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【連載小説】ライトブルー・バード<11>sideサトシ③

↓前回までのおはなしです。

そして登場人物の紹介はコチラ↓↓↓(全員、同じ学校に通っています)

井原サトシ(17) イケメン男子高校生。バスケ部所属で次期部長。当然女子たちから熱い視線を向けられているものの、幼なじみのカエデ以外は興味なし。

山田カエデ(17) 中学時代はサトシと仲は良かったものの、周りを気にして距離を取っている。隣の家に住む、幼なじみのリュウヘイに片思い中。

星名リュウヘイ(17) 一応主人公。 おバカだが気のいい少年で、同じバイト先の女の子、マナカに片思い中。

今泉マナカ(17) サトシとは友達で、今のところはお互いに恋愛感情はなし。バイト先の先輩だった荒川ヒロキを今でも想っている。

  下校途中の井原サトシは一瞬だけ自分の視力を疑った。

   (あれは…カエデ…だよな?)

    ハンバーガーショップの前でウロウロしているのはやはりカエデだった。店に入るかどうか迷っているように見えるのだが、少々挙動不審だ。

  (何やってんだ? アイツ)

   バイト中のリュウヘイの様子でも見に来たのか?…と思ったが、彼はまだ追試で学校にいるはずなのだ。噂によると今回の期末テストで学年ビリはリュウヘイだったらしい。

  (まあ、あのバカのことは置いといて…)

    サトシはカエデに近づき、後ろから「おいっ!」と声を掛けた。案の定、彼女は驚いて「ぎゃっ!?」と声を上げる。

「よぉ、カエデ。…なんか久しぶり」

「サ、サトシ…何…してるの?」

「それは俺のセリフだろ? オマエめちゃくちゃ挙動不審なんだけど…。リュウヘイなら今日はいねーぞ」

「そんなこと知ってるよ。私、別にリュウヘイに用があって来たワケじゃないもん」

 「ほーお?」

  (本人がいない間に、バイト先を覗こうと思ったワケね。いじらしいことで…)

   そんな恋する乙女…カエデの顔をじっと見つめるサトシ。ばつの悪そうな表情をしている彼女は今にも後ずさりしそうな雰囲気だ。

「何おびえてんの? 俺、別にオマエのこと取って食おうなんて思ってねーけど」

『本当は取って食いたいのですが…』なんて言ったら、目の前の鈍感女はどんな顔をするだろう…。

「いや何でもない。じゃあサトシ…私、もう行くね」

「待てや」

  サトシは立ち去ろうとするカエデの腕をグッと掴んだ。

「な、何?」

「せっかくだから店に入ろうぜ。迷ってたんだろ? 付き合ってやるよ」

「…やだ」

「はっ!?」

「だってサトシといると目立つもん」

「何言ってんのかわかんねーよ。ホラ、入るぞ!!」

  サトシは強引にカエデを引っ張り、そのまま店へと入って行った。

『昔のカエデはこんなヤツじゃなかったよな』と思いながら…。

 「いらっしゃいませ。あ、井原くん」

    カウンターに立っていたのは今泉マナカ。彼女は隣にいるカエデを見てニッコリと笑い、サトシに目で語りかける。『彼女が例の幼なじみの子でしょ?』と…。

  (はいはい、そうですよ)

サトシも表情だけで返事をした。

 「ご注文はお決まりですか?」

  「カエデ、今日は奢るから何でも頼め」

  「えぇ!? 悪いよ」

  「いいから頼めや。遠慮してると泣かすぞ」

  「う、うん、ありがと。…あ、ストロベリークリームパイは終売なんですよね?  残念…あのパイ大好きだったんですけど」

   接客の立場であるマナカに連られてしまい、同級生だと分かっていても、つい敬語になってしまうカエデだった。

 「はい。只今当店で扱っておりますのは『アップルパイ』のみですが、来週には『カフェオレパイ』が発売されます。是非よろしくお願いします」

「えっ?『カフェオレパイ』ですか!? うわぁ!!美味しそう!!」

「ですよね?   私も個人的に楽しみなんですよ」

 「本当、女子って甘いもの好きだよな~」

  2人の女子のキャーキャーした会話を聞きながら呆れ顔で呟くサトシだったが…

「あれ?  井原くんだっていつもチロルチョコのストロベリーバ…」

「わー!! わー!!  今泉ぃ! それ以上はストップ!!ストップ!!」

 「?」

    マナカの何気ない言葉に対し、サトシが慌てて制止する。中学時代、カエデが勧めてくれた『チロルチョコ・ストロベリーバニラ味』を未だに買い続けていることを本人の前でバラされてしまったら大変だ。

(今泉には明日、学校で釘を差しておこう…)

   カエデはアップルパイとカフェラテ、そしてサトシはダブルチーズバーガーセットを注文した。

「サトシ…セットなんか頼んで夕飯食べられるの?」

 「別腹」

 「いや、ほぼ同じでしょ。…ところでサトシ、今泉さんって近くで見ると本当に美人だね。仲いいけど、サトシの彼女じゃないの?」

「友達。アイツは他に好きなヤツがいる」

「へぇ~。サトシが女の子と仲がいいなんて珍しいから」

「ああ見えて意思は強いし、話していて楽しいからな。…そういや、オマエがいつもつるんでいる3人組は? 」

「全員追試だよ」

「ほぉ、追試まで一緒とは本当に仲良しだな。あれか?『一人じゃ何も出来ない女軍団』略して『一軍』だからか?」

   サトシの顔が皮肉で歪む。そしてカエデは何も言えなかった。

「洋服までお揃いにして、モール練り歩いてよ」

「!!!!」

  カップを持っていたカエデの動きが止まった。

「変わったなオマエ…。何やってんの? 」

「サトシ…モールに…いたんだ?」

    そう…、実はあの日の同じ時間帯にサトシはモールに足を運んでいた。参考書を買う為に書店にいたのだが、お揃いの服を着た4人の姿を目にした時は、驚きのあまり持っていた本を落としそうになってしまったほどだ。

 「見間違いであって欲しかったよ。本来のオマエなら、あんなこと断るハズだろ?  何あれ?  似合わない服着て、モールの客全員に仲良しアピール?」

「『似合わない』か…そうだよね。何やってるんだろ? 私」

「…………」

   (いや、基本、カエデは何を着ても似合うとは思うよ。でもあれはちょっとビックリしたんだよね。ちょっとスカート短か過ぎね? もしかしてリュウヘイのバカにあの格好見られた? いやぁ~見られたら俺、めちゃくちゃ面白くないんだけど…)

   サトシの言う『似合わない』にはこんな気持ちが込められていたのだが、そんなこと口が裂けても言えるワケがない。代わりにもう一度「ああ、似合わねー」と言ってしまった。

   罪悪感が半端ない。

   そのタイミングで彼の脳内では『白サトシ』と『黒サトシ』分裂。そして『白』が『黒』を思い切りぶん殴る。

(ほら自分、なんかフォローしろっ!!)

「まあ、…何だ。あの4人の中じゃ、オマエが一番マシだったけどな」

(『マシ』って何だよ? バカなの俺?)

『黒サトシ』を再びぶん殴る『白サトシ』…。

「嘘つかなくていいよ。あの中で一番似合っているのはナナエじゃん」

「板倉ナナエ? あ、俺アイツ嫌い」

   サトシは以前、ナナエと目が合った時に媚びを売るような視線を送られたことがある。

 「…だろうね」

 「オマエたちの様子見てると、勢力関係が一目で分かるよな?  誰が女王様で、誰が腰巾着で、誰がグループ抜けたがっているか…」

「………」

「アイツらといると、オマエのいいところが潰されてしまうぞ」

「…分かっているよ」

「リュウヘイは知っているのか?」

  カエデは頷いた。

「じゃあ、何やってんの? あのバカは?」

  「リュウヘイも心配している。話を聞いてくれる。『俺に何か出来ないか?』っていつも聞いてくれる。でも…リュウヘイは男子だから、女子の問題には深入りできないよ」

「ふ~ん」

    その後の2人は会話することなく、黙って食事を続けた。せっかくカエデと一緒にいるのに…。周りはサトシを過大評価しているが、つくづく自分は不器用な人間だと思う。

  サトシは、ふと『北風と太陽』の話を思い出す。

  (俺は北風。リュウヘイは太陽ってとこか…)

「出ようか?」

サトシは先に席を立った。

  並んで歩いていたものの、会話のない2人…。

  人通りの少ない道に差し掛かった時、カエデがやっと口を開いた。

「…サトシ、今日は奢ってくれてありがとう。私、向こうの店に用事あるから…」

「あぁ…またな」

「ねぇサトシ、私のこと『変わった』っていうけど、サトシも変わったよね? 学校のみんなから注目を浴びているせいで、本当の自分を隠している…」

「あっ!?   俺は俺ですが 何か?」

  『イケメン高校生の着ぐるみを来た小学生男子』は痛いところを突かれてしまい、顔が引きつる。

「その『俺様キャラ』って、周りに合わせた作り物じゃないの?」

   さすがのカエデも言われっぱなしで、黙っているワケにはいかなかったのだろう。油断していたサトシは、思わぬ反撃に口をへの字にして黙りこんだ。

「サトシ…疲れないの? 淋しくないの? 」

   カエデがサトシを見上げ、その言葉を告げた瞬間、『黒サトシ』がニヤリと笑った。

「…じゃ、『淋しい』って言ったら、カエデが慰めてくれるワケ?」

「えっ?」

   サトシはカエデの肩をグッと掴むと、一気に顔を近づけてきた。硬直したカエデの唇と自分の唇の距離は1センチにも満たない…。

  その唇同士は触れることのないまま、サトシは顔を元の位置に戻す。

「バーカ、冗談だよ。カエデちゃーん、何赤くなってんの?」

「サ、サ、サトシぃ!!」

「お陰で少し気が紛れたわー。じゃーな」

   サトシは右手をサッと上げると、カエデの顔を見ることなく、その場を去った。

   正確に言えば、怖さと恥ずかしさで彼女の顔をまともに見ることができなかったのだ。

(なななななななな…何やってんの俺!?  酷いよね? ドン引きだよね? 鬼畜だよね? 俺ヤバいヤツだよね?  あれっ? これってもしかして強制ワイセツじゃね? え? え? え? え? 俺、何?逮捕?…いやいやいやいやいやいや…ちょっと待ってっ!!!!)

   角を曲がり、早足になったサトシの顔は真っ赤でイケメンが台無し…。そして彼の脳内では『白サトシ』が『黒サトシ』をこれでもか!!…というくらいボコボコにしている。

(うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 後悔先に立たず…もはや役立たず。

  何とかバス停に着き、一瞬だけベンチに座ったサトシだが…

 (無理!! 座ってらんねぇ)

  すくっと立ち上がると、そのまま走り出した。じっとしていると頭が爆発しそうだ。

(もうダメ…走って帰ろう!!!)

  サトシが住む住宅地までの距離はバスで約 40分。途中には結構な坂道もある。

  それでもサトシは全力で走った。

   制服姿で走る男子高校生を、何人かのドライバーは「あらぁ~、青春だねぇ」と温かく見守りながら通り過ぎて行く…。

  彼らはこの青春少年が『学校イチの美少年&モテ男子』だとは夢にも思っていない。

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