見出し画像

【連載小説】ライトブルー・バード<10>sideカエデ③

↓前回までのお話です。

そして登場人物の紹介はコチラ↓

山田カエデ(17)…隣の家に住む、幼なじみのリュウヘイに片思い中の女子高生。現在『一軍女子グループ』内での関係に悩んでいる。

星名リュウヘイ(17)…主人公。おバカだが基本真面目で曲がったことは大嫌い。同じバイト先の今泉マナカに片思い中。

     山田カエデの脳内は星名リュウヘイに対する疑問形でいっぱいだった。

  (昨日のリュウヘイはやっぱり変だったよね?  一体どうしたんだろう?)

    カエデの励ましで最終的には元気を取り戻したものの、コンビニ帰り直後に見かけたリュウヘイの悲観的なオーラといったら…。

   (もしかして…好きな子と何かあったのかな…?)

    どうしても恋愛方面に結びつけてしまうのはリュウヘイの意中の相手に『輪郭』がないからなのだろう。 妄想が暴走してどんどん自分自身を追い詰めてしまう。

   相手が誰なのか知ってしまうのも怖いが、このままモヤモヤしてしまうのも辛い。

     幼さなじみ…それも隣に住んでるヤツを好きになんてなるものではない…とカエデはしみじみ思う。例え気まずい関係になったとしてもずっと隣の家で暮らさなければいけないなんて、かなりの拷問ではないか…。

   そして将来、リュウヘイが別の女性と結婚したら?  その時点で彼に対する自分の気持ちが変わっていなかったとしたら!?

(…いいことなんて何1つないじゃん)

 「…カエデ」

「…………」

「ちょっとカエデってば!?」

 「えっ?」

     板倉ナナエの声でカエデの思考は現実に戻された。

      ここはショッピングモールのフードコート。日曜日のお昼時なので座席は家族連れやカップルで埋め尽くされている。今日はグループの仲間4人で遊びに来ているのだが、『休日に彼女たちと行動するくらいなら、家で読書やお菓子作りをしていた方が楽しいのに…』というのが正直な気持ちだった。

   だからといって、簡単に断ることが出来ないのが女子グループの悲しいところだ

「…あ、ごめんナナエ…何?」

「『何?』じゃないよ。あっ…もしかしてカエデ、『ダンナ』のこと考えていたの? 」

   ナナエの言葉か合図でもあるかのように、他の2人も思い切り吹き出す。

   3人は相変わらずリュウヘイのことをカエデの『ダンナ』と呼び、飽きもせずに面白がっていた。

  何が面白いのかカエデには解らない。

「そ、そんなワケないってば!!」

   否定しようがしまいが彼女たちは結局カエデをからかうのだが…。

  「まあいいや。ところでさ、カエデは『今泉マナカ』ってオンナ知ってる?」

「えっ?…まあ、顔と名前くらいは」

   本当にそれだけだ。サトシと同じクラスの綺麗な顔の女の子…。同じ美人でもナナエとはタイプが違うな…とカエデは思っている。

  「ねぇ、あのオンナ、井原サトシくんとどんな関係?」

   「知らないよ!! だって前にも言ったじゃん。私、サトシとは最近接点ないって」

    ナナエたちの前では『サトシ』ではなく、『井原くん』と呼ぶのだが、今日はうっかり名前呼びをしてしまった。しかし彼女たちはマナカへの怒りで頭がいっぱいなのか、誰もそのことを指摘しない。

  「なんかアイツ調子に乗っているよね? 井原くんにベタベタして…。 ちょっと可愛いからって勘違いしてない?」

   ナナエが忌々しそうに言い放つと、ミサとアサミが『待ってました!』と言わんばかりに加勢する。

「えぇ!? 今泉マナカなんて全然可愛くないよ。ナナエの方が美人だって」

「そうそう、それにアイツ、なんかネクラっぽいし…」

「………」

   カエデは何も言わない。  それが気にくわないのか、ナナエが自分に視線を向ける。困った女王様だ。

「わ、私は彼女のことをよく知らないから…」

    人の悪口を言いたくないカエデの精一杯の反抗だった。マナカのことを詳しく知らなくて本当に良かったと思う。

   4人が今座っているテーブル席は、一番端の通路側にあるのだが、買い物客が席の横を通る度に彼女たちを物珍しそうな目で見つめる。それもそのハズ、全員の服装が全く同じなのだから。

   この服は10日ほど前、ナナエがスマホでティーンズアパレルのオンラインショップを検索し、「ねぇ、これみんなで買って『4つ子コーデ』しようよ」…と、提案したものだった。提案といえば聞こえはいいが、結局は『命令』だ。ミニスカート、パーカー、ブルゾン3点で値段はほぼ2万円!  100歩譲ってショッピング中に言われたのであればまだ解るが、何が悲しくて買い物前に散財させられなければならないのか…。

  (神様、どうかここにいる間は知り合いに遭遇しませんようにっ!!)

  『 お揃い』を否定しているワケではないし、好きならば自由にやればよい…とカエデは思っている。ただし個人的にはノーサンキュー。ついでに言わせてもらえば、このコーディネートも自分の趣味ではない。メンバーの中で赤いチェックのミニスカートが似合っているのは脚の長いナナエだけだ。

   そんなナナエはドリンクを飲みながら、一人ひとりの顔を見て「ねぇ、来週もこのメンバーで遊ぼうよ」と提案(命令)する。

  「えっ!? 来週は無理だよ。だって期末前じゃん」

   他の2人は秒でナナエに賛成したが、これはさすがに同調できない。学生として正当な理由なので、カエデはいつもより強気に出ることが出来た。

    一瞬、イラッとした表情を見せたナナエ。しかし「ふ~ん」と頷き、何故かカエデに笑顔を向ける。

  「カエデちゃんはアタマいいもんねー。いつもクラス上位だし…。でもアタマのいい女の子はモテないよ。…それにね、自分のダンナよりアタマのいい女の子って、アタシどうかと思うんだ」

   ストローを無意味にいじるナナエの目は笑っていない。

  「でもナナエ、星名よりアタマが悪くなるなんて却って難しいじゃん。だってアイツは前回の中間テストでクラス最下位なんだから。星名と同じクラスの子が言ってたから間違いないよ」

「マジ!?  ウケる~www」

「留年しちゃうんじゃね?」

    3人は思いきり笑っているが、ナナエたちだっていつも赤点ギリギリではないか…。それにリュウヘイは確かに勉強は出来ないが、優しくて誠実な男の子だ。誰かさん達と違って他人を笑ってバカにするようなことはしない。

    今、ここでそれを3人に向かって言い放つことが出来たらどんなにスッキリするだろう…。

  (リュウヘイ…ごめんね)

    大好きなストロベリーシェイクを飲んでいるのに、その甘さを感じることができないのは、リュウヘイへの罪悪感が原因に違いない…と思うカエデ。

    自分がとことん情けなかった。

    15時にようやく解散し、カエデは帰路についた。1日が無駄になった気分だ。それでも来週の誘いは何とか断ることが出来たので、少しだけ気が軽い。こんな感じで少しずつグループからフェイドアウト出来ればいいのだが…。

(…まあ、そう簡単にはいかないだろうけどね)

「おーい!! カ・エ・デ!!!」

   自分の家の門に手を掛けた所で、上から自分を呼ぶ声がした。

「リュウヘイ…」

   声の方向を辿ると、リュウヘイが自分の部屋から顔を出して手を振っている。

「カエデ、ちょっとそこで待ってて!!。俺、すぐにそっちに行くから」

    階段を駆け降りる『ドドドド…』という音がカエデの耳まで届く。そしてリュウヘイが玄関を開けた時、彼はバイト先の紙袋を手にしていた。

「リュウヘイ、バイトは?」

「今日は2時で終わった。サヨコさ…あ、ウチのマネージャーが『お前は他のヤツらより早く試験勉強始めろっ!!』って言ってきてさ。ハハハ…俺、めちゃめちゃ心配されてるわ」

「うん、そのマネージャーさんのいうこと聞いた方がいいね」

「ヘイヘイ。…で、これオマエに買って来た」

リュウヘイはカエデに紙袋を渡す。

「えっ?」

「前にオマエ『ストロベリーパイ買ってきてくれ』って言ってたでしょ? これ、もうすぐ販売終了なんだ。だから…」

 「あ、あ、ありがとう」

   リュウヘイはこんなに優しくしてくれるのに、自分はナナエ達から彼を庇うことが出来なかった。そんなことを考えて紙袋を受け取った瞬間、カエデの目から急に涙が溢れた。

「どうしたカエデ?   泣くほど嬉しいの?」

「違う!!  あ、嬉しいのは当たって入るけど違うのっ!!  私…私リュウヘイに凄く申し訳なくて… 」

「はっ?」

「リュウヘイ、私ね…」

    カエデは昼間のフードコートでの出来事を話す。3人がリュウヘイの学力を嗤ったこと、それに対して自分が何も言い返せなかったことを…。

  「…ごめんねリュウヘイ。私がもっと強ければ…」

  「いいんじゃね? 別に。言いたいヤツには言わせておけば」

  「はっ?」

  「俺、未来で関わる予定のないヤツに何言われても気にしねーよ」

  「いやいや、そこは怒りなさいよ! リュウヘイ、アンタバカじゃないの!?」

「オイオイ、オマエ までバカって言ってるし」

「あ、ごめん」

 「別にいいよ。俺、オマエの『バカ』には愛情感じてるから」

「…えっ?」

   とんでもない不意討ちだ。カエデの顔が湯気がでそうなくらい熱くなる。

  「だってオマエの考えていることは大体分かるし…」

 (いやいやいやいや…それはないだろ)

   どや顔のリュウヘイには悪いが、そこは冷静に突っ込みを入れるしかない。

  「カエデはそこまで気にするな。俺の悪口でその場が収まるんだったら、下手にアイツらを刺激すんなよ」

「でも…」

「う~ん…でも、アイツらと他のヤツの悪口を言うオマエは、ちょっと見たくないかもな」

「…うん」

   今日、『今泉マナカ』の悪口に同調しなくて良かった…と改めて思うカエデだった。

「…と、いうわけだ。じゃーな」

   一旦自分の家に戻ろうとしたリュウヘイだが、何かに気がついたように、くるっと振り向く。

「リュウヘイ? 何?」

「そういや、オマエ…いつもと雰囲気違うな?  そんな服着てんの珍しいし」

「えっ?」

    ナナエに無理矢理買わされた服なのだから当然だ。カエデは苦笑いして誤魔化そうとしたが、リュウヘイはニッコリ笑って言った。

「似合うじゃん。うん、可愛い」

   そう言い残すと、彼は家の中へと入っていった。一方、残されたカエデは放心状態でその場から動くことができない。

   リュウヘイのヤツ、どこまで私をドキドキさせれば気が済むのだろう…

   他に好きな子がいるクセに…

   やっぱりアイツはバカだ…

  でも、自分は…

   そんなバカが大好きだ。

   紙袋を部屋で開けたカエデ。中にはストロベリークリームパイが2個と赤い包み紙のキャンディが2個入っていた。

「『アップルパイ味』?…珍しいな」

   そのキャンディはテーブルに置き、ストロベリーパイの方を一口かじる。苺の甘酸っぱい味はしっかりとカエデの味覚に伝わった。

「美味しい」

   毎年好評のストロベリーパイシリーズ…今年はクリームだったが、去年はストロベリーチョコだったらしい。「来年は何だろうな?」と、リュウヘイが前に言っていた。

「来年か…」

   来年…新しいストロベリーパイが発売される頃には自分とリュウヘイはどんな関係になっているのだろう?

  今のままなのか? それとも?

  (もし願いが叶うなら、来年はリュウヘイの隣でストロベリーパイを食べることができますように…)

画像1

↓<11>に続きます。