ好きの海外客を呼び込む場にしよう。

そういった志によって話が生まれ、
以下のような事を目的に考えられていた施設だったようです。

① 優れた作品の展示、紹介
② 作品、関連資料等の収集・保存
③ 我が国の将来を担うクリエイターの育成
④ メディア芸術の最先端の動向等についての調査研究

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/media_art/pdf/kihonkeikaku_h21_07.pdf

頓挫の経緯

しかし、一見魅力的に思えるこの計画は、
あっさりと頓挫しました。
理由としては、政争の道具として、
当時の政局に利用された事が原因です。

当時は政府の無駄遣いとして、
「ハコモノ」と呼ばれる施設に非難が集まっていました。
「ハコモノ」の問題点は、以下のWikiにまとまっています。

その中で政権交代の機運も高まり、
「ハコモノの整理」が政権交代の公約の目玉として掲げられました。

そして、一つ前の記事で書いたような、
漫画やアニメへの偏見を助長する偏向報道もまだ残っている中で。
メディア芸術センターは、まさに。
マスコミが面白おかしく叩きたい「漫画アニメ」の「ハコモノ」でした。

マスコミ各社は大喜びでこの施設をやり玉に挙げ、
「国営漫画喫茶」などと揶揄しては笑い、無駄だと罵倒し続けました。
そして見事メディア芸術センターを白紙にする事が政争の目玉となり、
そのまま政権交代は起こりました。

その流れについては、Wikiにもまとまっているようです。

再考の意義

「ハコモノ」と呼ばれるものに、問題や懸念があるのは事実でしょう。
しかし上述のように、本当に無駄なのかどうか、
必要性を、正しく審議された撤回ではありませんでした。

当時、委員の方がどのような気持ちで臨んでいたのか、
その想いが以下に記されています。

一度頓挫したものの復活を求めるのは難しいと思いますが、
「日本メディア芸術の、発信拠点の必要性」
この部分はきちんと再考し、精査する必要があるものだと感じます。

クールジャパン機構とは?

さて、クールジャパン本体に目を向けてみます。
センターは「文化庁」にページがありましたが、
クールジャパン機構は「経済産業省」にページがあります。

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/2110CoolJapanFundr1.pdf

役員を見ても、センターと違ってビジネス感を強く感じますね。
「クールジャパン機構のねらい」、3つ目を引用します。

具体的には、日本のコンテンツ、ファッション、日本食、地域産品、観光等で海外展開 やインバウンドの強化に取り組む。

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/2110CoolJapanFundr1.pdf

食品を含むなど、思っていたよりクールジャパンの範囲って広いんですね。

この資料を読んで思う事は。
クールジャパンは現状、
”企業がコンテンツを使って、外需を開拓する為の後押し”
をする国策事業に見えますね。

クールジャパンに取り組む⽬的

別の資料で、クールジャパンの戦略も見てみましょう。
クールジャパン戦略関連基礎資料(2023年12月版)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/create_japan/gijisidai/dai1/siryou3.pdf

4ページ目の、「クールジャパンに取り組む⽬的」を引用してみます。
(以降何ページという記述があった場合は、このPDFのページを指します)

世界の「共感」を得ることを通じ、⽇本のブランド⼒を⾼めるとともに、⽇本への愛情を有する外国⼈(⽇ 本ファン)を増やすことで、⽇本のソフトパワーを強化する。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/create_japan/gijisidai/dai1/siryou3.pdf

「共感」というキーワードが入っていますね。
共感というのは勿論テクノロジーのワードではなく、
日本文化を語る上で必須となるキーワードではないかと思います。

「ソフトパワー」というIT目線のワードチョイスではありますが、
ここは日本のコンテンツ力、創作や文化の力という事ですね。
強化するという事は、
既に強い部分であり、それを伸ばしたいという事でしょう。

上記訂正:2024/1/31
ソフトパワー、ずっとIT用語だと思っていましたが、政治用語でした…
コンテンツ力で国際的な信頼を得る事らしいので、文脈は変わりません。

つまり用語を抜いて分かりやすく言い換えるならば。
「日本文化を広め、海外への発信力を高める事で、
コンテンツの輸出やインバウンド需要を加速し、
日本の一つの経済基盤として、より成長させたい」
という事かなと思います。

「文化」と「経済」

さて、
「共感」など、合理性よりも感情を基軸に培われてきた「文化」
そして、
「競争」「利益」など、感情より合理性に価値観を置く「経済」

クールジャパンを考える上で、
ここがとても重要なポイントではないかと思います。
目的として、この2つをさらっと混ぜられていますが、
本来は水と油と言っても良い事柄ではないでしょうか。

文化には、一つ前の記事に書いたように、
「ルールによる保護」も大切だと考えます。
攻めだけでなく、守りも含めて考える必要があるのではないでしょうか。
しかし、センターのような文化拠点の不在によって、
クールジャパンの戦略には文化としての側面が弱くなっており、
攻めのマネタイズ戦略ばかりが目立つように映ります。

クールジャパンが今まで上手くいっていない、
22ページのように赤字続きなのは、
マネタイズや戦略の上手下手の問題だけではなく、
この部分の理解が足りていないことも一因なのではないでしょうか。

これと似たような事例を、私たちは既に知っている気がします。

メタバースは本来、
アバターになって、皆で喜び楽しみの「共感」を拡げられる場。
そうであれば、人も集まったのではないでしょうか。

そういった「文化を形成可能な場」として捉えず、
「集客の場」とだけ考えて、
他のWeb3と絡めてマネタイズと競争ばかりを重視した結果、
人が寄り付かないものになってしまった気がします。

一応ですが、マネタイズを否定しているわけではありません。
サービスの持続にはマネタイズも重要です。
ただ、そのバランスを損なったサービスは、結局持続しないですよね。

メタバースとほぼ似たような空間なのに、
MMOなどは十分に成功している事からも、
バランスの重要性が分かります。

クールジャパンの改善には、
「文化」と「経済」のバランスの取れた関係性、
この部分を見つめ直し、
攻守を調和させる事が重要なのではないでしょうか。

おまけ

おまけです。
この資料は非常に興味深い点が多いですね。

まず34ページを見ると、サービス収支の黒字は、
ほぼ「知財」と「旅行」で担っていることが分かります。

「知財」というと難しい印象ですが、
著作物や特許、商標などのことですので、
コンテンツはここに含まれると思われます。
(サービス収支なので、車の輸出などは含まれていないため、
日本の貿易黒字がこれだけに依存している訳ではない点には注意)

逆に今、常に凄い盛り上がりを見せているように見える、
生成AIなども含んでいるハズのIT関係が、
実は大きな赤字になっている点も興味深い点ですね。

内訳は書かれていないから分かりませんが、
生成AI利用料はまだ統計に現れてこないと思いますので、
クラウドサービスなどの利用料がメインだとは思われます。
しかしそうすると結局のところ、
生成AIもクラウドも海外のサービスを利用し依存している事は、
ITサービスの慢性的な赤字化を引き起こし続ける気がしてしまいますね。

そして45ページを見ると、
日本のコンテンツ市場の規模は、世界第3位。
47ページを見ても「コンテンツ」の輸出におけるウェイトが大きい様子。

ただ気を付けるべきは、46ページによると、
日本のコンテンツ市場の成長率は低いとされています。

その理由は書かれていませんが、
少子高齢化が理由なのであるとすれば、
良質なコンテンツ力をもって外需を増やそうというのは、
着眼点自体は悪くないように思います。

ただ意見募集するならば、22ページの現在の赤字要因は、
詳細資料を提示して欲しい気がしますね…

500文字制限では十分に伝える事は出来ませんが、
他のパブコメも含めて真摯に受け取って頂き、
創作者の方々の環境が、良い方向に進んで行くことを祈ります。

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