【インド/アラハバード編】小さな裏路地物語⑤
この物語は、僕が旅をした中で、路地裏や道端で遭遇した人とのエピソードの1シーンを綴ります。実際に書いた千夜特急では出てこなかった方もいます。もしよろしければ、旅を彩る短いストーリーを小説風味でお楽しみください。
(思い付きで書いているため、時系列はバラバラに紹介していますが、その点はご了承ください。)
あらすじ
混沌の国インドに入り、最初の町であるコルカタ、そして二番目の町であるブッダガヤに行った時のことだった。
そこは小さな田舎町だったが、名前の通りブッダが悟った地として多くの人に知られている。
そこの瞑想センターに行った際に出会った男マニッシュ。彼はセンターのスタッフとしてそこに滞在しており、僕は瞑想修練を終えた後、アラハバードにある彼の家へと招かれた。
そこで彼の友人であるシッダースと共に、聖なる川が交わるサンガムという地へ案内された時の話になる。
サンガムの船頭
「どうだ?大きな橋だろ?」
シッダースは得意げにバイクを走らせながら、その車体を歩道の方へと近づける。その揺れに少しばかり驚きながらも、僕はバイクの後ろにまたがりながら川の水面へと視線を向けた。
水面までの距離はかなりあるが、それ以上に小舟がを埋め尽くす光景に度肝を抜かれる。そして視線をそのまま川辺に移すと、陸地にはそれ以上の人々が密集していた。
『・・さすがインドって感じだね』
僕は後部席で小さく呟いたが、どうやら風にかき消されたようだ。シッダースはそのままバイクを走らせながら橋を渡り切り、そして左に曲がって川辺へとバイクを進める。舗装はされておらず、車以上のバイクの数が辺り一帯を行き交っている。
シッダースはバイクを川辺まで進めると、適当な場所で進行を止めた。
「ついたぞ、さぁここからは歩こう」
僕はシッダースにお礼を言った後、バイクの後部席から降りた。
バイクの止まり具合からして、ここは駐車場なのだろう。しかし特に管理をする人がいる気配もなく、彼はそのまま川辺に向かって歩き出す。僕はそこに深い注意を向けることなく、彼と共に人々が集う川辺へと歩いて行った。
川辺が近づくに連れ、僕の視界は人々で埋まっていく。そして外国人の僕を見るや否や、様々な客引きが押し寄せてくる。その都度シッダースが現地の言葉で追い払い、僕は観光客の見えないサンガムの川辺を歩いていく。
水の色は泥で濁っており、その近くで大きな象が一頭歩いていく。布で装飾されているあたり、あれはきっとお金を払って乗れるものだろう。
しかしシッダースは象に視線を向けることすらなく、小さな露店の前で足を止めた。古びた木で作られた棚の上には、水をくむボトルのようなものがサイズ別に置かれている。
シッダースはその中で一番大きなボトルを手に取ると、少し太陽の光にかざした後、半裸で座る店の男にお札を渡した。そして一仕事終えたように、水辺にいる暇そうな船頭に向かって手を挙げた。
船頭の男は老人だが、体つきはがっしりとしており、舟を何十年も漕いできたような貫録を持っている。シッダースはヒンディー語で彼と何度かやり取りすると、船頭は乗れというしぐさをした。
僕らがその小舟に乗り込むと、船頭の老人はこちらを向き、慣れたようにオールを漕いで舟を進める。その瞬間、彼と視線が重なった。
「そのあんちゃんはどこから来たんだい?」
横のシッダースが僕を指さしてヒンディー語で話を進める。その緩やかな時の流れに、僕はしばしの間、身を任せた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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