見出し画像

海霧が半島の山を超えてゆく

大分県大分市東端の佐賀関半島は、南側は太平洋、北側は瀬戸内海に面している。この半島では梅雨の時期から夏にかけて、海霧が出る。主に太平洋側で発生するようだ。北上してきた黒潮の温度が十分に上がりきっていない海水面に、温かく湿った大気が接すると、その温度差で霧が発生する。そこに南からの風が当たり、海の上の霧が風に乗ってふんわりと半島の山を越えていく。その様はとても幻想的だ。

この半島の先端は三角形の形をしている。標高は高いところで198m。半島をぐるりと一周するように県道が通っており、海霧が半島の山を越えていく時にこの道を通ると、霧の中を移動できる。
実際に霧の中を歩いてみると、顔に小さな水の粒子が当たって気持ちがいい。ミストサウナとまではいかないが、自分が霧の中にいることを体感できる。

半島の標高の高いところに通った道路が霧に包まれる

漁港の中の霧も幻想的だ。霧に音が吸収されるからなのか、霧の中に船を出す漁師があまりいないからなのか、いつもよりも静かに感じる。遠くで大型の船の警笛が「ボー」っとくぐもったような音で聞こえてくる。それもまた心地よい。

霧に包まれた漁港

この海霧が出たとき、山や畑の中に張った蜘蛛の巣があらわになる。巣に細かい水滴がついて、水玉模様の巣が出現するのだ。普段はどこに蜘蛛の巣が張られているかなんて気にもしないのだが、この時ばかりは、いたるところにある蜘蛛の巣に目が行く。小さな水玉を抱えた蜘蛛の巣を見ていると、着物や浴衣の蜘蛛の巣文様は、幸運を引き寄せる図柄として描かれていたことが多かったよなぁ、と頭にかすかな記憶がふんわりと上がってくる。
水玉模様のたくさんの蜘蛛の巣を見ていると、幸運を引き寄せてくれるモチーフがたくさんあるように見えてきて、ラッキーな気持ちになる。

アジサイの花の近くの蜘蛛の巣に付いた水滴

こんなに素敵な佐賀関半島の海霧だが、いつ出現するのか分からない。そして、海霧の幻想的な雰囲気をいくら熱く語っても、この良さがなかなか伝わらない。今のところ私だけが知っているお楽しみとして、海霧を愛でている。

2023.08.12

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?