川崎ゆきお

漫画家

陰気陽気

来し方の様々な思いというのがあり、どの頃がよかったのかと、田村は友人に尋ねた。
 それは色々あり、あの頃はよかったと思えることはいくらでもあり、特定できないという。それほどいい思いを過ごしてきたのだろう。いいことは忘れ、悪いことばかりを思い出す人ではなさそうだ。
 田村は悪いことを忘れない人で、いいことは忘れる人。これは友人とは対照的。
 君はどの時代がよかったかねと友人に訊かれ、田村は数少ない中

もっとみる

普通

「あの人は普通にしておれば強いのですがねえ」
「そうですねえ、まずは負けないでしょ」
「負けないことは強いこと。しかし、なぜ普通にしないのでしょうねえ」
「色々と思うところがあるからでしょ」
「思いすぎて、空回りする」
「いやに攻撃的になったり、逃げ腰になったりと」
「それが作為的すぎのでしょ」
「作戦でしょ」
「それが外れるから負けるのです」
「はあ」
「普通にしておりゃ勝てるのに。勝てないまで

もっとみる

社神

西村は一流企業の正社員だが、業種とはまったく関係のない仕事をしている。そういった雑用的なことは珍しくはない。そのため、社の本業と関わりは何もない仕事なので、業務内容に感しても疎い。よく耳にする企業なので、誰でも知っている。それでその業務と関連付けた印象を人に与えてしまうのだが、関わっていないのだから、詳しいことは分からない。
 その社にいるからといって、その社らしい人とは限らない。
 西村には同僚

もっとみる

丸い石

妙見坂を登ると轟町に入る。昔この坂の近くに妙見堂があったらしいが、今はない。ただ石饅頭程度を祭った祠はあるが、妙見さんとは関係がないようだ。しかし、妙見堂よりも古いらしいが、詳しいことは分からない。ただの石饅頭で、何を祭っているのかはもう誰も知らないし、この程度ものは記録にさえ残らないだろう。
 妙見堂が建ったのは江戸中期とされており、これは建てたお寺の記録に残っている。寺が建てたのだが実は神社。

もっとみる

訳の分からない人

友田はある日突然気落ちしたような気分になる。これは上へ行くほど落ちるようだ。登った分だけ落ちるのだろうか。しかし、かなり落ちる。実はこの降下気分を味わいたいがために登るのだろう。しかし、そんな気はないのだが、ある程度上り飽きたところで、すっと落ち出す。まるで気落ちしたように。
 気持ちが落ちる。沈む。これは何かと考えた。頂上が見え始めた頃に、それが起こるようで、目的とするものが、すぐ近くに迫ったと

もっとみる

寝る前

夜も深まっている。まだ寝る時間ではないが、この時間帯には既に眠りに入っている人も多いだろう。田中は夜更かしが日常化しているので、その夜も普段通りで、今布団に入ると逆に早寝となる。だから遅い時間帯だが決して夜更かしだとは思わない。
 いつもの寝る時間を過ぎてもまだ起きていると、これは夜更かしになり、そろそろ寝ないといけないと思うだろう。翌朝いつもの時間に目が覚めたとしても、夜更かし分睡眠不足になる。

もっとみる