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『空の青さを知る人よ』を久しぶりに観た。

 書いていた雑誌が無くなり、さらにコロナ禍にもなり、ひとりで考える時間が増えた。ニュースリリースをコピペするような記事を作る仕事で食い扶持をつなぐなか、10年前の俺が今の俺を見たら、どう思うんだろうっていう妄想をよくしてしまう。今の俺は「今の俺なりに頑張ってる」っていうと想像がつくし、10年前の俺はそんな俺にキレるんだろうなって想像もつく。

 そんななか、配信サイトで映画『空の青さを知る人よ』が見放題だったので久しぶりに観直したら、まんまそんなシーンがあって笑ってしまった。そういえば、こういう映画だったな。あと、やっぱり太眉ヒロインいいな。

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 最近公開された映画の『花束みたいな恋をした』で仕事に疲れた主人公が自分の趣味であるエンタメを楽しめないシーンがあったが、『空の青さを知る人よ』は好きなエンタメを仕事にしているもののうまくいかない人間の物語だ。

 ミュージシャンを目指して上京した男・慎之介は、演歌歌手のバックバンドの仕事で帰郷する。(ちょっと境遇がFF7のクラウドっぽい……)

「今の仕事に先があるわけでもないし戻ってこようかな」と語る慎之介に、「今の時代に30なんてまだ若造でしょ。これから、これから」と語るのは家庭の事情で上京せず地元に就職したあかね。「自分もまだ夢を諦めていない」と慎之介を励ましたあかねは、彼が去ったあとにひとりで泣く。

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 過去の慎之介が現代の慎之介に「将来、お前になってもいいかもしれないって思わせてくれよ」と説教するシーンは熱く、この映画の見どころだと思うのだが、2021年の今、「そうは言ってもな」と感じながら観ている自分がいた。

 映画に限らず、いいフィクションというのは感情移入できるキャラクターがそれぞれ違うものだと思うが、自分は大人の慎之介に感情移入してしまった。エンタメの世界に身を置くのは成功か失敗しかないのか。もっとゆっくり人生を歩いてもいいんじゃないか。折り合いはあるべきじゃないかと考えた。

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 演歌のバックバンドが音楽の仕事のひとつでもいいし、上京するだけがプロの道でもない。地方公務員のあかねが泣く必要もない。シンジくんも綾波と農業やったっていい。

 「家、ついて行ってイイですか?」のイノマーさんのように命を燃やし尽くすことでしか本当の意味で人の心は動かせないのかもしれない。

 でも、人生は長いし、多様性に満ちていて、人のつながりもそんな簡単に切れたりしない。頑張れば報われるけど、頑張らなくても、それなりに安心だよ。っていう世の中になってほしい。だから自分は久しぶりにこの映画を観て、慎之介とあかねがふたりで語る優しいシーンがいちばん印象に残ったのかもしれない。

カワちゃんの晩ごはんのおかずが増える……!?