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阪神日本一と岩崎優投手と『アイキャントライ』〜必ず辿り着けるよ その時は笑って〜

2023年9月14日、阪神が「アレ」した。18年ぶりに。
2023年11月5日、阪神が日本一になった。38年ぶりに。

阪神タイガースは、先祖代々応援してきた球団。
河野家は、わきにわいた。
それだけじゃない。

優勝する瞬間、
CSを突破する瞬間、
日本一になる瞬間、
そのすべてのマウンドに岩崎優投手がいた。
彼の登場曲は『アイキャントライ』。
河野万里奈――私の曲だ。

こんなシナリオを書いたのは誰だ?
できすぎだ、素晴らしすぎる、信じがたいよ。
神様じゃない。
このシナリオを書いたのは・・・


2005年9月29日、阪神が優勝した。

中学生の私は福岡に住んでいた。
学校でのコミュニケーションに挫折し、
歌手になりたいという夢を自覚しながら誰にも言い出せず悶々、
歌番組は悔しくて見られない、
そんな私を癒してくれたのは野球だった。

特に鳥谷様(鳥谷敬選手)。
そしてSHEと呼ばれたリリーフ陣の一角・江草仁貴投手。
いつか大人になったら、こんな人間になりたいと思った。
決してド派手ではなくリップサービスもしないが、
確かな鍛錬からくる堅実なプレーでチームに貢献する。
そして仲間にもそれを認められ愛される。
10代の私にとって、その姿はまさに救世主。ヒーローだった。

そして妄想した。
大好きな選手と歌手・河野万里奈が対談する記事。Microsoft Wordで書いた。
大好きな選手の登場曲に河野万里奈の楽曲が使用されるシーン。眠る前に何度も思い描いた。
いつか大好きなチームの優勝を他人事として喜ぶだけでなく、
歌手として携われる日が来たらいいのにと。

夢という言葉には、2つのニュアンスがあると思う。
絶対叶える「目標」という意味での夢。
そしてきっと叶わない「空想」という意味での夢。

私のそれは後者だった。
藤川球児さんとLINDBERGさんの「every little thing every precious thing」を甲子園で熱唱した時から、
私の一番の夢はここだ、と確信していた。
でも、きっと叶わないんだろうなと思っていた。
あの景色は、作ろうとして作れるものではないから。
道のりがあり、実績があり、お人柄があり、
そこに「ご本人が好きな曲」として楽曲が重なってこそ、完成する景色。
何より主役は野球選手だ。私に選択権はない。
針の穴を通すような夢だった。
叶わないんだろうなと。
そう思いながら、それでも叶えたくて歌い続けて。


そこに颯爽と、ひとりのヒーローが現れた。
彼は長い手足に低い重心、
見たことがないほど芸術的な投球フォームをしていた。
多くを語ることはなく、ただその左腕で私たちを説き伏せる。

決してド派手ではなくリップサービスもしないが、
確かな鍛錬からくる堅実なプレーでチームに貢献する。そして仲間にもそれを認められ愛される。

いた。
ヒーローは、この時代にもいたんだ。


岩崎優投手。
2014年に阪神タイガース入団。背番号67から13へ。
低い所から低い所に突き刺さるストレート。
目が「へ」の形になるTHE「優」な笑顔(河野調べ)。

忘れもしない2019年7月23日、
岩崎優投手は登場曲を『アイキャントライ』に変更。
それは岩崎投手にとって、勝利の方程式入りした象徴的なシーズンだった。
そして私にとっては、初めて自分で作詞作曲した音楽がCDとなった勝負の再メジャーデビューシングルだったんだ。

チームはといえば、
2019年3位、2020年2位、2021年2位、2022年3位と、
毎年CS進出するも頂点には届かなかった。
その度に岩崎投手の悔しい表情を見てきた。
もちろんファンとして画面越しで。

私が今でも忘れられないのは、
2020年、藤川球児さんが退団された時の岩崎投手の覚悟だ。
当時の岩崎投手は表に立つことも今より少なく、
クールで淡々と自分のお仕事をされるイメージだった。
そんな岩崎投手が「次は自分がブルペンを引っ張っていかないと」と語っておられた。
そして実際に試合前後の練習やキャンプを見ても、
率先して後輩に声掛けをされたり、
助っ人外国人のそばにいらっしゃったり、
ヒーローインタビューで離脱したチームメイトの言葉を「泥棒」して連帯感を提示してくださったり、
とにかく献身的にチームが良くなるように行動をし続ける姿があった。

「クールで淡々と自分のお仕事」のみならず
「熱いハートとチームのためのお仕事」。

さらには、同時に「自分のお仕事」でもタイトル獲得。
中継ぎで12Hを挙げながらチーム状況に合わせて守護神も勤め上げるなんて、人間業とは思えない。35Sでセーブ王。
数字だけじゃない。美しかったんだ。
奪三振率まで向上した今季の岩崎投手のピッチングは、
もはや「応援」を超えて「鑑賞」だった。
個人的には、もう、ハラハラさえしなかった。9回1点リードでも。
綺麗だな・・・今日はどのコースでどんな打ち取り方を見せてくださるのですか・・・?そんな気持ち。
岩崎投手の一挙手一投足が、私にとってすべて正解だったから。
数少ない打たれた日も、一つたりとも異論がなかった。
この一球にはどんな意志が込められているんだろう?
まるで美術館で絵画を見てその一筆から表現を読み取るように。
30歳を超えて、リリーフ投手で、こんなにも進化し続けることが可能なのかと。圧倒されるばかりだった。

岩崎優投手のそんな姿を見るまで、
プロ野球のペナントレースは
「一人の力ではどうしようもないもの」
「いつどこのチームに誰と属するかなど運もあるんじゃないか」
という勝手な印象があった。
それほど複雑に要素が絡み合う過酷な戦い。
でも今回の阪神タイガース日本一は、
確実に岩崎優投手の力で作り上げたものが大きく作用していると思う。
有言実行。
挑むと決めたら必ず辿り着く。
すごすぎる。すごすぐる。
そんなこと、一人の人間にできるんだ。


そして岩崎優投手はそんな戦いの相棒に『アイキャントライ』を選んでくださった。

『アイキャントライ』はもともと、
鳴尾浜球場で書き始めた曲だ。
私自身の再メジャーデビューが暗礁に乗り上げ、
一人でも何かできることはないかと考えた時に、
大好きな題材をモチーフに曲作りをしようと。そうして生まれた。
当初は宅録してSNSに投稿することしかできなかったが、
2019年に決死のアプローチの末、再メジャーデビューシングル『真人間入門』(初回限定版)のカップリングに収録された。
全部、もう歌手人生最後の覚悟でやったことだ。

そんな『アイキャントライ』を連れ出してくださった岩崎投手。
一人ではどうしようもなかった夢を叶えてくださった岩崎投手。
それも、おこがましいようだが、
歌詞をまるでそのまま体現してくださるような形で。
シーズン中は変なフラグを立てないようにと我慢していたが、
もう言える。
ついに辿り着いた。
胴上げ投手は岩崎投手。
世界一美しいぜ岩崎投手。

食いしばる歯にリフレクト
勝ち星がキラリ☆
I can't lie
I can try
挑み続けるあなたに栄冠を

成功とその何十倍の失敗
歓声とその何十倍の愛のムチ
わかっていても美味しくなんて飲み込めないよ
そうでしょ?
人はよく例えを探して
「あの人みたい」なんて言うけれど
あなたにはあなただけの輝きがあるって
わたしはずっと愛している

夢を見ては
正反対の日常生き抜いて
それでも勝ち取りたい
この想いに嘘はつけなくて
泥だらけの縦縞こそが世界一美しい
食いしばる歯にリフレクト
勝ち星がキラリ☆
I can't lie
I can try
挑み続けるあなたに栄冠を

一つ成し遂げたあとの
あなたに笑顔なんかなくて
「死ぬ気で戦う」言葉通りの覚悟を知った
Today's game

夢を見ては
正反対の今日が襲うけど
「アイツは絶対やれる」って
信じてくれる声嬉しくて

欲しいものは何かと聞かれたならもう迷うな
貫いた心に
勝ち星は光る☆
I can't lie
I can try
挑み続けるあなたに栄冠を
必ず辿り着けるよ
その時は笑って

『アイキャントライ』歌詞

優勝する瞬間、
CSを突破する瞬間、
日本一になる瞬間、
そのすべてのマウンドに岩崎優投手がいた。

『栄光の架け橋』にバトンを繋いだ試合があり、
ビジター球場で登場曲が流れない試合もあった。
それでも、そばにいたはずだ。
私たちには聞こえていたはずだ。
『アイキャントライ』が。

こんなシナリオを書いたのは誰だ?
できすぎだ、素晴らしすぎる、信じがたいよ。
神様じゃない。
岩崎優投手だ。
このシナリオを書いて実現できるのは、
世界中探しても岩崎投手しかいない。

いつか老いても、私は2019年~2023年にかける一連の物語を忘れない。
この気持ちを、絶対に忘れない。

そして、これで終わりにしない。
私は私の人生に、挑み続ける。



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