見出し画像

ウェブトゥーン考

9/26の日曜日に放送されたHON.jp News Casting。今回はジャーナリストのまつもとあつしさんをお呼びして、2時間スペシャルでした。前半はYoutubeでアーカイブを見ることができます。『【特番】これからどうなる? 電子マンガ大躍進、けれど無くならない海賊版』。

後半は有料イベントで、視聴者側から飛び入り参加もしてのトークとなりました。僕は仕事中だったので、リアルタイムの視聴はできなかったのですが、チケットを買っておいて後半も見ました。非常に盛り上がっていて、面白かったです。

その中で大きく取り上げられたのが、ウェブトゥーンの話題。縦書き漫画についてです。

前半後半ともに取り上げられていたのですが、大雑把にまとめると、横書き漫画と縦書き漫画を本質的に違うものとして捉えている流れ。「漫画とアニメの中間に来るものなのではないか」という話もありました。

僕は、今ちょうどまさに縦書き漫画のお仕事を手伝っていて、書き手の感覚としての違いを感じています。番組内で語られていた違いに、そこから来ている部分があるような気がしたので、今回はそれについて書いてみよう、と思った次第。

目立つ特徴として一番大きな違いは縦書きか横書きか。ただ縦書きなのは、単に最初に載せる媒体がwebブラウザだった、というところからきているんじゃないか。日本で縦書き漫画を展開したのは、基本的に韓国系の企業です。韓国では日本の週刊少年ジャンプに代表される、大部数漫画雑誌はありません。ですから、雑誌掲載→単行本化を捨てられなかった日本と違い、掲載媒体としてすんなりwebを選び、そしてブラウザに最適化できた。ブラウザが縦にスクロールするんだから、それに合わせた形に。

ただそのweb最適化をしたところから、大きな違いが生まれていると感じます。特に人々の使うデバイスの主流がスマホになりました。横書き漫画はいまだに紙の雑誌をベースにしたサイズ感で描かれているので、電子版を買ってスマホで見ようとすると、作家さんの描き方次第では小さくて読みづらかったりします。対して最初からwebネイティブの縦スクロール漫画は、スマホ画面のサイズ感に合わせることに躊躇がない。一画面に一コマみたいな構成が普通です。そこまで大きく描けば、当然読みやすい。

カラー化されているのも、印刷コストが存在しないwebならではです。このweb最適化は人気の一つの要因ではないかと思います。

しかし、最適化は話の進め方に大きく影響します。

紙の漫画の場合、見開きがパッと目に入ることを作家は意識して構成しています。ストーリー展開だけでなく、見開き画面のどこにどの絵を配置して情報を伝えていくのかを計算しているのです。

ウェブトゥーン作家さんも当然計算しているはずですが、その時のベースは見開き単位ではなく、縦にスクロールして順繰りに表示したときです。

例えば荒木飛呂彦先生の、『ジョジョの奇妙な冒険』をイメージしてみてください。ぱっと見た時の特徴は独特の絵柄ともう一つ、普通は読者が離脱してしまうから敬遠される、フキダシにみっちり詰まった長ゼリフ連発を個性的な言い回しで成立させていることです。

何か設定が絡んだ説明が始まったとします。大量のセリフを、絵で緊張感を作り、異色の例えなどを使って引っ張ります。ドドドドド(効果音)盛り上がってきました。ページをめくります。まだ続いています。そしてとうとう「◯◯だッッ!!!!」「なにいいッッ!!!!」ズギャアーン(効果音)。ここでシーンが始まってから4ページ目の最後。ありそうですよね?

この間動きはあまり無し。最後の絵を目立たせるためには、手前は抑えます。でも、読者は一回ページをめくるだけで決めゴマに出会うので、これぐらいなら離脱はありません。

ところが、もしこれをスマホ対応ウェブトゥーン方式で描くとすると、セリフ詰まり過ぎてますから分割するでしょうし、一画面一コマペースの表示だし、さらに、見やすくするためにセリフだけ見えるように描く方式が多かったりするので、決めゴマにたどり着くまでに、下手すると30回以上スワイプすることになるんじゃないかと思うんですよ。これは読者離脱の危険がある。この描き方はできない。

つまり、ぱっと一目で目に飛び込んでくるコマ数が違うことにより、読者が我慢できる長さが違うんじゃないかと思うんですよね。見開き横書き漫画でも、説明ゼリフが多くて長い展開は何とかならないかなと気にします。荒木先生を例に出したのは一番特徴的だからですが、ああやっていろいろ工夫して引っぱっていく。でもスマホ最適化しちゃうと、それでも難しいのではないか。

そうすると、必然的に刺激の来る間隔を狭めないといけない。刺激をもりもりマシマシに。

設定も説明的なところはなるべく省き、刺激的な部分をより強く押し出す。感情のやり取りが人間には一番刺激的なので、ばんばんぶつからせる。ウェブだと読者の離脱について正確なデータが取れるでしょうから、どんどん淘汰圧がかかると思われます。

こうして、見開き、もしくは1ページ表示の従来の漫画と、コマ表示のウェブトゥーンは、描く中身からして違ってきているのではないか。

ウェブトゥーンが従来の漫画と本質的に違うのでは、ということに関して、番組中ではまつもとさんが「動物的」、鷹野さんが「エモい」という表現をしていましたが、たぶんこれのことじゃないかなあと思ったのでした。

(ブログ『かってに応援団』より再録)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?