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仲間がいなかったら、僕の心は折れていた。

 助けて欲しいって、言うのはすごく難しいことです。人に弱みを晒すようだし、どこからか「自分でなんとかしろよ」って声が聞こえてきそうです。でもそれが言えるか言えないかで、人生は大きく変わります。僕の場合、ひょんなことから「助けて欲しい」と言うことができました。そして沢山の人たちから助けてもらいました。

 災難は、突然訪れます。僕の火事もそうでした。日常が一瞬で暗転します。突然、住むところがなくなって、着るものも、お気に入りのマグカップも、子どもたちのぬいぐるみも、全部なくなります。明日のことが全く分からない。なにから手をつけたらいいか分からない。そんな“ないない尽くし”の渦の中、あっという間に思考停止になります。現実がタフすぎて、情報を処理できなくなりオーバーフローしています。こういう局面には強いと思っていましたが、家屋ほぼ全焼はさすがに手に余りました。そんな脳がフリーズしている僕を見かねて、火事の当日から、「助けて欲しい」っていうことを「助けて」くれた仲間がいました。被災地の復興を支援してきた一般社団法人・FUKKO DESIGNを一緒に立ち上げた2人の仲間でした。

 その1人は、木村充慶さん。TBWA HAKUHODOの社員にしてFUKKO DESIGNの設立理事。あの日の朝、僕は仕事のために千葉に向かう車の中にいました。そのときに一緒にいたのが木村さんでした。それは何よりの幸運でした。なぜなら自分の家が火事になったことを、木村さんにも強制的に共有することになったから。なってみると分かるのですが、驚くほど、自分が火事になったことって、人に話せません。恥じるような気持ちもあるし、どこか後ろ暗いというか、悪いことをしたような気になるんです。でも木村くんは一緒にいる訳で、一報を受け取るところから共有したわけです。そして現場にもほぼ同時に行きました。だから僕が狼狽していたり、気持ちが揺れているのをばっちり木村くんには見られている訳で、そういう意味では丸裸な訳です。木村くんは広告代理店に勤務しながらも、いろんな被災地にでかけ、泥かきをしたり、被災者を支援する活動を行ってきた百戦錬磨の災害ボランティアでもあります。その彼は、火事の当日、何より大切なアドバイスをしてくれました。

 「河瀬さんは何でも自分でやろうとするタイプで、助けてもらうのが苦手だと思います。でも今回は助けてもらったほうがいいです。そのぐらい大変なことです」

 さすが木村くん、僕のことをよくわかっています笑。たしかに、木村くんに話せてなければ、まずは自分でなんとかしようとしたと思います。でも...今から考えて、そんなの絶対に無理なんです。だから木村くんが火事になったその日にこの言葉をかけてくれたことで、すごく楽になりました。そうか、人に頼ってもいいんだって。でも正直、どう頼ったらいいのか、よくわからなかったです。助けてもらうことに慣れていないし、そんなことを言うのは厚かましいかもしれないしって、思ってました。

 その助けてもらうための仕組みを作ってくれたのが、もう1人のFUKKO DESIGNの設立理事・磯田美菜さんでした。火事の2日後、大学受験に行かねばならない息子のために、彼女は市中を探して鉛筆削りと英語の辞書を買ってきてくれました。

 彼女は会社の後輩でもあり、火事が起きた時、沢山の仕事を一緒にやっていました。だから火事になってすぐに連絡をしました。いくつかの案件が動いてましたから。その時、僕はまだ仕事はできるとどこかで思っていました。でも彼女は、すぐさま僕の無謀を見抜き、制止しました。3週間は仕事は休んだほうがいい。家のこと、家族のことに集中したほうがいい。客観的にみたらもちろんそのほうがいいんですけど、こういうときほど、人に迷惑をかけたらいけないって思うんですよね。でも彼女の一言で、はっと我に帰りました。そうだ、自分はいまとんでもない窮地にいるんだって。

 この自分を客観視する、ということってそもそも難しいことです。これが大きな困難の最中にいるとより難しい。そしてこれはなかなか身内では無理だと思います。親や兄弟、親類は、いろんな気持ちを抱えるので、当事者に近くなってしまいがち、というかある意味では当事者のように混乱していることも多いと思います。

少し踏み込んで客観視をくれた木村くんと磯田さんの他にも、大切な言葉をかけてくれた人たちが沢山いました。その言葉で自分の見えている風景を補正し、なんとかやってきた。そうでなければ自分で自分を混乱させて、立ち行かなくなり、心が折れてしまっていただろうと思います。この記事を書こうと、LINEでのやりとりを遡って読みました。2人の想いがそこにはあふれていて、涙がでそうになりました。

 この家が解体される前に、家族で写真を撮ったのですが、木村くんと磯田さんともこの傷ついた家で写真を撮ってもらいました。宝物がまたひとつ増えました。

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