消えた北大路

「西大路と東大路の間に大路があったのですか?」

「そうです」

「北大路や南大路はありません、そしてただの大路という地名もありません」

「それがあったのです」

「西か東の文字が欠けていただけじゃないのですか」

「違います。大路会館があったり、バス停も大路でした」

「あなた、何処へ行って来られたのですか」

「北大路へ」

「だから、北大路はそこにはありません。先ほど言いましたね。南大路もありません。あるのは西大路と東大路だけ」

「別れる前の地名ではありませんか?」

「何が」

「ですから、西と東とに別れる前は、ただの大路」

「いや、そういう意味じゃなく、大きな道があったのですよ。だから大路。その道の東と西の違いです。少し長い通りです。それで分けたのでしょ。それに大路は通称です。元々の地名がありましたが、それはもっと広い範囲を指していました」

「はい」

「それよりもあなた、ありもしない北大路へ行かれたのですか」

「はい、北大路へ行きたいと思い、行きました」

「それは西大路か東大路の間違いでしょ」

「そうだったのかもしれません」

「だから、なかったでしょ。北大路なんて」

「そのかわり、大路がありました」

「それはただの道の名前です。しかも大きな道という程度で、道の名としてもしっかりしたものじゃない。これは昔の新道。町屋が並んでいた程度です。そして周囲の道幅に比べ、広いので、大通り。だから大路大路と読んでいた程度。しっかりとした名前じゃありません」

「じゃ、大路会館や、大路バス停は」

「何の会館です」

「さあ」

「新しく建ったものでしょ。バス停の大路はあったかもしれませんよ。西大路と東大路の間ぐらいに。しかし、そんな町はありません。それでどうでした」

「え、何がです」

「ですから、西大路か東大路へ行かれたのでしょ。そこを北大路と間違えて」

「はい、さっぱりです」

「さっぱり」

「様変わりしていまして、昔の面影など何も残っていませんでした」

「そうですなあ。あの通りは道こそ広いですが、中心部から少し離れていましたから、開発も早かった」

「はい」

「それで、どんな思い出がありました」

「学生時代です。友人がそこに住んでいて、原付バイクを貰いに行きました。やるというので。しかしバッテリーが切れてまして、それを押しながら、その大通り沿いにあるバイク屋へ持っていきました。そこから乗って帰ろうと。しかし、故障箇所が多くて、マフラーなんて錆びて穴が空いていました。だから、修理は無理だと言われましたよ。あまり親しい友人じゃなかったし、目上だしで、文句を言うわけにもいきません。それで、捨てて帰りました」

「はい」

「その大通り、そんなバイク屋などもうありませんし、休憩で入った木造二階建ての喫茶店もありません」

「じゃ、そこまでどうやって行かれたのですか」

「電車で来て、駅前からバスで」

「あ、そう」

「友人の家は北大路にありました」

「それはきっと西大路か東大路の間違いでしょ」

「そうでしたね」

「そうです」

 

   了

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