「サイエンスカフェ」を体験してみて

 生まれて初めて「サイエンスカフェ」なるものに行った。
 「サイエンスカフェ」が何なのか全然知らなかったけど、夫が「若い子を中心に来てほしいみたい」と、高校生息子を誘っていたので、私には無関係。どうぞお二人で。と思っていたら、申し込んだ後に息子のテストがサイエンスカフェの翌日にあると知り、じゃあ代わりにと私を誘ってきた。でも早野龍五さんが話しに来るというので、定員からあふれて行けないだろうと私は勝手に思い込んでいた。夫も私も「若い子」じゃないし。


 でも前日に、夫が当たり前みたいな顔して「明日サイエンスカフェだから、○○(息子)には留守番してもらわないとね」と言ってきた。
 えっ? 行くの?
 ……アラーン。本当にぃ?

 気が進まなかった。だって中学の途中から理科がすっかり苦手になった私にとって、サイエンスだなんて、話を聴いているうちに眠くなること必至!

 実感がないまま当日を迎え、車に乗り、その場所に向かった。
 全然実感もないし、意欲的にもなっていない。何となく夫についてきただけだ。「寝ちゃったらどうしよう」「きっと寝ちゃうよ」「眠気覚ましに途中で退席して戻って良いだろうか」「トイレ近くにあるよね?」……集中して聴き通すことはできないだろうというのが私の中の前提であった。夫も「良いよ、大丈夫大丈夫」と私を軽くいなしていた。

 市のカルチャーセンターみたいな部屋を想像していた。そこでお菓子やら持ち寄ったものを長テーブルに広げ、近くのお湯をもらって紅茶とかコーヒーとかを紙コップで飲みながら話を聴く。椅子はパイプ椅子。各長テーブルに椅子は2~3脚ずつ。それが3~5列くらいかな。という貧しい想像のまま入ってみたら、素敵なカフェの一部屋を貸し切ったものだった。

 こんな素敵な所で、こんな間近で話を聞くんだ。寝たらどうしよう!!……私の「寝る」前提は、まだそこでは覆ることなく、かなり強い心配に変わっただけだった。

 しかし色々とプリントした冊子を配られ、そこには自分でメモできるような空白がたくさんあり、さらに「終わったらテストしますね」とおっしゃる早野センセの言葉。苦手分野で、何十年も遠ざかっていたような私が話を聴いてテストをするぅ?! 寝るどころではない。唐突にプレッシャーを感じて目はギンギンに。

 話の内容は、「加速器」のこと。……カソクキ? そう、加速器。

 東北地方の北上山地辺りに建設するかもしれない。しないかもしれない。というものがあるということは知っていたけど、それが何なのかわかっていなかった。それが加速器だったのかあ! ……とはならない。だって加速器の意味がわからないんですもの。
 でも8年ほど前、当時小学生だった息子が、化学に対して異様なほどの興味を示し、ポカン顔の私に懸命に説明してくれたことを色々と思い出す内容だった。自分が高校生時代に勉強したことなんか覚えていないし、当時から超がつくくらい苦手だった分野なので、息子の説明を思い出して感謝した。おかげで、少しばかり言いたいことがわかる!! 人の説明を聞くことが極端に苦手な私でも、早野センセがわかりやすく噛み砕いた話し方をしてくださったこともあり、さらにテストを控えたものだから相当な集中力で聴き、面白く興味深く感じた。
 でも途中から熱が入ってきた早野センセ、化学式だの計算を持ち出してきた途端。脳内でシャッターが閉まった。「閉店ガラガラ!」。という声が聞こえた。気がする。そしてサンドウィッチマン富澤が「ちょっと何言ってるかわからない」と立て続けにつぶやいている。気がする。早野センセと何度も目が合ったが「あの人、急に遠い目になったなあ」と思われていたことだろう。

 終盤は、現実的な話になったので、何とかまた意識が戻ってきたが、それでも難しく疲労感いっぱいになった。脳が溶けるかと思った。

 そしてテストが配られた。
 本格的なテスト形式ではないため、皆ざわざわしている。最初に配られた冊子をめくる。私も自分がメモしたものを見ながら解こうとした。この問題の問いかけてくるもの! この話は聞き覚えがある! わかるわかる! 確かこの辺りのページで話してた! ちゃんと私、話を聴けていたんだ! と嬉しくなった。でも嬉しくなったのは一瞬だった。……答えがわからない。色々メモっているのが、どうやらピント外れのようである。テスト問題にされている周辺情報ばかりを私はメモしていた。ああ肝心の答えとなる部分を私は書いていないではないか! 天を仰いで頭を抱えたい。苦手ってこういうところに表れるのね。「へー!」と思ってメモしている部分がことごとく核心をついていない。まずいぞ。全部答えられない。計算式が出てきたところ以外はちゃんと聞いていたのに!! 
 向かい側に座っている夫は、ガリガリと書いている。ああなんだか式も書いている。真似ようにも何書いているんだかわからないから、茫然と夫の答案用紙を眺め、ただ鉛筆を握りしめていると、「回収はしない」という情報がカフェ内を駆け巡った。「えっ?回収しないの?」「回収はしませんよ」「ああ回収しないんだ」「回収しなくて良いんだって良かった」「持ち帰るのね」皆が私の気持ちを代弁してくれているのかと思った。あの様子だと多分参加者の7割は、テストができなかったに違いない。でも私ほどかどうかは……。


 その後、早野龍五さんはお忙しくて、すぐにそのカフェを後にした。肝心な人物のいないナゾの懇親会に加わり、妙な距離感で周りの会話を結構楽しんで聞いていたが、夜遅くなってきて、留守番させている息子のことも気がかりで、そこそこに帰ってきた。
 でも少しは何を話しているのかわかったし、加速器が何をどうしようとしているのか少しは理解できた。もう忘れそうだから、また時々冊子を眺めて「なるほど」と思ったりするけど。
 知らない世界をのぞくのは面白い。難しい話でも自分がどこか理解できる部分があると、それに知識を足された気がして気分が良い。ほんのちょっとだけでも良い。知らないことを知ろうとするのは、世界が広がる。自分が広がる。年を取ってもこの意識を持っていたいなあ。そんなわけで、面白かったぞ「サイエンスカフェ」!

#サイエンスカフェ #早野龍五 #加速器

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。