舟が寄り添ったときだけ桟橋は橋だから君、今しかないよ/千種創一

 歌集『砂丘律 』より。
 一読して青く静もる夜の湖畔を思い浮かべた。
 「舟」とは「君」か、はたまた詠み手自身のことか。「君」との間には何か躊躇するような(おそらく避けては通れない)ことがあり、ひいて二人の関係性の変化も予感する。惑う心や、確約のない相手との結びつきに、揺れる小舟のたたずまいが重なる。
 相手を諭すような語り口は、同時に自身にも言いきかせている。四句まではモノローグで、実際に声として発せられたのは結句だけかもしれない。「今しかない」理由なら、きっと「君」も感じとっているだろうから。

舟が寄り添ったときだけ桟橋は橋だから君、今しかないよ/千種創一